幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「か、勘違いするでない…で、ごわす。これは単に、岩肌種の技術(テクノロジィ)を見せて、お主らを威嚇(アピール)したに過ぎぬ。いきなり叩き潰してしまっては、納得して敗北(まけ)を受け入れられぬであろうからな」
隠れた優しさを誰もが見抜いていたけれど、それを振り切って先輩は言い切った。
「さあ、『ちゃんこ9』(われら)の間の問題は我らだけで、先輩と後輩だけでつけようぞ」と。
それに対する反応は、二者二様。
片方は、
「拙者は…拙者は…」
と迷い戸惑(とまど)い、もう一方は…
「私は、今出来ることをします!」
と宣言をする。
そして、全ての観衆(まなざし)が見守る中、後輩地下アイドルは歌い出した。
それは、仲間うちにとって馴染(なじ)みの歌。
『草の民』のイメージを持つ楽曲(せんりつ)であったのだ。
その行動(ふるまい)に対する反応は、二分(にぶん)された。
「いきなり何を!?」
驚愕(おどろき)と、
「むう…そう来るか…」
「…フン。安易な」
何かを納得したかのような、そんな受け止め方。
その二つだ。
もちろん、そうして度肝(どぎも)を抜かれている前者こそが、今回の“説得(マジカルアピール)”の対象たる地下アイドルメンバー、『アジアハープ』である。
ただし彼女は、その戸惑いを鎮(しず)めようがない。
目の前で、後輩がひたすら踊っていることに、どう対応していいか分からないのだ。
そこへ、驚きも冷めやらぬうちに、その手元に新たな反応が現れる。
それは光る四角——情報の表示枠。
「これは、メール…?」
その正体は、意外な、そして旧知の間からの伝言(メッセージ)であった。
ただし、それを読みふけることは目の前の後輩が許さない。
彼女は、一所懸命(いっしょけんめい)に踊り歌いながら、その合間(MC)で必死に己(じぶん)の言葉を紡(つむ)ぎ、投げかける。
その相手は、もちろんたった今地下アイドルを卒業(やめ)ようとしているその先輩ーー『アジアハープ』その人だ。
重ねられる言葉自体は、安易で陳腐(チープ)
だが、そこに込められている熱意、そして好意(あいじょう)だけは本物だった。
『アジアハープ』には、それが分かる。
なぜなら、彼女は地下アイドル。
愛を投げかけられることも、そしてそれを返すことも、日常(こきゅう)のように自然に繰り返している、生態(いきもの)なのだから。
しかも、今回それをやっているのは、顔なじみ同じグループの後輩アイドルなのだ。
その日々の頑張(がんば)り、それを支える誠実さについては、指導を務めた自分が一番良く知っている。
そうだ。
あの時は…グループ加入当初は、彼女はまだまだ未熟だった。
基礎の基礎すら出来ておらず、ちびシューラの仮想特訓(レッスン)を受けてさえ、なおその挙動(ふるまい)は地下アイドルの基準すら満たすことが困難だったのだ。
とはいえ、駆け出しアイドルグループの『ちゃんこ9』にプロの訓練教官(トレーナー)を雇う余裕があるわけもない。
ゆえに、取れる手は唯一(ひとつ)だった。
自分が、この『アジアハープ』が1から音楽(ドレミ)を教えたのだ。
それは、ほんのひと月ほど、しかし永遠にも思えるほど昔の話。
だが、それは今まさに眼前に蘇る過去(いま)として、地下アイドルの目の前に現れていた。
目の前のささいな動作(ふるまい)が、聞き慣れたはずの歌声(こえ)が、どうしようも無く過去(あのとき)の文脈を再演させている。
届かぬ相手に思いを届け、越えられぬかも知れぬ断絶を乗り越えようと足掻(あが)くその姿。
たとえ、その歌と踊りがいかに未熟だろうと…この時、モニ子は間違いなくアイドルだった。
ただし、いかにその懸命さと真摯(オネスティ)さに心を撃たれたといっても、『アジアハープ』にも決して譲れぬものはある。
伊達や酔狂で、この四股名(ネーム)を名乗っているわけではないのだ。
だから彼女は、悩む心に鞭打(むちう)つように、ようやっと口を開く。
「どれだけ説得されても、もう私はあなたの、『ちゃんこ9(みんな)』のところにはいられません。だって私は偽物なのですよ。ただの浮かれたコスプレ観光客、草の民に憧れただけの中央(とかい)の凡人。それが、私です」
しかしそれには、また即座に反論が飛ぶ。
「そんなこと、言わないでください!」
更に、
「『ハープアジア』先輩!先輩は素晴らしいです!私ななは音楽のことはあまり分かりません。都会の室内(インドア)派だったので『草の民』のことはなおさら分からないです。けど、先輩の作った『草の民』ふうの音楽はとても素晴らしいと思いますし、それは『ちゃんこ9』の舞台(ステージ)でファン(みんな)を、そして『ちゃんこ9』(わたしたち)を笑顔にしてくれていました!確かに、先輩は悪いことをしたのかも、罪を犯(おか)してしまったのかもしれません。けれど同時に、あなたがいなければ生まれなかった笑顔もたくさんありました。それもまた、本当に確かなことです!」