幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
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スイッチが入れば、黒板(ホワイトボード)に明かりが灯る。
白く輝き、白紙に変わる。
それは、全てを受け入れる無垢なる大地。
汚し砕けと、誘いをかける淫乱なる純潔の空白。
空白は真空だ。
自然はそれを嫌っている。
だからそれを埋めるのだ。
埋めることこそが正義なのだ。
そう言わんがばかりに、その不自然な虚無は一瞬のうちに塗り替えられる。
カチリ
そんな些細な、小さな映写機(プロジェクター)の駆動音によって。
ラリスキャニアは、教卓のスイッチを操作する。
まるで、スイッチを押すためだけに作られた機械になったかのように。
まるで、予めそのために刷り込み(プログラミング)されていたかのように。
彼女は、それによって動かされ、それに沿って語り始める。
まず始まりには、疑問があった。
すべての始まりこそは、問いである。
そこから、全てが始まる。
種子の中に成長後の姿が埋もれているように。
そこに終焉の時計(テロメア)まで刻まれているように。
問いは全てを含み、その終端をも内包するものなのだから。
「なぜ、彼女なのか?それが、ボクにつきまとった最初の問いだった」
念写写真。
そこに並ぶは、いずれ劣らぬ美少女ばかり。
そんな画面を指差しながら、ラリスキャニアは、静かに語った。
その指の先には、大きな花を帽子のように被ったひとりの少女がいる。
「プリエステラ。彼女は『街路樹の民』あるいはティリビナ人と呼ばれる民族だ。
彼女たちは、『上』で起きた『慰霊祭』での活躍が認められ、そこでの序列に組み込まれてその一員となった。
そこまでは良い。それは単なる歴史の1ページだ」
地下アイドルは、いつのまにか存在していたコップから水を飲み、言葉を続ける。
「だが、その過程には大きな疑問がある。彼女たちティリビナ人は、『上』において長い年月に渡って差別され、虐げられていた。
いや、なにも『上』の民衆や槍神教の過去の罪過や手のひら返しを糾弾しようと言うんじゃない。
そんなことは、ボクにはどうでもいい。
問題なのは…なぜ、このタイミングでティリビナ人が『上』の一員として認められたのか、だ」
「それは、やっぱり英雄アズーリアのためじゃないかな。”世紀の英雄を演出するための裏取引”とかね。
それに、『上』――槍神教が一致団結するための内輪向けアピールでもあるだろう。
それまで忌み嫌われてきたティリビナ人を受け容れることで槍神教穏健派の『智神の盾』の面子を立て、同時に、"これまで支配圏になかった『外部』からも恭順されるくらいを槍神教は偉大であり、同じく『外部』である『下』へと侵攻するのは当然の理である”とかなんとか宗教らしいお題目があるんだろう、きっと」
『本体』が、お気楽な様子で返答した。
それに対して、”興行主”は、若干渋い顔をしながら反論を述べる。
「確かに、『下』側の論調ではその通りだ。確かにそれはいい線を行っているとは思う。
だが、ボクにもボクなりの情報網があるのさ。
第五階層が現在のような形になって以来、密かに張り巡らせれてきた…いわゆる『地下』のネットワークがね」
「なにせボクは『地下アイドル』だからね!」
「…そうだね」
『本体』の茶々については、自嘲するように軽くうなずいて受け流し、ラリスキャニアは演説を再開する。
「話を戻そう。
ボクの調査によれば、ティリビナ人が承認されるための申請は、『上』での葬送式典よりわずかに前に出されているんだ。
更に、その式典にも、プリエステラは開幕から出場できている。
その後起きた騒動も含めて、結果的に見れば、あれは彼女たちをお披露目するためだけに用意されたような祝祭であった、といっても良いくらいだ。
…そこで、いくつかの疑問が出てくる」
ここで、地下アイドルは、語気を強めた。
『上』の最上流階級であるリーナ・ゾラ・クロウサーは、なぜティリビナ人を仲間に引き入れた?
当時、まだティリビナ人は、被差別民族であったはずなのに。
おまけに、彼女は、その代表と言える少女を自分の分隊の一員として披露している。
なぜそこまでしたんだ?」
「陰謀の匂いがするとでも言いたいのかい?」
「そうだ」
「でも、そんなことは、周知の事実じゃないか。
『上』は陰謀だらけで、クロウサーの意向次第でどうにでもなる。
そのことは、誰でも知っているよ」
「『上』の最上流階級であるリーナ・ゾラ・クロウサーは、なぜティリビナ人を仲間に引き入れた?
当時、まだティリビナ人は、被差別民族であったはずなのに。
おまけに、彼女は、その代表と言える少女を自分の分隊の一員として披露している。プリエステラは、英雄集団『黒百合』(チョコレートリリー)の初期メンバーとして、公式に記録されているんだ。
探索者には、レア素材として狙われるのが当たり前だった被差別民族の代表がだよ!
なぜ、クロウサー家の『空使い』ともあろうものが、そこまでの手はずを整えたんだ?」