幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
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第一幕第三場 吸血樹が飾る学び舎で
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(あれ…これは…)
しろ
しろい
しろ、が
気づけば…そこは白かった。
一面の白。
そこには、ただ白があった。
(なんだこれは…?)
頭を振って、意識を立て直す。
そのうちに、少しずつ目が慣れてきた。
目のくらみが取れ、他の色も見えてくる。
白だけではない、薄紅色もある。
それは、上から降り注ぐ、花びらのカーテン。
どこかで見た気がする花が、樹木に満開と咲き誇り、はらはらと花びらを落としている。
(この光景、どこかで見たことがあるような……?)
考えようとするが、思考が全くまとまらない。
とりあえず、まとまらないままに一歩、足を踏み出す。
するとそこに…
(建物…白くて大きい…?)
忽然と、巨大な建物が出現していた。
(これもどこかで見たことがあるような…?)
やはり、分からない。
「ここは学園だよ。あなたの帰るべき場所だ」
「誰だ!」
急に声をかけられた。
白と薄紅だけの世界に、ふと影が差す。
見ればそこに、一人の小柄な人物が立っていた。
その背丈は、ラリスキャニアと同じくらいであり、体格も同様。
全身を黒いローブで覆っているため、特徴らしい特徴が伺えない。
声からすると、どうやら女性のようだが…?
「ボクは貴女だよ。今日は貴女を迎えに来たんだ。あるべき場所にね」
「そんなバカな!ボクはいま分身を出してないぞ!」
混血の『青い鳥』(ペリュトン)が放った激しい抗議を、小柄な人物は静かに受けた。
「貴女のほうが分身なんだよ」
「そんな…そんなことはありえない!」
影のような人物相手に、己の威を示さんと叫ぶ。
だが、その叫びには力が無く…
「それはどうかな?声が震えているよ」
相手にも、あっさりと見抜かれてしまう有様だった。
「くっ…」
口ごもる地下アイドルをニヤニヤ笑いが迎え撃つ。
「こんなところで立ち話もなんだ。場所を変えようか?」
そんなふざけた言葉に続いて、
パチン。
指を鳴らす。
すると、
「これは…!」
一瞬で、あたりの風景が切り替わっていた。
今度は、どこかの室内、やたらと大きな建物らしく、白い壁と声の残響が行ったこともない病院を連想させる。
「おどろくべきことじゃない『ラリスキャニア』なら、これぐらい容易く出来るはずだ」
「それは…そうだが」
相手の言葉には、ひとまず相槌を打ちつつ、あたりの様子を探る。
なにはともあれ、まずは情報だ。
それがなくては、何も出来ない。
ラリスキャニアのすぐ右には掲示板があり、紙が何枚か張り出されている。
対して、左側はといえば、玄関となっている。
外へと通じるその開口部からは薄紅色の光が差し込み、満開の花を咲かせた木々も見える。
どうやら、先ほど見えた建物の内部にいるようだ。
更にあたりを見回すと…身の丈を超える大きな棚のようなものが、いくつか配置されているのが分かる。
(靴箱が…『靴箱』?いや、なんでボクは、アレが靴を入れる箱だって分かるんだ?)
分からないことが、更に増えた。
だが、そこから推測出来る事実は、ただ一つだ。
(ボクは…ここに来たことがある?)
自然と目の前の怪人物――"自分"と目が合っていた。
不意に、直感する。
"彼女"が次になにを語りだすのか、分かるような気がするのだ。
ラリスキャニアは、相手の身体が動き出す幽かな兆候を掴んでいた。
そして気づけば、あたかも入念に稽古を繰り返したかのように、全く同じタイミングで、言葉を口に出していたのだ。
「「ここはラクルラール学園!」」
それと同時に、無数の記憶が地下アイドルの中いっぱいにあふれ出した。
まるでそれが、念写動画ファイルを開く合い言葉(キー・ワード)であったかのように。
今、彼女の精神は、虹色の奔流となったその思い出の光景でいっぱいに埋め尽くされていた。
その過剰さは、心の中いっぱいにあふれ、こぼれ、身体という枠すら乗り越えんとするかのように、どこまでもとめどがないものだ。
気づけば、言葉に紐付けられた蓄積は、更なる言葉へと形を変え、そのまま表現となって吐き出されていた。
目の前の"自分"とこちらの"自分"、そのどちらが先にそれを始めたのか、それは分からない。
けれどそれは、多くの評判を呼んだアイドルライブの感想を分身同士で言い合う/レビューするときのように、あっという間に、楽しく弾んだ思いの場を形作り始めたのだ。
「楽しかった競技会!」
「競技会、楽しかった!」
「空を飛びそうな対の校舎!」
「監視をかいくぐって、男子部と女子部の間の行き来!はっきり言って、面倒だった!」
「射撃場で心を撃ち抜く!」
「『青い鳥』(ペリュトン)に『杖』の修練とか、実際苦行でしか無かった!」
大気には春が満ち、ふわふわと現実感がない。
本来、大勢のニンゲンを収めるべき広大な校舎の中に居るのは、ただ、ここに佇む二人だけだ。
そんな地で。
どちらからともなく繰り出された言葉は、自然と重ね合わさり、輪唱のように互いを追いかけ合い、補完し合い始めていた。