幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第32話(26~27の途中まで)

彼を觀る左手(まじょ)の視線には、強い警戒が含まれ、加えてどこか怯えのようなものまであるようだった。

零落してもこれほど強大な力を振るえているというのに、そんな彼女でも、それでもまだ、恐れるものがあるというのだろうか?

 

しかし、黄金の猫耳を頂いた少年は首を振った。

 

「いいえ、僕は、この舞台ではあくまで脇役です。ただ、貴方の振る舞いを観ていて、少しだけ感じるところはありますが」

「感じるところ?なんでしょうか。良かったら、お聞かせ願えますか?」

「ええ、先程の『悪』についての話です」

 

天使触手は、そうして『悪』に対する自分の考えを再びまとめ始めた

それは、先程までのやりとりの影響を受けて変化した、いわば『転生』を経た新たな考え(アイディア)であった。

 

「先程、僕は『悪』とは"ズレ"だと言い、貴方は、"人間が共感し合うための条件"だと、そうお答えになりました。けれど実は、その二つは"同じこと"なのではないでしょうか?」

「というと?」

 

「『悪』を『悪』と決めつけるのは、そう定義するのは、その『悪』を行っている本人ではなく、その行い、言い換えるなら"振る舞い"を観察している他のヒトなのではないか、そう僕は思うのです」

 

その天使(レオ)触手の言葉に、悪魔(アキラ)の左手(まじょ)は、反論した。

 

「そうでしょうか?私には、二つは全く違うようにしか見えませんよ。どちらも、『悪』を否定すべきモノだと定義しているのは、確かに同じでしょう。しかし、『他人に否定される個人の振る舞いが悪』とする貴方と『誰もが共感し、否定すべきだと思える個人の感情や振る舞いが悪』とする私の定義は違います。その二つは、それこそ、天と地のように遠く離れていますよ」

 

その反論を、天使(レオ)触手は、柔らかく受け止める。

 

「それは、時系列で物事を捉えていないからそう見えるだけなのだと思います。『悪』とされる"現象"の過去と未来を考えてみて下さい」

「過去と未来にですか?『悪』は、時と共に変わってきた。だから、大目に見るべきだと?」

 

「そうです。左手(ディスペータ)さんがおっしゃる『誰からも否定という共感を集めるモノ』、『悪』とされる振る舞いや感情といったモノも、最初はそうではなかったのではありませんか?」

「殺人や強姦もですか?」

 

「戦争や処刑は、常に正義とされてきましたし、古代の結婚には強姦に近いモノも多かったと聞きます。そのことは、左手(ディスペータ)さんの方が、良くご存知なのではないですか?」

「それは……」

口ごもる悪魔(アキラ)の左手(まじょ)を前に、猫耳少年は熱弁を振るう。

 

「『悪』を好んでやるヒトなど、基本的にいないはずです。出来るなら、みんな『悪』いことなんて、決してやりたくはなかったし、『悪』人になどなりたくはなかったはずです。

だからきっと、どんな思いも行いも、最初は『悪』ではなかった。左手(ディスペータ)さんは、そうは思いませんか?」

 

「その点は、見解の相違ですね。『悪』は『悪』、おぞましきモノ。なにを『悪』とするのかは、確かに共同体(なかま)次第でしょう。しかし、ヒトは好んで『悪』を為(な)します。

ルールを破り、他者を傷つけ、美を汚し、己がが欲望のままに、踏みにじる。

 

それこそが、ヒトの本性であり……ヒトを支配するために利用されている性質なのですよ」

「それは、そうかもしれません」

「でしょう?ですから、私はアキラ様を…」

 

しかし、そこで天使(レオ)触手は、別の例を挙げてきた。

 

「けれど、『悪』や『罪』とされていることでも、それは必ずしも昔からそうだったとは限りませんし、これから先も、ずっとそうだとは限らないものですよ。ちょうど、法律がそうであるように」

 

「なるほど、その点も確かに認めなければなりませんね。否定すべき『悪』法というモノは確かにあります。それはこの左手(ディスペータ)が、保証しましょう。けれど…」

左手(まじょ)は一旦肯定し、だが、そこで終わらず、反論へつなげる。

 

「けれど貴方は、全てが相対的であると言うのですか?汚濁も苦痛も、それは否定できませんよ。どれだけ価値観が変わっても、『殺戮』や『死』が肯定されることなどあり得ません。ペレケテンヌルの祝福などの例外こそありますが、『苦痛』や殺人が『善』とされた共同体など、瞬く間に滅びてしまうでしょう。それは必然なのです」

 

「でも、個人なら滅びて、そして転生もします。滅びた国だって、名前や理念を受け継いで蘇ることはあるかもしれませんよ」

 

「……まあ、それはそうでしょう」

復活した『死人の森』の元女王であり、転生した女神である"左手"(ディスペータ)は、苦々しげな表情を浮かべながら答えた。

 

だが、猫耳(レオ)触手は、追及の手を緩めない。

"彼"は、己の持論を滔々と語り始めた。

 

「個人と共同体(しゅうだん)とのズレが『悪』となるのも、『悪』への嫌悪が人びとを同調(チューニング)するのも、その二つは同じこと。一つの"現象"の別側面です」

 

 

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