幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第62話(51の途中まで)

「そもそもお前は、なぜ『黒百合』(チョコレートリリー)を恐れた?

彼女たちが、世界の構造を都合の良いように作り替え、支配しようとしていると、そう考えるようになった理由はなんだ?」

 

「そ、それは……」

 

「言えないようなら、私が代わりに答えてやろう。

それは、彼女たちが、『黒百合』こそが、確固とした『基盤』を持つアイドルだからだ。

どこかの誰かさんとは違ってなぁ!」

 

「くっ……」

 

「ドラトリアという『国家』、ペリグランティア製薬やクロウサーという『企業』に『血族』、更には【太月】(イルディアンサ)、そして、槍神教を中心とした『地上』全土に至るまで、『黒百合』の支援者(スポンサー)は万全だ!」

 

「だ、だが、それはあくまで『上』の話だ!

第五階層、それに『下』では……」

「『空組』は、既に第五階層で十分な成果を出している!

それに今や、本来中立の【太月】(イルディアンサ)だけでなく、ドラトリアや【夜月】(スキリシア)さえも、第二世界槍の崩壊や姫たちの反乱によって、『上下』の枠組みを無視しつつあるのだ。

ティリビナ人については、言うまでもない!

更に、アレらは『姉妹』の関係性を作り出せるアイドルグループだ!

『星見の塔』の『歌姫』(カタルマリーナ)の名に対する呪いが解けた今、その有形無形の後援(バックアップ)すら受けることが出来るのだよ!」

「……」

 

「そう、彼女たちは違うのだ。

お前とは、な」

「そ、それは…」

 

それは、苦手な論だった。

女教師が放つ刺々(とげとげ)しい言葉は、ラリスキャニアの心の柔らかい部分を容赦なく刺し貫いていく。

指一本触れられていないのに、身体が震えてしまう。

止められない。

 

「己が『弱者』とみなした相手への過剰な感情移入、

そして逆に『強者』と恐れる対象への過大な持ち上げ。

それは、才能の限界の自覚、己に感じている絶望、その表現に過ぎない。

才人たちや世界のパワーバランスを争う超越者たち、彼女たちへの無意識の媚び。

それが、お前の陰謀論と『正義』の正体だ!」

その弾劾に対し、ラリスキャニアの憤りは、ゴムまりのように弾けた。

 

「そんなこと、なんとでも言える!」

 

だが、それを受けたのは、あまりにも意外でどこか懐かしい切り返しだった。

 

「では、ここでテストをしてみよう」

 

「て、テスト!?」

 

「なあに、それはごく簡単なものだ。

そんなに顔をしかめるには至らないよ。

さあ、講評の時間だ。

赤筆で修正してくれよう。

ーーその全身が、真っ赤になるまで、な!」

 

その言葉と共に、女教師は、にこやかに笑いかけてきた。

ひどく薄っぺらい、まるで仮面のような笑み。

それこそがラクルラールの課す試験、すなわち、呪術戦の誘いだった。

 

抵抗の意志を示すのならば、ここはなんとしてもそれに応え、打ち破るべきであろう。

 

だが、ラリスキャニアは……

 

「……」

 

その誘いに、応えることが出来なかった。

 

金縛り。

知らずに巻きついていた言葉の糸が、彼女の心身を固く縛り上げていたのだ。

 

劣等生の心を憶測で断定し否定するその批判は、遠回しに瓦楽天(がらくてん)コズエやメイファーラの才能や可能性をも、否定している。

 

それぐらいは、分かっていた。

 

競争や序列があるとは、つまり比較基準や勝敗の条件を共有可能な誰かが居る、ということだ。

自分と似たような誰かに追われ、自分もまた誰かを追いかける。

そして、何かを手に入れようとする限り、その入手に失敗する可能性はつきまとう。

 

『上』の流儀で言うなら、奪おうとする限り奪われることは避けられないのである。

 

その関係をヒトに置き換えるなら、こう言い換えることも出来る。

誰かに憧れられる存在になる以上、別の誰かに憧れを抱くことは避けられない、と。

 

もちろん、アイドルもその例に漏れない。

 

アイドルは、人気獲得が身上。

他のアイドルに憧れたり、あるいは恐怖や妄想を抱くことは、極めて自然なことだ。

それを否定するのは、アイドルを否定するに等しい法外な非難である。

アイドルから憧れや共感をとったら、後にはなにも残らない。

 

だから、自分にも、もちろん瓦楽天(がらくてん)コズエやメイファーラにだって、才能や『輝き』を否定される理由なんて、何もない。

 

いつものラリスキャニアなら、そう反論することが出来たはずだ。

 

だが、出来なかった。

今の彼女に出来たのは、ただ黙り込み、震えることだけ。

その脳裏に思い浮かぶのは、圧倒的な恐怖のみ。

 

このままでは、確実に負けてしまう。

 

地下アイドルは、思わず自らの高精度な擬似細菌と演技力を呪った。

 

なぜここまで再現、いや、『再演』してしまったのか、と。

ラリスキャニアは、舞台の外における情報や心理を巡る争い、すなわち社会戦と触手変身に長(た)けたアイドルである。

 

当然、彼女は、高い観察力と演技力を併せ持っていた。

相手の表情や、無意識まで含めた反応(リアクション)に通じていなければ、詐術や演技どころか、交渉だって出来ないからだ。

 

だが、今やそれは完全に裏目に出ていた。

 

 

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