幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第37話(30~31の途中まで)

舞台の奥、それまで"背景"の役割をしていた『引割幕』が開き、新しい"背景"が現れたのだ。

次の場面は屋外であり、どうやら、前の場面で出てきた家屋に付属している庭のようである。

そこにいるのは、また先程の少女二人。

 

髪と目が白から茶色に変わっているが、先程と変わらず幼い姿の"姉"

少しだけ背が伸び、成長しているが、その"姉"と大して変わらない"妹"の二人である。

"姉"は、キレイに包装された大きな包みを抱えていた。

 

どうやら、それは彼女へのプレゼントであったらしく、"妹"はそれを押し付けられて、あたふたしている。

やがて、"姉"にうながされた"妹"は、その包みをぎこちなくほどいた。

その中にあったのは…

 

「箒?」

 

そう、左手触手(ディスペータ)がつぶやいた通り、箒であった。

 

"妹"は、子供の頃のリーナは、"姉"から箒をプレゼントされ、それこそ飛び上がるように喜んでいる。

 

最初こそ、恐る恐るだったその扱いも、すぐに恐れを知らない荒々しく激しいものになっていき、子供リーナは、箒をまるで自分の身体の一部のように乗りこなすようになっていった。

箒の効果なのか、星屑を撒き散らして飛び回るリーナを下から厳しく見守る"姉"

 

いくらか厳しい言葉を投げかけているようだが、その姿には、"妹"を見守る優しい姿勢があった。

やがてその"妹"は、調子に乗って木に激突し、墜落したりもするが、それでも、彼女は無事であり、墜落した地面で問題無さそうに頭をかいていた。

 

そんな"妹"に"姉"が駆け寄り、そのタイミングで、舞台は時間が止まるように動きを止めた。

そこで舞台が暗転し、ひとまずの幕が降りる。

一つの場面の終わり。

 

そうした舞台を指し示し、"興行主"ラリスキャニアは、語った。

 

「不幸だとされる家庭環境での、ささやかな幸福(しあわせ)。こうした光景を成功者へのお追従だとか、欺瞞だとか。不幸だけにしか関心がないもいるかも知れないな。だが、あえて言おう。見たか!姉妹愛の素晴らしさを!」

 

地下アイドルが演出したのは、まさに、マシュマロのような、甘く温かな印象を与える場面。

ひとたび幕が降りた後も、心のなかに余韻が残り続けるような、そんな舞台であった。

 

ラリスキャニアは、思う。

推察するに、今回の題材は間違いなく前女王にとって重要なものであるはず。

これは確実に成功したに違いない……!

 

そして"興行主"の役割を果たした地下アイドルは満足げな笑み(ドヤガオ)で振り返った。

その顔は輝き、『満足げな顔』の見本として百科事典に今すぐ載せたり、SNSのスタンプに出来そうな塩梅だ。

 

だが……悪魔の左手(まじょ)は、それを無情にも切り捨てた!

 

「あんなもの、ただの誤解、都合の良い勘違いに過ぎませんよ。全ては、ただ去りゆくのみ。どんなに幸福な時間も、優しさや思いやりだと誤解した関係も、みんな儚いものなのです。

“ 『人』の『夢』と書いて『儚い』”これもアキラ様の国の言葉ですが、こちらの方が、よく目にする光景ではありませんか?夢はしょせん破れるもの。

姉妹愛も、理想的な妹の存在も、全ては儚い夢に過ぎないのですよ。

ほら、見なさい」

 

そして、悪魔(アキラ)の左手(まじょ)は、指を鳴らした。

同時に巻き起こるわずかな振動音、駆動音。

幕の裏側で、何かがうごめく気配。

何かが、起きている。

 

「これは…!」

「言ったでしょう。"貴方に出来ることは私にも出来る"のです」

 

そして、場面は再び切り替わった。

 

今度の舞台はまた暗く、ただ月光のようなスポットライトだけが、唯一の光として静かに照らしていた。

その光が照らすのは、少女ではない。

疲れ切り、死にかけている一人の中年男性だ。

その髪は、骨のように白い。

 

「あれは、リーナの…」

 

そう、それはリーナの父、アルタネイフ氏であった。

前の場面の酔っぱらいとは似ても似つかない凛々しい横顔、武器を握るその姿は、まさしく生粋の戦士のものだ。

 

だが、彼は死にかけていた。

なぜなら、人狼の左手が剣となり、彼の背中から突き出しているのだから。

 

黒い棘が無数に生えた剣が背中から生え、流血の華を咲かせている。

 

それこそは、彼の死の場面。

かなわぬまでも強敵に立ち向かい、仲間を逃して逆転の機会を作った『英雄』の……それが末路だった。

 

やがて彼の…『英雄』の手にある杖の宝石が強く輝くと、それはすぐさま強烈な閃光へと変わった。

自爆。

しかし、それは……何の成果ももたらさない。

強い光、爆風、凄まじい爆発、だが、それ以上は何もない。

決死の自爆は、肝心の敵に、傷ひとつ付けることは出来なかったのだ。

 

無傷の人狼は、怒り狂って何かを叫びながら舞台から退場していく。

そこには何も残らない。

骨も、遺品も、灰の一粒すら……。

 

そこには、華々しさや栄光などは何もなかった。

そこにあったのは……

 

「ただの虚無。そして徒労。貴方が讃えていたのは、こういうモノなのですよ」

「くっ…だが彼の死は、後に続くものを遺した!」

「それは、こういったことですか?」

 

"興行主"の反論を、悪魔(アキラ)の左手(まじょ)は、静かに返した。

そしてまた、指を鳴らす。

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