幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
その歓喜(よろこび)の隙(すき)を突き、雷鳴のような衝撃が走った。
『大砲』(グレートキャノン)の四股(スモー・ステップ)が、すかさず大地(どひょう)へと叩(たた)きつけられたのだ。
後輩はとっさにサイバーカラテの業(ワザ)を以(も)って踏み止まるも、流石(さすが)に無事ではいられない。
よろめき、たたらを踏んでしまう。
そこへ、容赦ない呪文(ことば)の追撃が飛んだ。
「その夢は、本当に叶うのか?それは、詐欺同然の空手形ではないのか?」
発言に反応して、画面にド派手なちびヒトガタ(アバター)が出現。
噂をすれば影、先程話題に出た(一時的)出戻りメンバーのナニワゴールドである。
どうやら彼女は、対話の範囲が自分の得意分野(カネのはなし)であると見て、ハッキングによって干渉してきたらしい。
とっさに新しい枠を内部に展開して地下アイドルデビューの図表を持ち出すちびナニゴル(統計処理はサイバーカラテの代表的な機能の一つであり、地下アイドルたちも中小企業並の経理や会計をこれで行っていることで知られている)であったが、しかし『大砲(グレートキャノン)』は、これを文字通り指先(フリック)一つで一蹴。
厳しい表情を保(たも)ったまま、話し続ける。
「ファンを競い合わせ、たくさんのお金や応援、そして何より長い時間、もし他のことに使えていたらもっと実(みの)りのある趣味や休養、恋愛や見合い養子縁組といった友人や家族、人脈(コネクション)を培(つちか)えたかもしれない、長い長い期間を費(つい)やさせ…その挙(あ)げ句の果てに、解散したり卒業するアイドルがどれだけいることか!再生者はまだ良い!しかし、誰もが転生で新たな人生を得られたり、それを良しとする生き方を選んでいるわけではないのだぞ!」
それに後輩は、必死に反論する。
「そんなの暴論です!最初から解散したり卒業したりファンの貢献を無駄にしたい地下アイドルがいるわけがありません!みんな出来れば、ずっと楽しくアイ活を続けたかったはずです!でも事情は出来る!それは辛(つら)くて寂しいことですが…けど、仕方のないことなのです!みんな生きていて、再生者でも活動している限り生きて変わり続けていて、色んなことが起きるんですから!それに、さっき先輩だっておっしゃったじゃないですか!運命の相手に、ここで知り合うことだってあるはずです!そして、恋人や結婚相手でなくても生涯の友や仲間だって素晴らしいもののはずです!推し活を通じて、互いに感性や興味を共有できる素晴らしい仲間も!そう、ちょうど私たちのように!」
その言葉を聞いて、岩肌種(トロル)は岩壁のようなその顔を大きく歪めた。
「フン、地下アイドルの『仲間』など、所詮は仮初(かりそめ)のものに過ぎぬ!『卒業』という概念があるように、いつかは学校のように離別しそれぞれ違う道を行くこともしばしば!より有名で資金力や人材に恵まれた集団(グループ)へと『転生』する者も数知れぬ!モニ子よ、同じ地縁(とき)や濃い利害関係(カンパニー)そして血縁(みんぞく)の繋(つな)がりを持たぬ人間関係などが、長続きするはずがない!お主は還(かえ)るべきのだ!政略結婚だろうが結婚相手を用意し、縁故(コネ)でも職場(いばしょ)を用意してくれる親の元へ、同じ『空の民』が待つお主の故郷へと!なぜなら、」
そして、彼女はトドメの一言を放つ。
「現にお主(ぬし)はおいどんと敵対(おわかれ)しているではないか!グループに所属していても今のお主は一人きり!そんな有り様(さま)でどんな仲間がいる!どうやって地下アイドルと推し活を肯定する!」
しかし、それを聞いた後輩はそれでも顔を上げた。
彼女は、全身を灰色に石化させられ、罅(ヒビ)が入りながらもそれでもなお、前を向き、眼に強い光を宿して対戦者(はなしあいて)に向き合おうとする。
「それでも、それでも私は諦(アキラ)めません!だって私は、一人じゃないから!私には…このモニ子には、『ちゃんこ9』と言う大切な仲間がいるから!いつかは道を違(たが)えバラバラになるとしても、心から信じ合える同じ道を行く友達がいるのだから!」
そして、彼女は小さく歌い、軽やかに歩法(ステップ)を踏(ふ)み始めた。
それは、愛の歌。
友との絆を確かめ、互いに意志を通じ手を携えようとする…現在の『地上』最大のヒットナンバーであった。
だが、それに先輩は、ため息を返す。
「また、馬鹿の一つ覚えの借力(しゃくりき)か。だが、いかに我らが外力使い(サイバーカラテ・アイドル)と言えど、これでは借力など不可能よ」
その言葉の実証として彼女は、親指でその背後を指し示した。
そこにあるのは壁。
四方を囲み、天井すらも覆(おお)い、全てを押し潰(つぶ)さんとするような、灰色の絶望空間。
強大なる圧迫感と閉塞感。
それは、『邪視』に長けた力士が作り上げし、夢世界の傑作であったのだ。