幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第33話(27~28の途中まで)

そして、猫耳少年は、一歩を踏み出し、声高らかに告げた。

 

「僕は思うんです。『悪』とは『悪』ではないものを示すために、そこから進むためにあるのだと。『倫理』は、共同体(みんな)がが決めるとしても、『道徳』なら、きっと自分で生み出せるはず。

そう、進むべき『道』は、自らの中にあるのだと!」

 

黄金の猫耳の輝きを頭上に戴きながら、少年触手は、更に語った。

己が理想を、迷いなく。

 

「価値観が変われば、『悪』も『悪』では無くなるのなら、完璧な『善』だと思われていたのが、実は『悪』だった原因だったことになるかもしれない。

『本質』とされてきたものが、実は『役割』の決定ならば、その決定権が外側(みんな)にあるとするなら。

放浪の道化と王、善き王と邪悪な大公だって、その役割は交換可能なのかもしれない。

それはある意味、『自然』な変化だとすら、言えるのかもしれませんよね?

――――あるいはちょうど、王子がいつか王になるようにこの世界なら、それは十分にあり得ることでしょう?」

「だから、ラリスキャニアの『悪』趣味な舞台も、『悪』ではなくなるかもと?」 

 

それを迎え撃つ、地の底を這う瘴気のような悪魔(アキラ)の左手(まじょ)の問いかけにも、

 

「そうです。それに、『悪』とは、単に嫌悪されるものではありません。"自分もそうなるかもしれない""ああはなりたなくない"あるいは"なりたいけどなってはならない"というような可能性であり、自らの『道』を定めるために用いられる"尺度"なのです。

いわば、教師であり『道標』と呼ぶべきものこそが、『悪』。そう考えてみても、良いのではないでしょうか?」

 

"彼"は、迷わず逆に問い返す。

とはいえ、そんな情熱的な天使(レオ)触手の激しい熱弁をもってしも……左手(ディスペータ)は、涼しい顔をしていた。

 

だがそれも……

 

「だから、ラリスキャニアさんの露『悪』的な舞台は見過ごすべきモノであり、いつかは許されるべきだと?ずいぶんとお優しいですね」

 

彼の説明が、次の段階に達するまでの話だった。

 

「貴方についても、それは同じです」

「……なんですって?」

 

悪魔(アキラ)の左手のひらにある美しい女神の顔が歪んだかと思うと、くるりと半回転。

手の甲にある恐ろしい髑髏の顔が、猫耳"少年"を睨みつけた。

 

急に余裕が失せた左手(まじょ)に向けて、天使(レオ)触手は、さらに告げる。

 

「他人を傷つけること、他人に干渉したり思想を押し付けることの全てを『悪』とするならば、当然、『教育』や『お世話』も出来なくなります。

人が人を導くことや支えること、友情や愛情も不可能になる。

貴方は自分の行動を『悪』だと定義しているようですが、それも結局は悪魔(アキラ)触手さんたちを『保護』するために行っていることでしょう?

それに対する自己弁護を行わないのは、やはり露『悪』的なのではないですか?

そんな貴方には、ラリスキャニアさんを批判する資格はありません。

少なくとも、彼女には自分が演じた舞台を基準として、そこから"べつのどこか"『悪』ではない何かを、探そうとする意図があるのですから」

 

今も本体(アキラ)を押さえ続け、邪『悪』にしか見えない姿の左手(まじょ)は、それに静かに言い返す。

 

「『教育』なんて、しょせんは自己満足。

『自我』(エゴ)を拡大させ、自分の思想や価値観を信仰させるために行われる、教師にとって都合の良い『洗脳』でしかありません。それは完全なる『悪』です。

確かに、"私"の振る舞いも『悪』として同様に分類されるものかもしれません。

けれど、あれのような刹那的な浪費主義の『洗脳』に比べれば、"私"に『保護』されたほうがずっとマシなのですよ。

"私"には、少なくとも『歴史』があります。これまで積み重ねてきた、不変の『平和』と『繁栄』の日々の実績が。

ですが、あれやラリスキャニアの舞台は違います。

理想の未来を目標とし、そこへと『導く』『意図』(いと)に縛られた舞台なんて、結局は破滅するだけでしょう。

そこにあるのは幻影の『理想』、書き割りの『未来』、虚構の存在が示す、虚構の『幸福』

それは、私の『死者の永遠』などとは比較にならないような、虚しい『空手形』でしかありません」

 

その諦観に対し、天使(レオ)触手はなおも食い下がる。

 

「しかし、一緒にいるには『未来』が必要なはずです。

『未来』は、所詮幻想かもしれませんし、時として有害になる。それは、否定できません。けれど、それでも人は、『夢』を見る。『夢』無しでは人は生きられないのです!」

 

だが、その熱弁に返ってきたのは、あまりに冷徹な一言であった。

 

「ならば、死んでしまえば良いのです」

「そんな……!」

 

「死んだまま、『永遠』に共にあり続ければ良い。

所詮、『悪』は、滅びる運命(さだめ)。

『幸福』と正義によって、完結した『善』のセカイの完成によって、絶対に滅ぼされるものです。

だから、その前に用意しておくのです。共に滅び、永遠に過去の幻影として共に存続し続けられる場所を。"私"たちの、いいえ"私"だけの『楽園』を用意して、そこで暮らすのです!」

 

 

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