幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「ええ、だって過去のことは結局分かりませんわ。『前世』の記憶にしても、それは同じこと。そもそも記憶と言うのは常に現在に合わせて(参照して)書き換えられ更新され続けられるものですからね。ちょうど、幸福な夫婦の苦労話が、幸せな思い出として振り返られるように。そして逆に、酷(ひど)い別れ方をしたカップルが、幸せだったはずの出会いや同棲(どうせい)生活を、詐欺(さぎ)や虐待(DV)に過ぎなかったと思っていくように。人間の記憶とは、誤解や思い込み、歪曲がいつでも起こるもの。そもそも、私が"本当に"ディルトーワ王の転生者で、総長(アマランサス)の前世の夫であったとしても…その記憶自体が、彼が自分に都合よく捏造(ねつぞう)したものでないと言う保証は、どこにもありませんのよ」
「で、でもだからって二十人以上同じヒトの転生者がいるのは変じゃありませんか?」
「そうでしょうか?モニ子さん、現在のアイドル空間第一位さんと“シナモリアキラの左手さん”のことをお忘れではありませんか?この呪術世界(ゼオーティア)では例外と言うのはむしろ必ず発生する凡庸(ゼオータイル)なものでしかありませんよ」
「そ、そう言えば…」
「さて、ご理解いただけたところで、私の幼馴染の話に戻りますね。“サジェ”は、私の前世の夢の相談に乗ってくれましたし、承認を祝ってもくれました。何より彼女は言ったのです。あなたに竜が恐ろしく見えたことと、実際には危険な存在ではなかったと言う『歴史的事実』は両立する、と」
「それは一体…?」
「簡単なことですわ」
首をひねる後輩に先輩は笑いかけ、吹き出しの中の竜の絵に新たな矢印を書き込んだ。
少女と竜の間にも往復の関係が生まれる。
曰く、
「身体が大きく恐ろしい姿をしていたとしても、うっかり振るう暴力が破滅的だったとしても…それとそれを振るう本人…この場合は“本竜”の“竜格(せいかく)”が直結するとは限らない、ということです。私も、『前世』の彼も竜(かのじょ)も、どちらも正しく、どちらも同じように間違っていた。互いに互いこそが恐ろしく、加害的な存在だと思い込んでいた…そう言うことなのかもしれないでしょう?良く、“結婚生活とはすれ違いだ”と申しますし…私自身、そういった例なら、たくさん見てきましたわ」
そしてノーブルは、続けて語る。
「その言葉に、私は救われました。確かに、両親は私がディルトーワ建国王の転生者と承認されたことを、すごく喜んでくれました。だってそれは彼らにとって、『大地の民』としての源流(ルーツ)と自分たち家族の繋がりが、その承認を通して証明された、と言うことだったのですから。けれどその反面、私自身にはほとんど『前世』の記憶も実感もなく、正直上手く受け入れられていなかったのです。でも、彼女の言葉が、それを変えてくれました。私がこれまで見てきた悪夢は、もしかしたら意味があり、“怖いもの”から意味付けを変え/再解釈して、いけるものなのではないか、と。“サジェ”は、私にそう思わせくれたのです」
それを聞いた後輩は喜(よろこ)んだ。
「それは良かったですね!“サジェ”さんは、先輩にとって本当に素敵なお友達だったのですね」
「ええ!その通りですわ!それに、王と言う『前世』とあまり裕福でない公共住宅暮らしの現状を、言葉使いを“王族らしく”変えることで折り合わせるアイディアだって、彼女が考え出してくれたのです!そのおかげで、私は二つの“自己認識(アイデンティティ)”を破綻(はたん)させることなく織(お)り合わせることが出来ましたし、その後の人生も『大地の民』としてしっかりと“地に足を着(つ)けて”生きていくことが出来たのですわ!」
頬(ほほ)を紅潮(こうちょう)させたノーブルは、その勢いのまま更に語る。
「『地下』には指標(モットー)がいくつかあります」
彼女は、あくまで、私が見聞きした解釈の範囲内の話ですが、と前説を挟(はさ)み、
「『傷つけない、奪わない、戦わない』あるいは、『与え、分かち合い、共に歩む』。そう、彼女はまさに、そんな『地下』の理想を体現していた女の子でしたわ!」
と言い切った。
その言葉に、モニ子は大きくうなずく。
「なるほど、だから先輩は“サジェ”さんのお話がしたかったのですね!が仲の良い友達だったと言うだけでなく、彼女のあり方が、『地下』の理想そのものだから。“サジェ”さんについて語ることで、『地下』の良いところがよく分かると言うことなのですね!」
ノーブルもまた大きくうなずき返して同意を示す。
だがそこで、縦ロール美女の顔は急に曇(くも)った。
彼女は、今までと打って変わった低い声で、新しい話題を語り出す。
「ただ、私には彼女の言葉の裏にあった思いを察することが出来ませんでしたわ…彼女自身、大変な問題を抱えていたというのに…その時の私は全く気づいていなかったのです。彼女のことにも、『地下』の『優しい社会(システム)』の裏側に隠された…恐ろしさについても…」
それは、“サジェ・ムルーニャ”と仮名をつけられた少女を通して語られる、『地下』社会の別の側面の話。
即(すなわ)ち、恐怖と視線(まなざし)についての物語だった。