幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「話は大体分かった。
だが、その話には重大な瑕疵(キズ)がある」
「瑕疵(キズ)?それはなんだい?」
『本体』は、そこで椅子から立ち上がり、“興行主”に向けて手を差し伸べた。
そして彼女は、提案する。
「今度は、こちらから問わせてもらおうか。
いま貴女が述べた、『アイドル世界化計画』の仮説には、大きく分けて三つの瑕疵がある。
さぁて、貴方はその全てを、答えられるかい?」
これで、立場が逆転した。
追及者と回答者が入れ替わり、次の手番(ターン)が始まるのだ。
ラリスキャニアは、事態の急変を受けて小さくうなった。
だが、彼女は諦めない。
いや、自説にしがみついて離そうとしない。
なぜなら、彼女にはもはや、ソレしか残っていないのだから。
誰よりも彼女自身が、そう信じているのだから…。
ただし、これから始まるのは、一方的な厳しい追及ではない。
なにしろ、相手は『ラリスキャニア』本人なのだ。
ファンに愛されるアイドルになるためには、まず、自分で自分を愛せなければならない。
己に誇りを持つのは当たり前。
一流の地下アイドルたるもの、常に自らをいたわり、必要なケアを施し、頼るべきときには迷わず人にも頼らねばならないのだ。
いつかどこかで、確かにそう教わったのだから。
だから、ラリスキャニアは、まず頼ることにした。
かけがえのない自分自身を。
「あいにくだけど、見当がつかないな」
まず、正直に現状を話す。
なにしろ、相手は自分自身なのだ。
隠し事は…まあ、出来なくはないが、計画を立てたりなにか大きな決断をしなければならないときには、そんなことはしない方が良い。
「良かったら…ヒントをくれないか?」
そして、頼み事をするときは、率直に話す。
そうすれば誤解や曲解されることは…まぁあるのだが、それでもきちんと伝えようと努力しないよりはマシである。
ちょっとした痛みやひきつり、『嫌な予感』や不吉なジンクスなど、自分自身からのメッセージを無視して脱落していった地下アイドルは数知れない。
ただ、こうした要請は、その後の交渉をより困難にしてしまうことも多い。
相手の性格によっては、何かを依頼されること自体を負担に感じ、怒りを覚えることもあり得るからだ。
けれども今回の場合に限っては、それはないだろう。
相手に情報を与えることで、逆にこちらの優位性を示すのは、『ラリスキャニア』の基本戦術だ。
それになにより、これは自分の考えを相手に伝える、つまりは『表現』のチャンスである。
それこそが、地下アイドル・『ラリスキャニア』が常に求めて止まないもの。
だからこそ、それが出来る機会を見逃すはずがないのである。
「良いだろう」
結果として予想は当たり、『本体』は快く了承の意を示してくれた。
まずは、計画通り。
密かに胸をなでおろすラリスキャニア。
それを知ってか知らずか、鏡合わせの分身は、己の意図をなめらかに語り始めるのであった。
「まず第一は、この第五階層にとって、いや、アイドル迷宮にとって記憶に新しく、まだ忘れられない事柄だ。
いや、『事件』もしくは『人災』と言っても良い。
そしてそれはそしてまたボクらにとっても、重要なターニングポイントだった」
「…『リールエルバの乱』か」
「そうだ。ボクらが身の程を、そして圧倒的な力の差を思い知らされたあの『事件』だよ」
ここで『本体』は、さっと立ち上がり窓に近づいた。
そして、その勢いのまま、素早くそして薄くカーテンを開く。
そうして見える外からは、光が漏れてくる。
惨劇の存在を示す、赤い光が。
思わず、身震いするラリスキャニア。
それに対し、『本体』は、語った。
「あの『乱』は、明らかに第五階層を、将来、歌姫のライブ会場になるはずの場所を破壊していた。
仮に、あれがただの宣伝か何かであったとしよう。
けれど、それでもあの『乱』が、トリシューラ陣営とれっきとした『黒百合』の一員との間で発生した『戦争』であったことまでは否定できないだろう?ほら、見なよ」
そして『本体』は、ラリスキャニアの前の教卓を叩いた。
その指は、鍵盤奏者(ピアニスト)のように華麗に動き、彼女が求める画像を望みのままに映し出させる。
それは、戦乱の第五階層だった。
ラリスキャニアの背後に、殺戮と荒廃の情景が映し出される。
「こ、これは…」
「貴女には、これが仲良しな学閥が触れ合っている光景に見えるのかい?
リールエルバによる唐突な闘争と破壊、そしてその後のコルセスカとの舞台(レビュー)、そのどちらもが『本物』だった。
そのことは、ボクらが一番良く分かっているはずだ」
そう、誰よりも地下アイドルを研究してきた…真剣に見続けてきた『ラリスキャニア』なら、それが分からぬはずがない。
だから、『本体』は威圧的に問いかけた。
ほんのわずかな誤魔化しも許さぬという、そんな強い想いを込めて。
「『黒百合』は、アイドルを世界に広めようとなんかしていないのじゃないか?」
「いいや、その批判は間違ってるな」
だが、“興行主”は、そんな威圧などものともせず、軽やかに返答した。