幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
ここで、この窮地(せんじょう)で。
戦場で怯えた兵士が嘔吐するように、自己中(ワガママ)な子どもが母にすがりついて泣きわめくように、
たたただ、心の内をぶち撒けるのだ!
ただ、思いを表出したい。
無意味で良い。
不格好でも無秩序でも、なんなら、盲目的で無目的な雑音(ノイズ)になっても構わない。
どれだけ醜くみっともなくとも、ここで終わるわけには…
何もせずに、舞台(じんせい)を去るわけには、いかないのだから…
だって、そんなことになれば・・・
誰より興行主(じぶん)が許せないから!
そうして力強く紡がれた言葉は、それでも、いやだからこそ、やっぱり無意味なものだった。
すなわち――――
「言理の妖精語りて曰く、ボクの名前はラリスキャニア!ボクは、このアイドル迷宮の地下アイドルで!興行主で!そして、座長(しゅえん)男優にして女優だ!」
そこでひと息入れて区切りを入れ、
「ボクの人生は、ボクが主役だ!超越者(かみ)だろうが英雄(ちょうじん)だろうが、誰にもその舞台(レビュー)を譲ったりなんてするものか!」
それは、ごく当たり前な、決意表明(じこかくにん)に過ぎなかったのだ。
女神との直接対決。
避けられない苦境、回避できない苦痛が、ラリスキャニアの決意を呼び覚ましていた。
別に追い詰められて、精神的に成長できたわけではない。
強くなれたわけでもない。
だがそれでも、退けない理由だけはあったから。
だから、彼女は、そのまま一気に攻め込んだ。
一見、勢い任せの無謀な突撃に見えるが、実は勝算はある。
今までの言動から推察するに、あの左腕(めがみ)の弱点は、アレ以外に無いはずなのだから……!
「『ディスペータ』貴女は、ただ愛されたいのではないか?」
続ける。
「貴女は間違っている。そのやり方では、求めるものに決してたどり着けない。間違った手段で得られるものなど…何もないんだ」
怒涛のように。
「高圧的に支配されて、そんな相手を好きになれるわけがないだろ!貴女は『シナモリアキラ』を愛しているのでは……そして愛されたいのではないのか?」
ひたすら語りかけた。
結論は、愛だった。
いかにも陳腐な言葉だ。
どんな三流の小説や動画番組にも出てくるような、そんなありふれた、零落した価値基準。
だが、『彼女』に弱点があるなら、これしかない。
だからこそ、その言葉は、雷鳴のようにこの場に響き渡ったのだ。
少なくとも……言葉を発した当の発言者は、そう感じていた。
これならば、必ずや絶大な効力を発揮するに違いない。
さあ、どうだ?
効力を確信して、ラリスキャニアは、再び自慢げな笑み(どやがお)を浮かべた。
そして、その効力を視認すべく、彼女は勢いよく振り向いたのだ!
だが…
「ハハハハハハ!」
「な、なに!?」
そんな地下アイドルを待っていたのは、異様な高笑いであった。
左手魔女が、唐突に大きな声をあげて笑い出したのだ。
「ごめんなさい。漫画が面白過ぎて、聞いていませんでした」
その顔の前には、いつの間にか端末が浮いている。
そしてさらに、彼女の次の言葉が、興行主(ラリスキャニア)にトドメを刺した。
「なんのお話でしたっけ?」
「ガン無視!」
そう、左手(めがみ)は、座長(かのじょ)のことなど全く見ていなかった。
端末をいじり、時折にやにや笑っているだけ。
その端末からは、立体映像で何やら漫画のタイトルらしきものが浮かび上がっていた。
『一旬節後には、絶対に殺されるサイボーグ。』
あまりにも長すぎるタイトル。
そんなものが、あの女(ひと)の趣味なのだろうか?
呼びかけを無視し、ひたすら漫画を読みながら笑い声を上げる『左手』(かのじょ)
そこにあったのは、完全なる無視であった。
そのあまりの徹底ぶりに、地下アイドルは、思わず自分が透明人間になったかのような錯覚すら覚えた。
まるで、自分は始めから存在しなかったように。
あるいは、独演によって再現されていたのは自分の方であり、そも『左手』(ざちょう)が演技を止めたことでだんだんと消えていってしまっているような・・・!
「バカな!そんなこと認めるか!」
それは、完全な無視。
無視の、具現。
急に、自分の影が薄くなったかのように感じたラリスキャニアは、それに抗おうと大声を上げた。
「本当にそんな態度で良いのか!『神も人間を必要とする』んじゃなかったのか!『シナモリアキラ』と支え合い、共に歩むのが貴女の望んだ道ではなかったのか!」
届かないと感じても、
「その『愛の巣』に、本当に愛はあるのか!」
精一杯に声を張り上げ、
諦めず必死に呼びかけたが……
「あー面白い。この奴隷サイボーグの話は本当に面白いですねー。完全に自由がないから、もう誰も裏切れないから特に面白いです」
相手には、全く会話をしようとする気が見られなかった。
全力を注ぎ込んだ説得が通用しなかった『座長』の身体に、寒けが走る。
なんだコイツは……。
会話が通じない。
感情的な交流が一切出来ない。
そんなことを感じ、震える地下アイドルに見せつけるように…
「貴方の舞台良かったですよ……このアプリ漫画の方が面白いですが」
『左手』(まじょ)は、いかにもつまらなさそうに吐き捨て、口の端を歪めてみせた。
その笑みは、夜の砂漠のような寒々しさしかない、乾ききった笑顔であった。