幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
天使触手は”ラリスキャニア”の疑問に答える。
「はい。僕は、今の貴方はちょっと早急に決断しすぎていると思います。今、貴方は確かに敗れてちょっと調子が悪いかもしれません。けど、だからといって急速な変化を取り入れようとすれば、その過程で大事なものを取りこぼしてしまう気がするのです」
「大事なもの?」
「たとえば…これです」
天使触手は、ゆるゆると触手(ワイヤー)で繋がった身体を動かし、洞窟マイルームに隠された引き出しから一抱えの紙束を取り出した。
引き出しには鍵がかかっていたが、天使触手はラリスキャニア本人でもあるので、呪的認証の解錠や暗証番号(パスコード)の入力にも全く問題はない。
それはそれとして、取り出された紙束を見てラリスキャニアは首をひねった。
それは特に重要性がない書類だったからだ。
ラリスキャニア自身にとってそれなりに意味はあるが、もうデータ採りが終わった後の物理データの束、ほとんどの他人にとっては、全く意味がない書類の集積。
それは、ラリスキャニアに宛てられたファンレターだった。
「路線を変更することで、ファンが離れるという指摘?悪いけど、その程度のことは当然計算済みだよ。メジャーになることで離れていくファンの割合は、アイドルファン全体の統計から既に割り出してある。
呪力を増強してより強力な演技(レヴュー)が出来るようになれば、減少分を上回るファンを獲得出来るだろうし、事実これまでもそうだった。確かに、ファンが離れていくのは残念だけど、保守的な演技(やりかた)だけじゃ前には進めないよ」
ラリスキャニアは、何か言いたげな悪魔(アキラ)触手を視線で黙らせて、天使触手に答えた。
やはりコレは、私が再演している役者に過ぎない。
私が知っている以上の知識は持っていないし、その感情も私のものだ。
そんなモノに、一瞬でも有力な助言(アドバイス)を期待するとは、私も確かに迷っていたのかもな。
それが確認出来ただけでも、この触手の話を聞いて良かったのかもしれない。
ラリスキャニアはそう結論づけようとしたが、天使触手はそこで更に言葉を繋げた。
「いいえ、そんなことではありません。
問題なのは、ファンではなく貴方なのです」
「ボク?一体、ボクの何が問題なの?」
ラリスキャニアは、今度こそ本気で首をかしげた。
路線の話でもないとすると、ファンレターと自分の間に、一体どんな関係性があるのだろうか?
困惑する彼女に、天使触手は答える。
「この中に、貴方がいます。呪力とか演技とか人気ではなく、あなたを愛してくれた人たちの中に、その声の中に」
「この中に…?」
ラリスキャニアは、天使触手からファンレターの束を受け渡され、無数の触手を使ってその一つ一つを読み直し始めた。
ひとつずつ、丁寧に。
すると、どうだろうか。
そこには、確かにラリスキャニアがいたのだ。
手紙に、イラストに、添付された立体動画メールの中に、数多くのメッセージの中にあったのは、様々な形、様々な人々からのラリスキャニアへの声であった。
そこには、確かにラリスキャニアがいた。
歌い、踊り、ファンからの相談や雑談に応え、舞台の上で活躍するラリスキャニアが。
彼女は、確かに最上位のアイドルではなかったかもしれない。
しかし、そこには確かに輝いているアイドルがいた。
天空の頂点に君臨する星(スタァ)ではなくとも、確かにファンを愛し、確かにファンに愛されている、一人のアイドルの姿が。
「だが…だが、これは過去の姿だ。アイドルは、輝く星(スタァ)には常に変化が、ファンに与える刺激が必要なんだ…!」
ラリスキャニアは、ファンレターを強く握りしめながら、天使触手に語った。
「ここには、確かに輝きがある。ボクをこれまで支えてくれた、暖かな輝きが。でも、過去は…どんどん古びていく。努力し続けなければ、輝き続けなければ、こんな輝きも思い出の中に埋もれてしまうんだ…!
「貴方は、忘れられてしまうことが怖いのですか?」
天使触手の問いかけに対し、ラリスキャニアは激しく応えた。
「覚えられていても、無価値になってしまうことが怖いんだ!」
そこへ、空気になっていた悪魔(アキラ)触手が口を挟む。
「フッフッフ!どうやら俺の出番が来たようだな!サイバーカラテの感情制御なら、どんな恐怖でもぶべらっ!」
ラリスキャニアの回し蹴りが、悪魔触手を襲う。
あまりにウザかったので、蹴り倒されたようだった。
ミヒトネッセの動きとラフディ相撲を参照した遠心力が乗った蹴りは、惑星の公転のような美しい円を描いて悪魔触手を弾き飛ばし、そのまま洞窟マイルームの壁に激突させた。
ラリスキャニアは、悪魔触手が黙ったことを見届けると、静かに話を再開した。