幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
思い出話に昔語り。
二人の声は、校舎に響いた。
白く巨大な伽藍堂の中を、乱反射する音がこだましながら去っていく。
高く遠く、遠く高く。
暖かな空気に包まれ、どこまでも遠くへ響いていくその声は、まるで地の底から聞こえる死者の嘆きのようだ。
あるいはそれは、地上を羨む天の城塞(エクリーオベレッカ)からの羨望のため息なのか。
いずれにせよ、それは上下左右前後不覚。
あらゆるものを巻き込みながら、全ての正気を失わせていくかのような、そんな春の歌声だった。
輪唱は、続く。
「校庭を埋め尽くす厳重なゲート!」
「ほとんど『杖』だけの個人認証とか、偽装余裕でした!」
「妙に情報通な購買の店員!」
「生徒の個人情報入手で助かった!」
「褐色の保険医!」
「異様に気配に敏感!特に少年に視線が熱い!」
そうして声は、谺(エコー)となって球遊びのように幾度も投げられ、投げ返され……
「ボクは置いていかれた!」
「ついていけなかったんだ!ボクは…」
その言葉をもって、唐突に途切れた。
一度途絶えれば、跡に残るのは、ただ虚しい静謐ばかり……
だが、それもなんとか、また破られた。
「浄罪の月の授業参観…」
「なんとか生き残れた…」
破られはしたが…けれど、その勢いは戻らない。
懐かしみたい思い出(メモリー)も、もはや品切れなのか。
「途中までは…」
「だけど…」
そこで、二人の声は、また揃った。
揃ってしまった。
否、揃わずには、いられなかったのだ。
それは、忘れられない傷(いたみ)だったから…
「「ボクは追いつけなかった」」
あのとき上演されたのは、神話が創られる超人たちの舞台だった。
地下アイドル・ラリスキャニアは、そこに立つことだけは出来た。
ただし、それが彼女の限界でもあった。
本筋には関われず、解決には役に立てなかった。
ラリスキャニアは、アイドル迷宮ではかなり実力がある方だと自負している。
シナモリアキラや『黒百合(チョコレートリリー)の宙組』とも、互角以上に戦えた自信はある。
だが、それでも……神々の舞台の上では、ほんの端役を演じることしか出来なかったのだ。
認めざるを得ない。
それを語る目の前の相手は、自分なのだ。
気づけば、そんな暗澹たる思いに沈むラリスキャニアに対応するかのように、いつの間にか世界も暗転していた。
外ばかりが明るく、建物の内側は、それに反比例するように暗い。
木々に咲く花は、光に透かした手のひらのよう。
どこか異様に輝く太陽の光を受け、内側に流れる赤い液体を透かしてグロテスクに脈動している。
地下アイドルは、そんな光景を観て奇妙な感覚を覚えていた。
地下アイドルは、そんな光景を観て奇妙な感覚を覚えていた。
それはまるで、輝く外部が上昇していくのとは逆に、暗い内側は無限に下降していくような…
それが向かう先はどこだろうか。
『地獄』かあるいは地の奥底の牢獄か『火葬場』か。
そして敗北者は、また、ぽつりぽつりと語り始めた。
「学園は破壊され……神々の舞台が始まったんだ…」
「ボクは、それを見ていた。見ているだけだったね」
「そうだ。ボクらは…ボクは、神々の舞台に参加することができなかった」
「そう、そうだったね」
「破滅があった」
「何度も、何度も」
「幾度もいくたびも」
「だが、その一度も…」
「ボクは…」
「そう、ラリスキャニアは…」
「勝てなかった…」
うなだれる地下アイドル。
沈黙の中、なにげなく床を見る。
すると、校舎のなかに、なぜか川が流れていた。
川の色は、青い。
とうとうと流れる雄大な大河は、左手の奥から忽然と現れ、右手の先へと消えていく……
そして、その左手側、校舎の外はと言えば、こちらも異様な光景が広がっていた。
いつのまにか、無数の人影が歩いていたのだ。
だが、その顔は見えず、どんな服装なのか、いかなる種族なのかすらはっきりしない。
しかも、それらは皆、燃えていた。
彼らは、日光を苦手とする『夜の民』だろうか?
だが、たとえ吸血鬼だとしても、あれほどまで派手に燃えるものだろうか?
紛争なのか?
テロリスト?それとも、ついにここで本格的に戦争が『再開』されたのか!?
だが、そこで迷宮で生まれた転生者は違和感に気づく。
『敵』が誰もいない。
空に箒や絨毯も無ければ、武装した兵士や使い魔の気配も無い。
超遠距離からの爆撃なのか?
いや、だとしたら、とてつもない音なり呪力の余波なりがあるはずだ。
そんなものは、全く感じられなかった。
そして何より、どうして誰も彼らを助けに向かわないのか?
こんなにも明るく日光が降り注いでいるというのに。
昼にはあまり外出しない『夜の民』以外なら、誰もがこの異常に気づく、そのはずなのに。
だがそれでも、それなのに。
誰も気づきはしないのだ。
陰ひとつ無い日差しの中、燃えながら『死』が歩いていた。
それは、霊長類が闇の中に描くような恐怖とは、真逆の光景。
全てが白く、光に満ち。
花は咲き乱れ、その生命を謳歌している。
だがそれは、間違いなく……悪夢だった。
半吸血鬼の夜の民は、そんな血も凍るような異様さに身震いする。