幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第50話(40~41の途中まで)

「随分とナイーブだね。アイドルが政治の道具として扱われるなんて、ありふれたことだろ?」

茶化す『本体』

だが、地下アイドルは、それもさらりとかわし静かに告げた。

 

「確かに『道具』ならありきたりだ。けど、これから起きるのは、たぶんその逆だよ」

 

「『逆』?それってどういう意味だい?」

 

首をかしげる『本体』

 

「決まっているだろう?」

 

そう自信ありげに語った地下アイドルは、問いに答える代わりに、教卓のかたわらにあったサイドテーブルの上にそっと手を添えた。

 

そこには、世界の模型があった。

 

地理や地学、『杖』系の学問に強かったこの『学園異界都市ラクルラール』には珍しくもないありふれた教材。

その模型の上を影が這った。

添えられたラリスキャニアの指が、静かに変形を遂げたのだ。

 

そして、その指はすぐに小さな指人形となった。

 

指人形は、少女の姿をしていた。

僅かに青みを帯びた長く美しい黒髪、黒玉の瞳、複雑に重なる布のスカートをゆったりと広げ青と黒のドレス。

 

だが、最も強い印象を与える特徴は、人形の頭部にあった。

すなわち、左右非対称の耳である。

 

そして“興行主”は、その小さな人形の周囲に小さな星や月を飛ばし、星空を作った。

どうやら、それらは教卓に備わった映像作成機能で作り出したものらしい。

 

更に、そこへ動きをつける。

動くのは人形ではない。

それ以外の全てである。

 

『天上』と『地下』

分かたれた両極が、幾つもの槍によって繋ぎ止められている、その世界の全てが、ゆっくりと回っていく。

不動のはずの世界が、ダイナミックに動き、新しい秩序に付き従う。

垂直軸が支配していたタテの世界が、回転軸が全てを動かすヨコの世界へと切り替わったのだ。

 

その中心は一体何か?

 

それは、わざわざ聞くまでもないことだった。

『杖』によって浮かべられた偽りの星や月など及びもつかぬ輝き、真に自ら光り輝く存在。

超級新星(スーパーノヴァ)に例えられるような人物など、彼女以外にいるはずもないではないか。

 

そう、その模型では、小さな歌姫人形が、回る世界の上に立っていた。

己以外の全てを従えて。

 

そして、ラリスキャニアはまた“講演”を再開する。

と言っても、話すのは先ほどの問いへの答えではない。

『百聞は一見に如かず』

【猫の国】のことわざ通りだ。

 

世界の中心がどこにあるかは、アレさえ見れば事足りる。

だから、これから始めるのは蛇足の話だ。

まるで、一度倒されたはずなのに、無駄にダラダラと生き延びている火竜のように、既に終わったはずなのに、延々とスピンオフが出続ける世界(シリーズ)のように、

 

それは、余計だけれども再開(はじまり)を迎え続ける物語である。

 

あるいはそれは、変えようがない現実をせめて表現することで、少しでもコントロールしようとする、必死なあがきだったのかもしれない。

 

つまりそれは、神話の話だ。

彼女が語り始めたのは、ちょうどそんな物語だった。

 

それは、気軽な質問から始まった。

 

「歌姫Spearが、どんな職業についているか、キミは知っているかい?」

「どんなって…アイドルだろ?」

「それはそうだが、他にもあるだろう?」

 

「他って、『上級言語魔術師』(ハイストーリア)いや…『魔女術異端審問官』(ウィッチクラフトインクィジター)か」

「そうだ。

 アイドルにして、『異端審問官』

そんな彼女のことを、キミはどう思う?」

 

問いかける“興行主”の瞳には、軽く挑戦するかのような輝きがあった。

 

「ただのお飾りだよ」

それに対し、またしても即座に答える『本体』

 

そして彼女は、そのまま流れるように補足の説明に入った。

 

「『智神の盾』は、少し形が変わっただけの侵略組織。そんなことは、やっぱり子どもだって知っている当たり前のことさ。

槍や杖の代わりに、呪文(うた)や外見(びぼう)で人の心に入り込み、相手の理想像となって魅了された者を自らのコピーに変える。

以前、第五階層に溢れかえったというグレンデルヒよりはスマートなやり口だが、やっていることは大して変わらない。

要するに文化侵略。

『下』がそれを危険視していないのは、それが無意味であるからに他ならないからだ」

 

「無意味?」

 

「そう、無意味さ。

そんな簡単に『上』の思想に大衆を染め上げられるのであれば、とっくの昔にそうなっているはずだ。

『上』とは相容れないからこその『下』であり、だからこそ“両極”は分断されている。

そもそも、その『下』にしたところで、隠れた無数の対立を、『上』との戦いや単純化された(わかりやすい)建前(スローガン)でなんとか誤魔化しているに過ぎない。

だからこそ、『下』の権力者たちは、安心して歌姫の宣伝(うた)を放置してきたんだよ。

そして『異端審問官』にしても、所詮はそうした侵略の尖兵のための“箔付け”に過ぎないだろう。

いくら超新星のアイドルといったところで、政治の舞台で、主役を演じることが出来るわけもない。

まあ、噂(エーラマーンのささやき?)通りに、どことなく融和を訴えていた歌姫が『下』に亡命して陣営を鞍替えすれば、そりゃあ『上』では炎上するし、ここぞとばかりに『下』のメディアは自分たちの正しさをアピールするだろう。

けれど結局、それだって一時の騒ぎで終わるだろうね。

今の彼女は、ただの文化侵略のお飾り、その評価は揺るがないよ」

 

「そう、確かに文化侵略こそが、彼女に課された仕事、いや“任務”なのだろう。本来はね」

「…どういう意味だい?」

 

 

 

 

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