幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
副将に勝つためには、主将(リーダー)に業(ワザ)を習わねばならない。
いや、それだけではない。
後輩アイドルは、今や確信している。
すなわち、
「私がアイドルとして身を立てるには、きっと主将以外にも他の部員(なかま)の力が必要なんです!」
そのためにも…
「私は、みんなに向き合う!」
強い意志が、道を拓く。
夢空間に広がった新たな青空の名残りは、地底の星…未(いま)だ未熟な星の光を強め、地平線へと送り込んでいく。
それはすなわち、地下アイドル二人目の協力によって、モニ子……明星(モーニング・グローリー)が繋(つな)げた光の道が、より強化されたということでもある。
それは、闇を切り裂き、明日を照らす。
その先に見えてくるのは、二人のシルエット。
一方は、漆黒に染まりながらも凹凸がしっかりした長身を、一部の隙もなく鍛え上げられた筋肉を、そして何よりも、二等辺三角形の広がりを感じさせる巨大な縦ロールの影。
そしてもう一方は、低身長だが兎耳でそれを感じさせず、細身で優美な印象を与える影。
その二人(デュオ)は、光り輝くリング(ステージ)で、待っている。
まずは三角形の影が、「話は終わったようね!なら、これからは私たちと死合(スパーリング)してもらうわ!ゴージャスにね!」
続いて兎耳が、
「やれやれ、この闇の“擬似『浄界』”思いの外(ほか)固くて、干渉(ハッキング)に手間取りました」
それゆえに、
「少し時間を使い過ぎました。ちゃんと興行主(ラリスキャニア)にバトンを渡すためにも…これからは」
そこで、二人は声を合わせる。
「「全力全開(フルスロットル)で行くのて、覚悟しなさい」ませ!ゴージャスにね!」
そして、ややズレた。
兎(と)にも角(かく)にも、こうして次の幕が開が(あ)く。
地下アイドル少女の第三戦は、このときから始まったのだ!
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本当は、『卒業』を撤回するつもりなんて全く無かった。
ただ、後輩があまりに一生懸命踊るので、最後にそれだけは見届けようと、そう思っただけなのだ。
もちろん、そこに過度な期待はしていない。
後輩の腕前は誰よりも熟知している。
あんなアマチュアの拙(つたな)い表現(パフォーマンス)では、得られるものなど何も無いことであろう。
せいぜい、失望や呆(あき)れを表に出してしまわないよう、【七色表情筋トレーニング】の準備(せっと)を忘れないこと。
気をつけるべきは、それだけだと思っていた。
本当に、そのはずだったのだ。
だが、予想は外れた。
主(おも)に悪い方に。
モニ子の失敗は、事前の仮想表現(パフォーマンス)を大きく下回っていたのだ。
もつれる足、忘れられあるいは飛ばされあるいは全くの別単語に変えられる歌詞。
外れるリズム、歪(ゆが)むメロディ、欠片も無いハーモニー。
それは、まさに楽曲(うた)と舞踏(だんす)に対する冒涜(ぼうとく)
アイドル音楽という芸術に対する破壊活動だった。
その、あまりの壮絶(ひど)さは、途中で止めようとした『アジアハープ』の動きさえ、思わず長時間硬直させてしまうほど。
それはまさに、拷問(ごうもん)な独演会(リサイタル)であった。
もし、アイドルについてほぼ無知な人物が、かの歌姫Spearとこの表現を交互に見た日には、きっと同じ分類(カテゴリ)であると理解することは不可能であろう。
いやむしろ、その落差はその脳とアストラル体を瞬時に抹殺し、後には哲学的ゾンビすら残さないかもしれない。
だが、
(けれど、けれどこれは…決してそれだけではないでござる!)
それは同時に、
(どうしても…目をひきつけられる!)
絶対に、目を離せない歌舞であったのだ。
その品質(クオリティー)はあまりに酷く、その技量はあまりに拙(つたな)い。
(もっともっと練習が必要でござるな)
(ああ、そこはそうではないでござる!こう!そして次はああでござる!ああもう!)
それは、どうしようもなく…成長の余地を、この先の未来(かのうせい)を、視聴者に意識させる。
そして何より、
(そこで失敗するでござるか!もうあきらめ…そこでまだ立ち上がるとは!?それさっき手ひどく間違えたところでござるよね!?)
彼女は、絶対に諦(アキラ)めなかったのだ。
そして気づけば、
「アイドル辞めるの、辞めます!辞めるでござる!」
『アジアハープ』は、そう宣言していた。
そうせざるを得なかったのだ。
同じ地下アイドルでも、もっと偉くて強くて頭が良くて教養と呪術に長けている人物——例えばそれこそ、リーナ・ゾラ・クロウサーなら違う答えを出すのかもしれない。
あるいはあの『空組』の特攻隊長(エース)なら、そもそも考えもせずに全てを爽快な空気に染め上げてしまうのか。
けれども、彼女は『ちゃんこ9』の『アジアハープ』だ。
この地下アイドル空間の一員だ。
ここでは、本当の空は見えない。
夢の中、地下空間であるという以上に、ここは世界槍の半(なか)ば、第五階層の一角に過ぎないからだ。
けれど、けれど『アジアハープ』はこうも思うのだ。
歌っているときだけは、あの輝かしいアイドル仲間と一緒に居るときだけは、違うのではないか。
おためごかし。
罪人の開き直り。
そうかもしれない。
所詮は門外漢(よそもの)でしかない自分に、『草の民』と彼らの文化を、その美しさを『正しく伝える』など不可能なのかもしれない。
けれど、それでも。
自分に歌がある限り、そしてあの健気(けなげ)な後輩と共にいる限り…あの無限の蒼穹(そら)はきっとどこまでも自分と共に在る。
彼女は、強くそれを信じるのだ。