幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
そして、指示された者たちは、残らず己が作品(げいじゅつ)の方向性を無理矢理に捻(ね)じ曲げられ、血の涙を流しながら流れ作業(ベルトコンベアー)に飲み込まれていく。
彼ら彼女らの"作品"は、次々と芸術用仮想使い魔の餌(そざい)となり、流行りの定型(テンプレ)という鉄の寝台(ベッド)を基準(スケール)とされて次々と審判(テスト)を受けてるのだ。
そこであるいは、その偏狭(そざつ)な基準に合わせてあるいは雑味(たようせい)を切り落とされ、あるいは有りがちな要素(だそく)を無理矢理付け加えられて、次々と売り出されていく。
だが、そうして売り出された"商品"が狙い通り必ず当たるとは限らなかった。
その理由はまず、編集(かこう)の基準にした定型(テンプレ)が、すでに制作開始時点で過去のものであったことにある。
それが更に時間経った販売の時点ともなれば、果たしてどうなったのか…それは言うまでもないことであろう。
これで、両手が塞(ふさ)がったラクルラール。
もう指し示すのは限界だろうと誰もが思った、その時。
「そして、既知の市場の外、未知なる野蛮(オリエンタル)を収奪する単純作業の手駒(ブルーワーカー)ども!」
その程度か、その程度の想像力しかないのか、と嘲笑(あざわら)うかのように更なる指示が飛ぶ。
それは顎(アゴ)まるで使用人に命令を下すような、あるいは不要になった愛玩獣(ペット)を処分するかのような傲慢な態度で、ラクルラールは新たな画面を指し示す。
そこでは、無数の雑用ーーいや、細々とした労働が行われていた。
ある者は、物理電子アストラルを問わずあらゆる新聞や雑誌の記事を延々と切り抜いてファイリングし続け、またある者は詐欺まがいの電話を息つく暇(ひま)すら無くかけつづけ、またある者は目をつけた少数民族の老婆や子供からその隠し持っていた文化財(おもいでのしな)や玩具(たからもの)を容赦なく奪い取っては、元請(もとう)けに引き渡すべく奔走(しっそう)していた。
そして彼ら彼女らの雇用条件は、もちろん請負(じっしつのしゃいん)
どれだけ働こうと、いかに売上を上げようとその手元には大した資本(カネ)は残らない。
女教師の暴走(ウォーク)は、もはやまるで、無人の野を行くが如し。
白黒縦縞の小人(アバター)を始め、協力者(ちかアイドルかんけいしや)が無数の妨害をしかけるも、これを意にも解さない。
全ては知悉(クリア)されきっていた。
かつて彼女を倒した機械女王たちならいざ知らず、既知の勢力や手段では、女教師を阻むことなど不可能なのだ。
誰かラクルラールを止められる者はいるのか?
誰があの女教師を打ち負かせる?
それらの問いには、もはや沈黙(かいむ)だけが答えとして残された…かのように見えた。
だが、それを見咎(みとが)める者がここにいた。
「引っ込んでください!」
「こ、ここは、今はあなたの舞台(ステージ)ではないでござる!」
視覚情報(えいぞう)が暴れ狂っていた場に、地鳴り(ステップ)が響く。
しかもその音は、重なっていた。
予想外の、同時振動。
僅(わず)かな時間差で、異質なそして誰もが予想外の音響が木霊(こだま)する。
ガラスか砕けるような、澄(す)んだ破砕音。
それまで見えていた光舞台(どひょう)上の岩肌種の姿が砕け散り、少し離れた場所に全く同じ像が現れる。
瞬間移動?
いや、それこそ少しでも見識ある者か、サイバーカラテなどの武術の使い手ならすぐに判(わか)る事実。
それは、一区画の更に一部とは言え、疑似『浄界』の主ならではの戦法。
攻撃者は、密(ひそ)かに張った幻影(かがみ)に紛(まぎ)れ、移動していたのだ。
知る人ぞ知ることだが、ある種の武術にはそしてそれらを内包するサイバーカラテには、無音の移動術(すりあし)がある。
"彼女"は、それによって誰にも気づかれぬ内に移動し、位置(ポジション)を変え…そして見事、格上に相手に奇襲(ジャイアントキリング)を仕掛けたのだ。
結果、直撃。
それは、冗談のような劇的な効果をもたらした。
巨大な、水晶の“脚”が配信枠から飛び出し、女教師の頭部をめり込ませていたのだ。
文字通りの、"面"子丸潰し。
予想していなかった位置(ポジション)の変化が、ラクルラールほどの戦巧者に対しても奇襲を成功させたのである。
それは、本来は後輩(モニこ)への対策だったのかもしれない。
しかし、"彼女"はそれをここで力を合わせることを選択していた。
そして、日頃の付き合いによって知り抜いていた後輩の心境が、完全な時機(タイミング)の合致(マッチ)を成立させたのだ。
その足はずっぽりと配信窓の中に踏み込まれ、持ち主の迷いのなさを証立(あかしだ)てている。
これぞ、サイバーカラテ・アイドルならではの『阿吽(あうん)の呼吸』であった。
こんなことが出来るものは、この疑似『浄界』にただ一人しかかいない。
いるはずがない。
ここに来て、二人の後輩の前に立ちはだかっていたはずの先輩、『大砲(グレートキャノン)』が、力を貸していたのだ。