幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
場を無理矢理明るくしようとする後輩。
その言葉に、先輩はどこか陰(かげ)のある微笑(ほほえ)みを浮かべる。
「ありがとうございますモニ子さん。…そうですわね、少しの時間だけでも共に時間を過ごすことが出来た。例(たと)え同じ民族としての文化や自己同一性(アイデンティティ)、思い出を共有することが出来なくても、それは確かに幸福なことでしたわ」
「え、あの…何か私間違えちゃいましたか?」
焦(あせ)るモニ子。
そんな彼女に対し、今度は完璧な笑みでノーブルは言い返す。
「いいえ、そんなことはありませんわ。あなたのおかげで、大切なことを思い出せました。本当にありがとうございます。…そうですわ、何かご質問や気になることなどありませんか?視聴者の皆様には『地下』に馴染(なじ)みの無い方々もたくさんおられるでしょう。同じような視点を共有するモニ子さんなら、私の回想(はなし)を進めるのに、打ってつけのご質問が出来るに違いありません!」
「え、ええ…!?」
「じゃ、じゃあ…質問です。『地下』での生活はどのようなものだったのですか?危険なこととか、ありませんでした?」
縦ロール美女は、微笑みながら答える。
「確かに、『地上(うえ)』では、『下』のことを『地獄』と呼び、『全体主義』と言った『狂気』の体制(システム)として位置づけて/ラベリングしています。ですが、それは偏見ですわ。『地下』は、基本的にはとても平和で暮らしやすい世界であり、あらゆる民族とその文化が保護されることを基礎『道徳』に置いた、共生と共助を基盤とした社会なのです。難民であった私の両親も、そしてその二世である私自身も、『下』で不便さや危険を感じたことなどは 、ほとんどありませんわ。…まあ、確かに例外はありましたが、それはどんな社会でもあることでしょう。それに、」
そこでノーブルは、その笑みに濃い影を落とす。
「それに『地下』では結局、そんな例外は…無かった。そう、“存在しなかった”ことになりますから、結局それは最初から無いのと同じことなのですわ…ええ」
その影を見た後輩は、恐る恐るしかしはっきりとそれを問う。
「それは…つまり揉(も)み消されると言うことなのですか?『下』の社会では、『上』より頻繁(ひんぱん)に『脳髄洗い』などが行われるのでしょうか?」
だが、それは笑みを以(も)って否定されてしまう。
「まさか。『地下』では個人の思想が厳重なまでに保護されています。たとえ警察や国家であろうと、そんな呪術を軽々(けいけい)に使えば、大問題ですよ」
ただしノーブルはそれに続けて、
「そちらもにも例外はありますが、それはせいぜい…ああ、そうです。その話が良いでしょうね。モニ子さん、あなたにお教えしましょう。『地下』の平和とはどういうものなのか、なぜそれほどの『平和』が保たれているのか。そして…『脳髄洗い』洗脳呪術が『下』で合法となる数少ない『例外』について」
と語る。
そして彼女は、軽くマイク型端末を操作し、背景の画像に抽象化された二人の人影を加えると…そこから更なる解説を説(と)き始めたのだった。
「私と私の両親は、当初の避難先だったジャッフハリムからとある別の国へと『第三国移住』していました。これは、一つの国や地域だけに難民を集中させない、という問題(トラブル)の予防策であると同時に、難民にも国や地域との相性がある、と言う話なのですわ。『難民』と一言(ひとこと)に言ってもその個性も内実も実に様々。それぞれ希望する環境や必要なもの、求める職種が異なる以上、一か所に集中させるのは、かえって非効率になりミスマッチを生じさせてしまいます。それに、『難民』の方々が集まって住むこと、いわゆる『難民キャンプ』を作ることは、かなり昔から『下』では避けられるようになってきていますの。その理由については…おそらくこの先の話でお分かりいただけると思いますわ」
そして、美女は背後に映し出された人影を指差す。
「話を戻しましょう。『下』の公共住宅に住んでいた幼(おさな)き頃、私には仲の良い女の子の友達がいらっしゃいましたわ。名前は…そうですわね。“サジェ・ムルーニャ”とでもしておきましょう。彼女は、『大地の民』が多い公共住宅で珍(めずら)しい『鳥人(バードマン)』で、赤く澄んだ大きな目にとても綺麗(きれい)な白い羽根の持ち主でした。サジェと私は、どちらも親と多少折り合いが悪いと言う共通点があって、すぐに仲良くなったのですわ」
ここで縦ロール美女は、背景に二人の人影が遊ぶ無数の画像を重ね合わせ、輝くような笑みを浮かべた。
けれど彼女は、それらの画像をすぐに消し、まるでそれに合わせたかのように、笑みをより穏やかなものへと切り替える。
続けて画面に加えられたのは、巨大な竜の影だった。
その影は、目だけが鬼灯(ほおずき)のように赤い。
竜は片方の人影——ひとりの少女の背後に立っている。