幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
そして、それと共に映る話題の人物はといえば……『メイファーラ』は、全身を使って否定の意を示していたのだ。
[最近獲得した成果とか成長して手に入れた新しい特技ですか?
いやー特にそんなのはありませんね。前のままです」
「そんな強引な!努力や成長が明言されなかったからといって、本人が実際にそうだとは限らないじゃないか!」
「でも、それは目に見える形では現れていない。発表されない新商品、提出されない成果報告、連載を再開せず近況も発信しない漫画家…この情報(ミーム)社会の現代において、自ら情報を発信しないものは、無いのと同じことだよ。
それでは、世間の評価が肯定的な方向に変わるわけがない。
当然、『努力型の凡人アイドル』として『メイファーラ』を評価することなど不可能、ということだ。
あの少女の取り柄は、深く物事を考えないことと、槍神教などの権力から遠い田舎者であることなのさ。
その強力な『邪視』があっても、性格的な欠点は覆せないというわけだ。
いや、その強力さこそが、欠点の現れだと言っても良い」
「欠点の現れ?」
「そうだ。
天眼の民から失われた奥義を知ってるかい?
【シャルマキヒュの凍視】の本来の姿を」
「ああ、擬似的な『時間停止』だよね。
受動型でありながら、投射型の邪視と同等の効果を発揮するという極めて高度な呪術だとか」
「その通り。
それを言い換えれば、周囲の情報を『極めて精確に受け取る』ことを必殺の域にまで高めた呪術、それこそが彼女の一族が指向している方向性だということだ」
「それの何が問題?
そんな強力な『邪視』を身につけているとしたら、いや近いものを使えるだけでも、強力な武器になるはず。
それは、本人にとっても大きなプラスに…あ!」
「気づいたようだね。
そう、情報を正確に受け取れる邪視者とは、つまるところ、周囲のまなざしに影響されるだけの存在ということ
頭が悪…なるべく思考をしようとしない者は、情報を歪ませることもない。
認識(エゴ)によって世界を改変する『邪視者』としては、論外と言わざるを得ない性質だ。
だけど、それは取り柄にもなる。
それは同時に、その使い手は、体制や既存の権力には従順に振る舞うことしか出来ない人物だということを意味しているからだ。
要するに、典型的な兵士タイプ、組織に忠実な歯車ちゃんだね。
決して暴走したり、欲望のままに新しい道(ロード)を切り拓いたり、自分で考えて情報を操作したり勢力図を変革しようとしない…つまりは使い勝手の良い護衛というわけだ。
たとえば、もし彼女が有能なスパイなら、あんなぼんやりとしたリアクションとは真逆の『輝く』動きで日々活躍をしていることだろう。
そんな人物であれば、決してその『輝き』を隠すことは出来ない。
なぜなら、『邪視者』とはそういうものだからだ。
己が内面を発露しない『邪視』の使い手なんて、存在するわけがない。
“絶対にスパイじゃない“そう確信出来る人材。
だから、ここで彼女について深く考える必要はないんだ。
だって、陰謀なんかとは確実に無関係な人間なんだからね。
第一、見なよこの姿を。これが、スパイとか暗殺者に見えるかい?」
「ぐぐぐ…だ、だがそんなものは、しょせん印象論とうがった推測の寄せ集めに過ぎない!
所詮は言いがかり!
ひどい偏見に囚われた『加護差別』だ!そんな捏造情報が、許されて良いはずがない!」
必死に反論するラリスキャニアであったが、形勢の不利は否めない。
その顔には汗がにじみ、声もかすれている。
そして、痛むように押さえていた彼女の目には、薄く、だがはっきりと、十字の光がまたたいていたのだ。
果たして、これはいかなる予兆なのだろうか?
オルヴァ王の降臨が間近だとしてーー弑逆されるのは、どちらなのか?
「そうかな?
でも、少なくともそう解釈することは出来る。
と、言うことはだ。
つまり彼女は、必ずしも努力家や共感を誘う人物だとは考えられていないんじゃあないのか?
だってそうだろう?
もし、今のイメージを否定する確かな材料が既にあるのなら、ラリスキャニア、貴女がそれを出さないはずがない。
違うかい?」
「そ、それは…」
「しかも、それだけじゃない。
あの天眼の民の少女が、アイドルに向いてないということは、他の例によっても証明可能だ」
「他の、例?」
「ああ、そうだ。
あの子のことなら、良く知っているはずだよ。
なにしろーー彼女は、ボクたちのクラスメイトだったんだから」
「それは、それは…まさか?」
「そう、機械女王、いや『瓦楽天(がらくてん)コズエ』だよ。
転校生二人組のーーまだ理解出来た方の片割れさ。
丁度良い。
どうせなら、そちらに最も詳しい“証人”に登場してもらおうじゃないか?
ちょうど、場所もぴったりだ」
「“証人”?なんのことだ?一体誰が…」
そこまで語ったところで、地下アイドルは急に口を閉ざした。
そうせざるを得なかった。
なぜなら、そのとき奇怪な音が聞こえてきたからだ。
廃教室全体が、いや、この学園都市の廃墟全体がきしむような、そんな音だ。
唐突に聞こえてきたそれは、まるで叫び声のようであった。
そのきしみは、繰り返し繰り返し、断続的に聞こえてくる。
まるで、何かの足音であるかのように。