幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「また三つか。ずいぶんと好きだねぇ」
「まあね。三倍で九、四倍で十二、そして七倍で十四。三はキリが良い数字だよ」
「それはぜひとも、キリがあって欲しいね。キリ無しのループでは、文字通りどこにもたどり着けはしないのだし」
「遠くへ飛び出す(スウィング・バイ)なら、堂々巡りのループだってときには必要だよ?」
「停滞の自覚と限界への挑戦を継続することこそが、それを打ち破る飛躍のための呪力(エネルギー)をもたらす、か。
分かったよ。
それじゃ、聞かせてもらおうか?
三回目の三分割は、どんな感じだい?」
「なあに、今回は手早く済むさ」
そう言うと、“興行主”は、また教卓を操作した。
画面が切り替わる。
今度映し出されたのは、大量のアイドルの画像であった。
それは種族も人物も様々であり、中には、ラリスキャニアがデビューする遥か昔に活躍していたアイドルさえも、ちらほらと見受けられた。
そんなアイドル画像が、映画フィルムのように繋がって流れていく。
その川を背後に、地下アイドルは、再び語り出した。
「メイファーラが【黒百合】の中で特殊なのは、彼女が『平凡』な少女であるという、まさにその点だ。詳細な経歴や地元での評判までは探ることが出来なかったが、少なくとも、彼女が『上』において、特別な出自や血筋を持たないことは間違いない。
そんなものがあったら、確実に彼女に取り入ろうとする動きが出てくるだろうからね」
「つまり、あの『天眼の民』の少女は、れっきとした英雄グループの一員であるにも関わらず、ロクに英雄扱いされてないわけか。
まあ、無理もないかもね。
確かに、彼女にも復活魔将を倒した記録はあるけど…」
「調べたところ、その魔将の敗北原因は『老朽化』だったらしいからね。
死んだ英雄を、五体満足で蘇らせることが出来たのは良いが…古代兵器という機械に降り積もっていた年月までは、誤魔化しきれなかったというわけだ。
これは、本人の申告通り『闇の中でひたすら逃げ回っていたら、勝手に倒れた』のだろうね。
自力であんな風に魔将を片付けるなんて、オルヴァ王のように魔将級の腕前で時間操作呪術が使えでもしない限り、不可能な話だからね。
そう、そんなことは『あり得ない』」
「…なるほど、今度はそういう路線か」
「推理は、まとまったかい?」
その"興行主"の問いかけに『本体』は、大きくうなずく。
「ああ、今度は三つの『無い』を使って逆に『アイドルの資格』を証明しようというんだろう?」
「その通り、メイファーラには、確かにアイドルに必要とされる三つの素質が『無い』
だが、それこそが…」
"興行主"は、意気揚々と語りだした。
しかし、それはまた、
「でも、それは悪手だよ。
次はこう言うつもりだろう?"ごく『平凡』な少女がアイドルになることこそが、アイドル物語(ストーリー)の『王道』だと。
だけど…」
遮られる。
そして、『本体』は断言した。
「その手法では、貴女の仮説を押し通すなんて、夢のまた夢さ。
もっとも、ここは既に夢の中、第五階層の下意識と融合した学園都市…の廃虚なんだけどね」
くすり、と小さく笑う。
それに対し、ラリスキャニアは静かに問いかけた。
「では、教えてもらっても良いかい?その現実では無理だという、ボクの仮説の欠点を」
「ああ、良いとも」
そして彼女は、また畳みかけるように話し出した。
「あの天眼の民には、三つのものが『ない』
すなわち、『血筋』『才能(センス)』そして『輝き』さ」
「だが、アイドルにとって、それは本質的な問題じゃないはずだ!
逆にそれは…」
「そう、それはそうだ」
『本体』は、地下アイドルの発言を先んじるかのように遮った。
そして、その勢いのまま、手をスクリーンにかざす。
たくさんのアイドルが流れる情景の上に、影が差す。
と、思うや否や、それは見る間に形を変えた。
見ればそれには、大きな翼がひらひらと動き、一対の触覚まで備わっているではないか。
それは、影の蝶だった。
蝶は、華のようなアイドルたちを飛び回り、そして影響を与えていく。
それがいかなる変化なのかは、すぐには分かりづらい。
服装(ドレス)が安っぽくなり、装飾品(アクセ)が地味になり、ときに髪型が変わり、放たれる輝きが落ち、幼くなり…
そこには、複合的な影響が出現していた。
それを総括したのは、やはりと言うべきか、ラリスキャニアだった。
「デビュー当時の姿…確かにそれが一番手っ取り早いな」
「ああ、貴女が言いたかったのは、こういうことだろう?」
そして二人は、声を合わせる。
「「何も持たないこと、人より遅れていること、凡人であることは、アイドルにとってむしろ好条件! 」」
凡人こそが、最も凡人に共感可能でありーー
ーー劣っているように見えること、欠点があることは、大衆からの好意と人気を集める誘蛾灯となる!
だから
だからこそ
そう、逆にだからこそ!
「「メイファーラは、アイドルにふさわしい!」」
「――だが、本当にそうだろうか?」
そこで、相手役(アンタゴニスト)となった『本体』の少女は、急に声をひそめた。
低く、静かな声が、闇夜の湖を渡る風のように廃教室を吹き抜ける。