幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第39話(32~33の途中まで)

更にダメ押しとばかりに、左手(まじょ)が言い放つ。

 

「家族アルバムですか、下らない。

思い出の場面、重要な視界というものは、常に己の裡(うち)にあるものです。

念写写真や絵のような物質は、それを呼び覚ますための単なる標識、記号に過ぎません。

 

それゆえに、『杖』は先に進んでいるようでいて、実は過去に取り残される分野なのです。

思い出は常に過去にあり、胸にある思いだけがいつも正しいのです。

それに、二色だけで白を再現できるわけがありません。

 

そもそも、過去の再現とはいえ、真に小世界、ひとつの世界を再現し運営しようというのならそれに用いるべきは教義を錬成する『白』ではなく――――いえ、あなたには関係のない話でしたね」

 

強大な呪力をもって蜃気楼のように周囲を揺らがせる左手(もとめがみ)は、そこで一旦言葉を切り、脱線仕掛けた話題を元に戻した。

彼女が"興行主"を見る瞳は、冷たく、とても鋭い。

 

「そして、貴方の手札もその本が最後ですね。この部屋の中には、あなた以外に強い呪力を感じません

もう、他に切り札は無いのでしょう?

傷ついた戦士は妖精の庇護を受け、永遠に幸福の島で暮らすのです

もはや、世界の命運を争う戦いに参加する必要もないし、英雄になる必要もありません

燃え尽きるまで戦ったところで、結局、後には何も残らないのですから……傷を反復するだけで、他人の救いをなぞることしか出来ないのであれば、貴方は所詮この程度。

大きな舞台(レビュー)に当たって砕け散る前に、せめて自分の小さな舞台(おにわ)の中で死になさい。

それが、せめてもの慈悲です」

 

悪魔(アキラ)の手の甲に浮かぶその表情には、その語気の強さに反して、奇妙なほど感情が見られなかった。

そこにあるのは、悲しみではない。

それは、ただの虚無だった。

 

こうして、ラリスキャニアが戦況挽回のために用意した劇は、中断されてしまった。

切り札の『聖典』はもう無い。

ナレーターを努めていた大人リーナの触手も、さっきの弾みでちぎれ飛んだのか、どこかへ消えてしまった。

そして立ちはだかるのは、圧倒的な強敵。

 

だがそれでも、それでもラリスキャニアは、力強く悪魔(アキラ)の左手(まじょ)をにらみつけ、その言葉に反論するのだった。

 

「なぜ、早々に諦める!どうして自分の限界を小さく決めつけるんだ!」

 

「……早々にではありません。もう何度も、何度も何度も何度も……試みたその結果です。それに、それを貴方が言いますか」

 

悪魔(アキラ)の左手の甲にある髑髏(ディスペータ)は、地下アイドルを更に強くにらみつけた。

 

そのまなざしは、烈火のように激しく、それでいて月光のように冷え切っている。

「それは…」

 

言いよどむラリスキャニア。

 

そうだ。

そもそも、今回の舞台(レビュー)の演目(プログラム)は、"リーナたちの陰謀によってラリスキャニアが勝てなくなる"ということ。

つまり、"ラリスキャニアが敗北してしまう理由"を説明することが目的なのだ。

 

いくら諦観を批判したところで、その批判している当人が同じような諦めの振る舞いの中にいるのであれば、相手に打ち勝てるわけもない……!

 

だが、そんな諦観劇の"興行主"も、今回は、沈黙を選びはしなかった。

 

今度こそは、口も心も閉ざしはしない。

内心(じゃし)を強く信じ、同時にそれに囚われている元女神(ディスペータ)と違い、地下アイドル(ラリスキャニア)がいま奉じているのは、演技(ふるまい)なのだ。

 

たとえ心深い共感を覚える同類であろうとも……その表現(アピール)が異なるならば、それは別の人物(アクター)だ。

振る舞い(アクション)を、演技(アクト)を変えさえすれば、そこにはきっと違う未来が待っている、そのはずだから……!

 

無論、ラリスキャニアは、盲目的に『明るい未来』を信じてはいない。

今の彼女は、敗北者にして挫折者だ。

 

想像もできない超越的な舞台(しんわ)を見せつけられて心は折れ。

それでもやってやる、と全力を尽くした演技(レビュー)をもってしても、再び敗北した。

そんな状況で更に立ち上がり、メモ用紙を折って月を目指すような無限(おわらない)努力を続けろというのか?

 

そんなことが出来るのは、よほどの馬鹿か、異質(いじょう)な価値観(しざ)を宿した異邦人(ゼノグラシア)くらいのものだろう。

ラリスキャニアは、そんな異常者(えいゆう)ではない。

 

彼女は、ただの転生者だ。

 

その転生にしたところで、ある舞台から別の舞台へ、見も知らぬ演出家(かみ)の手によって運ばれただけ。

言ってみれば、いくらでも代替が効く脇役(サブキャスト)に過ぎない。

 

だから、そんな彼女に、これ以上ここで立ち上がるような…立ち上がって、さらに超越者(メインキャスト)に立ち向かうことが出来るような、そんな脚本(しんわ/ミュトス)も道理(ロジック)も…そんなもの、あるワケがないのだ。

 

だが、それでも…

それでも、なお、あきらめきれないものがある!

 

明らかであっても、倒れるのが道理(すじがき)であっても、ここであきらめていけないものが、ここにはあるのだ!

 

なぜならば。

そう、彼女の心が叫んでいるから……!

 

だから、彼女はここでさらに言葉を吐き出すことにした。

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