幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「そ、そんな〜」
後輩は嘆(なげ)き、ひと呼吸置いてからようやく気づく。
「え?“今度”って、先輩それは!?」
が、
「やかましいでござる。拙者、確かに気弱でござるが音楽をナメる輩(ヤカラ)に関しては、絶対に許さないでござる。特にこの曲は、元々『草の民』を表象(イメージ)したもの。それが成功しているかとか、文化政治(ポリコレ)的な『道徳』性はいったん置いておくとして…拙者にとってこれは、命よりずっと大事な曲でござる!それを適当に歌って踊ることは、槍神や大将(リーダー)が許しても、そしてたとえ『草の民』の方々が許しても、絶対に許さないでござる!ちゃんと正しく歌って踊れるようになるまで、ビシビシ行くでござるよ!」
返ってきたのは、真剣批判(マジレス)であった。
「うわ〜先輩が本気で怒った〜!」
「嘆(なげ)かない!今は合同の練習試合(トレーニング)とは言え、相手が存在して実質実戦なのでござるから、ちゃんと常にアイドルらしく振る舞うでござるよ!笑顔笑顔!」
「は、はい!…あ、二つ目はなんでしょうか!」
先輩アイドルはため息をつき、まず前置きを並べる。
「この“惨状”を前に言い出しづらいでござるが…」
要するに。
「拙者は、この『アジアハープ』は、アイドル辞(や)めるの、辞めます!辞めるでござる!」
「やった〜」
感極まる後輩。
しかし、そこへ追撃が飛ぶ。
「喜ぶのは早いでござる!これは、拙者が『草の民』文化をきちんと正しく伝えるという『義務』のために、今は発信者(アイドル)を辞めるわけにはいかぬ、というだけのことでござるからな!」
モニ子は怪訝(けげん)な顔をした。
「でも、アイドルを続けてくださるんですよね!なら、また先輩と一緒にアイドルを…」
「出来るかどうかは、分からんでござるよ?」
「えっ」
また驚きのあまり硬直する後輩に、先輩は静かに説く。
「だって、モニ子殿がこれからもアイドルを続けられなければ、拙者がどうであろうと一緒には無理でござるからな」
「だだだだって、お金の話なら先輩だって…」
「さっきの話を良く思い出すでござる。拙者の家系は元々、地方文化の蒐集(しゅうしゅう)職で名目上は自営業。もちろん拙者も幼い頃から家業にこき使わ…手伝ってきた。つまり拙者には、単独で飯の種を探せる技術(ノウハウ)があるのでござる。まあ、前例(おやたち)のように手段を選ばないやり方をするつもりは無いでござるが、拙者には作曲のスキルもあるでござるからな、この地下アイドル空間なら、小規模雑誌(ミニコミ)や楽曲サポートのバイトをしてなんとか食べていくらいの額を稼ぐぐらいは、出来るでござるよ。『ちゃんこ9』に流れ着く前もそうだったように。痩せても枯れても、一応は自立した社会人でござるからな、拙者」
「そ、そんな…同じだと思ったのに…」
実は、親元からこっそり摂取(ネコババ)した財産で生き延びてきた家出娘アイドルは、悲痛な叫びを上げる。
「さあ、そこで言いたいことの最後!モニ子殿、諦(アキラ)めたくなければ、また道を拓(ひら)くでござる!『大砲(グレートキャノン)』先輩は厳しいお方。拙者一人を味方につけた程度で、説得出来るとは思わぬことでござるよ!拙者自身、先輩のご意見には思うところがあるでござる」
その言葉に、それまで沈黙を守っていた副将(サブリーダー)もうなずく。
「そうだ。『グラスハープ』は良い。そなたには、自身で食い扶持を稼ぎ身を立てる習慣(ノウハウ)がある。だが、モニ子お主は…」
指を突きつけ、指摘する。
「生活力皆無!未だに生態(ライフ)が愛玩犬(おじょうさま)そのものではないか!」
更に、
「我らが紀人(シナモリアキラ)を見ろ!あれだけ勝って有名になり、門派の人員を増やしても未だに借金まみれ!むしろ国単位の負債の連帯保証人となり、その借金は天文単位にも及ぼうというあの有り様(さま)!多少強くて有名になった程度では、新作を出せない作家より食えないままなのだ!」
止(とど)めに、
「そんな有り様では、大人しく愛玩動物(かちく)とし出荷(せいりゃくけっこん)されていた方が、遥(はる)かにマシでごわす!それなら、否(いや)が応でも食うために働かなければならなくなるし、出来ないことは全部、召使(たにん)に任せれば良くなるのでごわすからな!」
「くっ…そんな生活、絶対に嫌(いや)です!」
抗(あらが)う後輩に対し、岩肌種は冷酷に宣言する
「ならば、ここで己(おの)が実力を示してみよ。このおいどんを倒し、アイドルとしてこれからも食っていける地盤(じりき)があることを、証明してみせるのだ!」
「言われなくても!」
そう語ると、モニ子は再びその手を高々と掲(かか)げ挙(あ)げた。
歌が終わり、視界(せかい)は再び闇に包まれている。
しかし、先程までの青空と草原は、その真昼の光は、今もくっきりと彼女の瞼(まぶた)に焼きついていた。
モニ子は、その残照(ざんしょう)を頼りに、手指から繋(つな)がる“光の道”を強化していく。