幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
当然、後輩は驚愕(きょうがく)した。
「何をおっしゃるのですか!それに、この“洞窟”は『浄界』突然の巨大化は『化身』そして長々とした説得はおそらく『頌歌』に近いもの…!?先輩は一体どれだけの技量をお持ちなのですか…!?」
困惑。
しかし、それに浸(ひた)ってはいられない。
これほど強い姿勢で選択を迫られた以上、選ばなければサイバーカラテ使い(シナモリアキラ・アイドル)の名が廃(すた)る。
それに何より、
「これほどまでの先輩の心遣(こころづか)い…絶対に無下(むげ)にはいたしません!」
と言うわけであった。
けれど当(とう)の先輩は、
「何を寝惚(ねぼ)けたことを…この陣に入り込んだ以上、もはや死は目前!ただの石像として生を終えたくなければ、今すぐ決断するのだモニ子よ。空の御殿(エクリーオベレッカ)の加護と親への未練を捨て、推しと同じ鉄願の民となるか?あるいはそのまま眼前の敵(おいどん)に盲目的な信仰(あいじょう)を捧げて石となるか?さあ、どうする!」
とあくまで厳しい態度を崩さない。
少女力士は、それに真っ向から立ち向かう。
「当然、与えられた中からは選びません!選択肢は自分で作る!それが『ちゃんこ9(私たち)』のアイドル道(サイバーカラテ)!いくら『浄界』に酷似(こくじ)するほどの空間を作っても、ここはさっきの広間のままのはず!他の部員(メンバー)に繋(つな)がる光の道(ルート)だって、まだまだ維持出来ます!」
だがしかしその余裕は、
「維持してるのに…何の問題も無いはずなのに、どうして!」
揺るぎない“現実”によって、脆(もろ)くも崩されてしまう。
なぜならば、
「それは、ここがおいどんの“陣地”、忌(い)まわしき故郷を再現した支配領域(どひょう)の中だからよ!」
洞窟の支配者は、高らかに告げる。
「モニ子よ、お主は『浄界』についてよく知らぬようだ。だが傍流とは言えゾラの血統なら、二重スリット実験をしたことぐらいはあるだろう。『浄界』とはまさにあれの拡大版よ。『浄界』とは即ち理想の具現!単なる環境変化や『創造』による舞台装置(おおどうぐ)とはワケが違う!それは『杖』が至上とする物理法則や常識など容易(たやす)くねじ曲げる。どんな抜け道も扉も、ここでは無意味なのだ。この人体実験(ごうもん)部屋の洞窟ではな。光も!爽(さわ)やかな風や空気も!そして音楽やアイドルの存在さえも!この洞窟は何も赦(ゆる)しはしない!ここは脱出不可能な、救いなき暗渠(いきどまり)なのだ!」
その言葉を受け、後輩はとっさに周囲の気配を探るが、
「そんな…『ハープアジア』先輩の音楽さえ聞こえない!?」
疑問への回答は即座にもたらされる。
「“洞窟”では、音の響きが変わる。それにそこは、常に水の、あるいは誰かのたれ流す“液体”の音で満ちていた。おいどんを見くびってもらっては困るな!サイバーカラテ使いならば反響定位(エコーロケーション)は基本中の基本!ならば、それへの対策もまた基礎の基礎よ。なにせそれは、『シナモリアキラ』が第五階層(ガロアンディアン)初期に多用し、あの魔将エスフェイルとの戦いでも用いた業(ワザ)なのだからな!にも関わらず、それを見落とし無対策だと思い込むなど愚の骨頂!いかに『道場』の補助(アナリシス)が素晴らしかろうと、それ以前に使用者(オーナー)が先入観(のうきん)で戦略を立ててしまっては“豚に真珠”よ!」
「くっ…それでも…諦(アキラ)めません!」
そして、二人の間の空気は見る間に緊迫感を増し、それはすぐに形を変え互いへのしかかる圧力となった。
「フンっ!」
「くっ…負けませんーー!ご存知のはずです!音が掻(か)き乱されることへの対策だって、サイバーカラテにはとっくにあることを!」
その通り。
このように空間音響が乱され通信や状況把握が困難な場合、そして支配領域からの離脱が取極(ルール)上不可能となった場合にも、当然対策は存在する。
単純に、より大きな音なり声なりを発して、向こう側(れんらくあいて)との通信(コミュニケーション)を繋(つな)ぎ直せば良いのだ。
いかに無数の雑音や音を歪(ゆが)める環境があろうと、こちらから大音量を出して音環境を上書きしてしまえば、それらを無視することは十分に可能である。
そして、モニ子たち『ちゃんこ9』には、大音量と相互の合図(つうしんぷろとこる)となり得る技術(ワザ)が、既に存在していた。
ただし、もちろんそれは同朋(せんぱい)たる副主将『大砲(グレートキャノン)』の知るところでもあり…それゆえここで、二人の舞踏(たたかい)は新たなる局面へと移行することになる。
――即(すなわ)ち、四股(スモー・ステップ)対決。
『大砲(グレートキャノン)』の岩の蛇尾が叩きつけられ大音量を打ち鳴らすや否や、その衝撃は見えざる波紋となって大地を渡り、津波のように後輩へと押し寄せていく。