幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
そんな彼女は、続けて語った。
「流行り物は良いですね。さっと楽しめて、後に何も残らない」
「流行り物を馬鹿にするな。時の試練を経て、生き残る流行り物だっていくらでもある!」
「消えるのですよ、あなたと同じように」
今度は問答こそ成立したものの、取り付く島もない。
「今の貴女の振る舞いは、まるであの人狼の王、エスフェイルの支配と同じだ。そんな関係は、結局中身が空っぽの……!」
『座長』を自認する地下アイドルは、それでも語り続けようとしたが……
「それはそうです。けれど、空っぽでも良いのです。私の愛するこのヒトも、その本質は虚無なのですから」
「な、なんだと!」
なんと、あっさりと肯定されてしまった。
こんなふうに肩透かしを食わされてしまうと、力のぶつけどころがない。
場に君臨する元女王は、いやこの『舞台』の『役者』は、滔々(とうとう)と語った。
「空っぽの恋人に空っぽの支配者、それで良いのです。
アキラ様苦しむゆえに私あり、アキラ様が苦しみ、己に抱き続ける不信と疑念こそが、彼と私の存在を証明し続けるのです。
私がアキラ様を苦しめることで証明し、苦しむアキラ様がその支配者たる私を実証する。
英雄は辛く苦しい旅を続け、ついに欠けたモノを取り戻しました。
だから――――もう、英雄になる必要もないし、旅をする必要もないのです」
朗々と声を張り上げる彼女は、まさにこの『舞台』の『主演女優』だった。
「バカな!そんな理屈があって、それで英雄(ヒーロー)が否定されて良いワケがない!」
だが、彼女は、『座長』の批判など物ともせず、大物(ビッグ・スター)の風格を漂わせながら話を続ける。
それはもはや対話劇ではなく、ただの独白。
世界でただ一人が演じる『悲劇』の『終幕』を告げるモノローグだ。
「二人の間に、『呪文』(ことば)はいらない。
私とアキラ様の物語は、二人が一つとなった時点で完結したのです。
破滅が約束された儚い繁栄なども要らない。
これからは、みすぼらしい『杖』をついて歩く必要も無い。
夢も希望も、その全ては虚しい嘘だったのです。
だから、この見つめ合う『邪視』(まなざし)だけが、私たちの存在と幸福を保証するのです。
虚無の主従は、空っぽ同志でお互いの担保となり、それによって物語は完結を迎えます。
永遠に『幸福な終わり』(ハッピーエンド)に到達しない、『未完成な永遠の中断』(メリーバッド・エターナル)へと。
『完結しない終焉』こそが、唯一の答えとなり、同時に救いとなるのです。
さあ、幕を閉じましょう!
アキラ様と私の、転生者の舞台はここで終わる。
『英雄物語』は、ささやかな一場面、恋人たちの一幕をもってその主筋(レゾンデートル)を塗り替えられるのです。
そしてそれは、それだけは、いかなる超越者(かみ)にも邪魔することは出来ない、いいえ、決してさせません!
これからこの部屋は、私たちの『愛の巣』は、呪われた部屋、『英雄物語』になるはずだった舞台のタイムカプセルとして、永遠に保存されていくことでしょう……!」
「そんなことを許すものか!」
驕り高ぶる左手(ディスペータ)に駆け寄る"興行主"(ラリスキャニア)
だが、それは遅かった。
「アイドル迷宮は、第五階層にある時突然現れました。が、まさか無から誕生したとでも?
あらゆるモノには、紀源があり、大抵のオリジナルにもその『源』がある。
アイドル迷宮にしても、それは同じ。
『世界槍』の中心たる第五階層に隠されたダンジョン、迷宮の中の迷宮。
その前身は、『キュトスの姉妹』ヴィヴィ=イヴロスの浄界『世界劇場』なのですよ。
だから、ここは中心の中心、世界の中枢のそのまた中枢。
そう、『観る』ことも出来ます。
だからーー十分な準備と適切な条件さえあれば、こういうこともやれるのです」
そう言い放つや、"主演女優"は、持っていた端末を投げ上げた。
それは当然のように墜落を止め、不自然に宙空に静止。
かと思えば、次の瞬間その位置を固定するに足る十分な『理由』が形成される。
細く透明な光る棒が、端末と地面を結んだのだ。
それは、写真が魂を削るこの呪術世界(ゼオーティア)には、絶対に存在しない物体。
端末の構造を拡張し、その『杖』的な"視界"を使用者に固定するためだけに作られた、異形の道具であった。
あるいはその知識は、彼女の拡張身体たる悪魔(シナモリアキラ)よりもたらされたものなのか。
たった今『左手』(もとめがみ)が『創造』したソレは――――異界の言葉で『自撮り棒』(セルフィー・スティック)と呼ばれていた。
そして
「"地盗(じど)り氷槍"とでも呼ぶべきでしょうか、稚拙なレプリカではありますが、ひとまずはこれで十分です」
"元女王"は、そう嘯(うそぶ)くと、その"棒"を自らに向け、絶え間なくシャッターを切った。