幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
疑似浄界・“石蛇邪眼陣(せきじゃじゃがんじん)”
それは、完全なる密室。
脱出不可能な岩の牢獄。
更に、その内部では滴(したた)り落ちる水音やどこからか漏(も)れるうめき声が、幾重(いくえ)にも反響を重(かさ)ね、それ以外のあらゆる音響は妨害される。
ここにいる二人(ちかアイドルたち)にしたところで、日々過酷な鍛錬(ボイストレーニング)を積んでいなければ、会話すらままならなかったことであろう。
だが、後輩はそれでも叫(さけ)ぶ。
「いいえ!出来ます!
同じ音で通じ合えば…共鳴(リンク)すれば、あなたの妨害(ぼうがい)を無視して通信が可能なはずです!」
しかし、それに対し先輩は非情にも言い返した。
「今、音声は切った。もはや配信に流れているのは、字幕ばかりよ。これでどうやって通信をする!その光の道だけでは目印(ビーコン)にはなっても具体的な応答(かいわ)などは不可能、そもそもどれが誰に繋がっているのかも分かるまい!」
更に、
「“同じ音”だと?そんなもの、どこにある?たとえ相手が音楽を得意とする『ハープアジア』であろうと、共鳴や同調には全く同時に同じ曲をやらねばならぬだろう。そんなこと、不可能よ!」
しかし、後輩もまた力強く断言する。
「音楽ならあります!今、ここに!」
「そんなもの…いやまさか!?」
思い当たるフシがあったのか、『大砲(グレートキャノン)』が顔色を変えると、
「ええ、そのまさかです!」
と、モニ子が先程の意趣返しのように、言い返す。
そして、見るが良い。
彼女は、言うや否や再び軽快なステップを踏み、なんらかの歌まで口遊(くちずさ)み始めたではないか!
『大砲』は、驚愕(きょうがく)した。
「こ、この鼻歌は!?やはりこの画像か!?画像のダンスから音楽(アイドルきょく)を再演しているのか!?」
音の源泉は、すぐ身近にあった。
それは、罠であるはずだったもの。
それこそ、岩肌種(トロル)の先輩が、己が悪夢(きおく)と執念(おもいいれ)の全てを込めて作った擬似『浄界』の、その画面。
屏風(びょうぶ)のように連なり相手を囲み、拷問(ごうもん)まがいの編集映像を流し続けていた、それそのものであったのだ。
しかし、後輩はそれを逆手に取った。
彼女は今、全く音が存在しない画像、それもあまり鮮明でないものから推察と記憶だけで音を再演しているのだ。
見るものが見ればすぐに分かる。
画面の向こう側とこちら側、枠を挟んだ二つの身振り(ダンス)
それらがほぼ完璧に、同調(シンクロ)していることを!
「この練習試合は、常に配信されているはず!ならば先輩のところにだって!」
しかし、その先輩の更に先輩は予想外の行動に動揺しながらも、さらに言い返してくる。
「だ、だがそれでも向こうに音は届かない!それでどうやって通信(やりとり)をするつもりだ!?」
それに対し、返されたのは…満面の笑み。
「そんなものは言うまでもありません!歌です!私はまだ自信がありませんが…絶対に聞き取ってくれるはずです!そう、『ちゃんこ9』の誰よりも音楽を愛するあの人なら!」
その言葉に、『大砲』は思わず深くうなずいてしまう。
『ちゃんこ9』の副将として、その言葉には納得しかなかったのだ。
「そうだった…この地下アイドル空間のアイドルは、その大半が呪強化筋金(すじがね)入りのドルヲタであったな」
そうして呆(あき)れと感慨に耽(ふけ)っている間に、後輩の試みは成功していた。
そう、音は届かなくてもあちらには配信で映像はとっくに届いている。
ならば、
「ライブの映像から音楽(うた)を再現し、再演すれば良い!そしれ私たちにはそれが出来るのです!」
その発言を証立(あかしだ)てるかのように、踊るモニ子の爪(ネイル)、その一つが一際(ひときわ)強く光り輝いた。
それは、近くの画面に干渉し…全く新しい画像を映し出したのだ!
そう、それこそが話題の人、その当人。
『ちゃんこ9』一番の音楽愛好家アイドル、『ハープアジア』であった!
身に纏(まと)うは、『ちゃんこ9』の共通衣装、『ゾーイアキラコーデ』に草の民の民族衣装を複合させた、独特の服装。
その女は、酷(ひど)く痩(や)せていた。
けれど、眼光は鋭く強い意志を感じさせる。
映し出された彼女が、もやしのような身体を動かし、重たげな頭を必死に駆動させて放つ、その記念すべき第一声は!
「モニ子殿…拙者(せっしゃ)は力になれぬ」
…なんとも、残念なものであった。
「どうしてですか!?」
それに対し、後輩が悲鳴のような疑問をあげると、
「すまぬ…拙者、未熟者ゆえ…『ちゃんこ9』ももうやめるさせていただきたい」
と、今度は突然の卒業(だったい)宣言。
ならば、
「せめて、せめて理由を聞かせてください!だって先輩はあんなにアイドルが、アイドルの歌や音楽が大好きだったじゃないですか!」
と即座に訴(うった)えるも、
「それは…けれどとてもではありませんが、あなたのような立派なアイドルとは一緒にやっていくことは出来ません。あまりにも、ふがいなくて…!」
「そんな…!」