幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第28話(23~24の途中まで)

舞台の上では、そんな修羅場が展開されていたが、ナレーターがいない方の舞台袖では、相変わらず議論が繰り広げられている。

「それで、この悪趣味な茶番があなたの表現したかったことなのですか?【本人による回想形式】をとったところで、芸能人の暴露動画に付き纏う品の悪さは隠しきれませんよ」

 

「かもしれない。だが、その邪悪さはヒトであることと不即不離なものだろう。ヒトがヒトの罪や苦痛を忘れたところで、それから逃れられるのか?」

「その問いかけは悪手ですね。それを言うなら、ヒトは誰もが強いわけではありません。多くのヒトは、罪や苦痛を意識してもただ苦しくなるだけです。」

 

そう語ると、悪魔(アキラ)の左腕(めがみ)は、舞台を指さした。

 

そちらを見ると、どうやら白い少女人形は、母親人形のとりなしによって暴れるのはやめたようだ。

母娘の人形は、家長の帰宅によって中断された夕食の支度を再開し、新参者のリーナ人形は、ひとりぽつんと食卓についている。

 

その有様は、悲しくつらそうだ。

ここは、暖かな家庭の場面のはずなのに

クロウサー一族のもとを離れたこの家でも、彼女はやはり孤独で、のけ者扱いにされるだけなのだろうか?

 

だがそこで、"興行主"は、言い返した。

「しかし、例外が無いわけじゃない。貴方なら、それを知っているはずだ」

 

「例外、ですか?【悲劇】のことなら……」

「それもあるが、それだけじゃない。貴方は知っているはずだ。人間の悪や罪を描きながらも、悲劇的な結末に終わるとは限らないような、そんな物語(ストーリー)の類型(ジャンル)のことを」

 

そこで、"興行主"は、大仰な身振りで舞台を指差した。

 

そして言った。

 

「【英雄劇】だよ!」

 

途端に、苦虫を噛み潰したような表情に変わった左腕(ディスペータ)にお構いなく、地下アイドルは議論を再開した。

 

「英雄はいつも同じです。殺し、奪い、侵略するだけ」

「守り、与え、分け合い、そして愛を識るのもまた英雄だ。六王と共に歩んできた貴方に、それを知らないとは言わせないよ」

「ですが、そんな肯定的(ポジティブ)な面も、所詮は否定的(ネガティブ)な面と表裏一体です」

 

左腕(まえのじょうおう)は、舞台の少女人形を指差して指摘する。

「どれほど英雄の成功や不屈さをアピールしても、それは同時に嫌な記憶を、苦痛や敗北を想起させてしまう。逃れられず、忘れることが出来ない苦痛や不幸。それは……悪そのものです」

 

「貴方がそれを言うのか」

「私だからこそ、それを断言できるのです」

悪魔の左腕は、演じられている家庭の悲劇(にちじょう)を見つめながら、そう語った。

舞台へ向けられているその表情がいかなるものなのかは、ラリスキャニアから伺い知ることは出来なかった。

 

ちなみにこの時、

 

「ぐ…ぐえぇ…」

と、まるで左腕を激しくねじられた男のようなうめき声が、舞台袖に響いていたが、それを気にする者は誰もいなかった。

 

『サイバーカラテ道場』(シナモリアキラ)は、基本的に苦痛を受け付けない。

万が一、自分で自分を苦しめたがるような、そんな自罰的(マゾ)な存在がそのシステムを利用しているのならばともかく、そうでなければ苦しむ悪魔(アキラ)が存在することなど、あり得るはずが無いのだ。

 

ただ"一人"。

天使(レオ)触手だけが、そんな"彼"を静かに見守っていた。

その顔には、どこか納得したような、共感するような、そんな笑みが浮かんでいる。

 

"少年"の持つ銀色の猫耳は、舞台から漏れ出ている照明を反射して、それを淡い万色の輝きに変えてその笑みを飾っていた。

 

見守るものと見守られるもの。

視線がつなぐ二人を、ただ、その輝きだけが包んでいた。

 

それはさておき。

その時、ラリスキャニアは、そんな諦観に満ちた左腕(まじょ)相手に、なおも食い下がろうとしていた。

 

実力差は明白。

ならば、勢いと戦法によって畳み掛けるしかない!

 

舞台の進行、いわば"流れ"を少しずつ加速させ、解説という『呪文』でもって一気に押し流すのだ。

そうして、今の自分が認識している"陰謀"と"暗黒の未来予想図"の説明を一気に終わらせて、それで……

 

それで……どうなる?

自分の絶望を全て吐き出し、表現して、それでその先に何があるというのか?

 

ラリスキャニアは、だんだんと自分の抱えているわだかまりに気づきつつあった。

そもそも、今、対峙している"悪魔(アキラ)"も、その"左腕(ディスペータ)"も、そして天使(レオ)触手も、その正体は、ラリスキャニアの分身に過ぎない。

 

たとえ、自分の推理する"陰謀"が全て正しく、想定した未来が確実に実現するとしても、それが、彼女にとって何を意味するというのか。

そこにあるのは、絶望だけだ。

 

自分の中の絶望を全て吐き出すことが出来たとしても、そこに期待できるのは、おそらく虚無だけであろう。

だが、

だが、それでも。

それが分かっていながらも、地下アイドルは、あえて一歩を踏み出すことにした。

 

信じるのだ。

自分だけではない。

表現を、演技(ぶたい)の力を、そして、アイドル(えんぎ)を。

 

今の自分に希望が無くとも、そこに未来が見えなくとも。

アイドルには……表現(えんぎ)することには、きっとそれがある。

 

 

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