幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「そもそもお前は、なぜ『黒百合』(チョコレートリリー)を恐れた?
彼女たちが、世界の構造を都合の良いように作り替え、支配しようとしていると、そう考えるようになった理由はなんだ?」
「そ、それは……」
「言えないようなら、私が代わりに答えてやろう。
それは、彼女たちが、『黒百合』こそが、確固とした『基盤』を持つアイドルだからだ。
どこかの誰かさんとは違ってなぁ!」
「くっ……」
「ドラトリアという『国家』、ペリグランティア製薬やクロウサーという『企業』に『血族』、更には【太月】(イルディアンサ)、そして、槍神教を中心とした『地上』全土に至るまで、『黒百合』の支援者(スポンサー)は万全だ!」
「だ、だが、それはあくまで『上』の話だ!
第五階層、それに『下』では……」
「『空組』は、既に第五階層で十分な成果を出している!
それに今や、本来中立の【太月】(イルディアンサ)だけでなく、ドラトリアや【夜月】(スキリシア)さえも、第二世界槍の崩壊や姫たちの反乱によって、『上下』の枠組みを無視しつつあるのだ。
ティリビナ人については、言うまでもない!
更に、アレらは『姉妹』の関係性を作り出せるアイドルグループだ!
『星見の塔』の『歌姫』(カタルマリーナ)の名に対する呪いが解けた今、その有形無形の後援(バックアップ)すら受けることが出来るのだよ!」
「……」
「そう、彼女たちは違うのだ。
お前とは、な」
「そ、それは…」
それは、苦手な論だった。
女教師が放つ刺々(とげとげ)しい言葉は、ラリスキャニアの心の柔らかい部分を容赦なく刺し貫いていく。
指一本触れられていないのに、身体が震えてしまう。
止められない。
「己が『弱者』とみなした相手への過剰な感情移入、
そして逆に『強者』と恐れる対象への過大な持ち上げ。
それは、才能の限界の自覚、己に感じている絶望、その表現に過ぎない。
才人たちや世界のパワーバランスを争う超越者たち、彼女たちへの無意識の媚び。
それが、お前の陰謀論と『正義』の正体だ!」
その弾劾に対し、ラリスキャニアの憤りは、ゴムまりのように弾けた。
「そんなこと、なんとでも言える!」
だが、それを受けたのは、あまりにも意外でどこか懐かしい切り返しだった。
「では、ここでテストをしてみよう」
「て、テスト!?」
「なあに、それはごく簡単なものだ。
そんなに顔をしかめるには至らないよ。
さあ、講評の時間だ。
赤筆で修正してくれよう。
ーーその全身が、真っ赤になるまで、な!」
その言葉と共に、女教師は、にこやかに笑いかけてきた。
ひどく薄っぺらい、まるで仮面のような笑み。
それこそがラクルラールの課す試験、すなわち、呪術戦の誘いだった。
抵抗の意志を示すのならば、ここはなんとしてもそれに応え、打ち破るべきであろう。
だが、ラリスキャニアは……
「……」
その誘いに、応えることが出来なかった。
金縛り。
知らずに巻きついていた言葉の糸が、彼女の心身を固く縛り上げていたのだ。
劣等生の心を憶測で断定し否定するその批判は、遠回しに瓦楽天(がらくてん)コズエやメイファーラの才能や可能性をも、否定している。
それぐらいは、分かっていた。
競争や序列があるとは、つまり比較基準や勝敗の条件を共有可能な誰かが居る、ということだ。
自分と似たような誰かに追われ、自分もまた誰かを追いかける。
そして、何かを手に入れようとする限り、その入手に失敗する可能性はつきまとう。
『上』の流儀で言うなら、奪おうとする限り奪われることは避けられないのである。
その関係をヒトに置き換えるなら、こう言い換えることも出来る。
誰かに憧れられる存在になる以上、別の誰かに憧れを抱くことは避けられない、と。
もちろん、アイドルもその例に漏れない。
アイドルは、人気獲得が身上。
他のアイドルに憧れたり、あるいは恐怖や妄想を抱くことは、極めて自然なことだ。
それを否定するのは、アイドルを否定するに等しい法外な非難である。
アイドルから憧れや共感をとったら、後にはなにも残らない。
だから、自分にも、もちろん瓦楽天(がらくてん)コズエやメイファーラにだって、才能や『輝き』を否定される理由なんて、何もない。
いつものラリスキャニアなら、そう反論することが出来たはずだ。
だが、出来なかった。
今の彼女に出来たのは、ただ黙り込み、震えることだけ。
その脳裏に思い浮かぶのは、圧倒的な恐怖のみ。
このままでは、確実に負けてしまう。
地下アイドルは、思わず自らの高精度な擬似細菌と演技力を呪った。
なぜここまで再現、いや、『再演』してしまったのか、と。
ラリスキャニアは、舞台の外における情報や心理を巡る争い、すなわち社会戦と触手変身に長(た)けたアイドルである。
当然、彼女は、高い観察力と演技力を併せ持っていた。
相手の表情や、無意識まで含めた反応(リアクション)に通じていなければ、詐術や演技どころか、交渉だって出来ないからだ。
だが、今やそれは完全に裏目に出ていた。