幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第36話(29~30の途中まで)

そして、彼女は、さらに投げた。

 

 

 

 

白いお菓子は、宙を舞い、触手たちの上から降りかかる。

 

「またですか…今更何の用ですか?甘いものの贈与とか、昔のアキラさまの猿真似ですか?」

悪魔(アキラ)の左手(まじょ)は、軽蔑の眼差しでさっきまで倒れていた地下アイドルを見つめた。

 

「使えるなら、なんでも良いさ。『贈与』に著作権も商標登録も無い!さあ観なよ!貴女が否定した『姉妹』の舞台を!」

 

"挑戦者"が、恐るべき女神を見返すその目には、まだ諦めの色がない。

 

抗議をしようと口を開けた元女神は、ふと眼の前のお菓子を見た。

それは白く、柔らかく、彼女にとってとても馴染みのある形をしていて、つまりはとても美味しそうで……

気づけば、彼女は思わずそのお菓子を口に含んでいた。

 

もたらされたのは、期待通りの柔らかさ、そして甘さ。

マシュマロは、外見そのままの淡雪のように口に溶け、一瞬、ほんの一瞬だけ、彼女に恍惚をもたらした。

 

そしてその時、気持ちを張り詰めさせていた左手(ディスペータ)に、ほんのわずかな隙が生じてしまっていた。

 

その隙を逃さず、"興行主"は、舞台を指差した。

 

そこでは、いつのまにか場面が変わっていた。

舞台設定は、先程の住宅のままで変わっていないし、登場人物もそのまま。

演劇的な意味での『場』自体には、変化は無い。

だが、その『空気』は、明らかに一変していた。

 

険悪な『空気』が漂っていた室内の雰囲気(ムード)は一変し、どこか穏やかなものになってる。

 

「これは…一体何が?」

 

そこには、二つのちいさな背中が並んでいた。

心なしか穏やかな明るさのスポットライトが照らし出すのは、並んで皿洗いをする二人の『姉妹』だ。

 

どうも、最初はミルーニャ母娘が皿洗いをしていたが、母親がリーナの寝床を準備しに退出したため、こうした構図になったらしい。

不相応に高すぎる椅子の上で足をばたつかせながら、ちいさなリーナは、必死に皿を洗っている。

 

白い少女は、表面的にはそれを無視してはいたが、時折ちらちらとそちらを伺っており、『妹』を気にしていることが窺(うかが)える。

だが、隣り合う二人の背中の間には、絶対的な距離があった。

 

と、その時

 

ガチャン!

 

破砕音が、台所に響き渡った。

皿が割れたのだ。

 

ビクリと身をすくませるリーナ。

また心無い言葉が投げつけられるのではないか、その恐怖が小さな少女を怯えさせていた。

だが、彼女は、その少ない人生経験からは予想外の体験をすることになる。

 

キツイ目つき、無言の接近、それはまだ予想できた。

だがそこから先は、その時の彼女には予測し得ない未知の体験だったのだ。

 

柔らかな感触、確かな手応え、そして手から伝わってくる、あたたかな温もり。

白い少女は、素早くリーナの手当をしたのだ。

それはとても的確で、失敗したリーナへの怒りも嫌味も、先程までひしひしと感じられた憎しみさえも関係ない、気遣いそのものと言って良い、そんな治療った。

 

そしてミルーニャは、少しだけ小さなリーナに注意をし、舞台の奥からの母の呼びかけに応えると、手早く割れた皿の後片付けを始めた。

 

慌てて、片付けを手伝おうとするリーナ。

 

白い少女は、最初のうちはそれを断ろうとしていたが、三角帽子の少女が、いつまでも諦めようとしないのを見て、面倒になったのか…ついにはそれを許した。

彼女は、慌てるリーナにチリトリを押し付け、テキパキと役割分担をして皿の破片を全て片付けたのだ。

 

そして片付けを終えた二人の少女は、また並んで皿洗いを再開した。

その背中は前と全く同じに見えたが、ほんの少しだけ違いがあった。

二人の距離が近くなっていたのだ。

 

少し、ほんの少しだけ、三角帽子の少女の背中が、白い少女へ近づいている。

住宅の"奥"とされる幕の隙間から母親役の触手人形が見守る中、そこには、温かな空間が展開されていた。

 

そして、大人リーナのアナウンスが、その場面を実況している。

その音声は、あろうことか、まるで他人事のように、ほぼ棒読みだ。

しかし、かえってその棒読みが、その場面の叙情的(リリカル)な情緒を引き立てていた。

 

おそらく、そこまで効果を計算しての演技なのであろう。

 

その舞台には、"愛"があった。

互いに交わす言葉こそ無かったが、気づかい合い、互いを思いやる『姉妹』の振る舞いが、確かに存在した。 

それは、うかつに言葉にすれば、強風に吹かれたシャボン玉のように消えてしまうだろう、はかなく尊い空間であった。

 

言葉になる以前の関係性、間近に存在するゆえの温もり(エモーション)が、そこにはあったのだ。

 

さらにラリスキャニアが、そこで指を鳴らし、追加の指示(オーダー)を下す。

 

「そして」

 

そして、舞台の場面が、切り替わった。

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