幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
漆黒の檻と化した『本体』たちが歌う。
いついつでーはーる
よーあーけーのーばーんーにー
奇妙な異界の唱歌が響き渡り、囚われびとの思考を阻害する。
頭が朦朧(もうろう)として、もう何も考えられない。
その歌声を背景音楽に、ラクルラールは、声高らかに言い放つ。
「勝った…そう思ったか?
だが、今回逆襲したのは、私なのだ。
そして同じ条件であればーー当然、常により強い方が勝つのだ!
より技術に長け、より賢明な者に!
そして何より、より多く努力してきた方に!
今回、奈落からはい上がるのは、このラクルラールだ!」
ラリスキャニアは、ただそれをぼんやりと聞いていることしか出来なかった。
半端者の地下アイドルには、英雄のように強大な運命に抗う力は無い。
単なる端役、凡人に過ぎない彼女には、炎の試練を克服するような偉業など、絶対に成し得ないことだろう。
それはきっと、真に特別な運命を背負った者、他人をうらやむ必要も、ねたむ苦しみからも解放された、『本物』だけが起こし得る奇跡なのだ。
いまやラリスキャニアは、全ての呪力を使い果たし、何の力も残っていない。
空っぽだ。
女教師を消そうとした結果として、逆に自分が消されかけることとなったのだ。
地下アイドルの身体は、みるみるしぼみ、希薄化し、手指の先から消えていく。
消耗しきった擬似細胞が、消滅を始めているのだ。
呪術的な性質が強い『青い鳥』(ペリュトン)の宿命である。
ラリスキャニアは、物質性の強い『吸血鬼』のハーフであるから、あるいは残骸くらいは残るかもしれないが…それも結局は、同じことだ。
夜は、朝が来れば夢のように消えてしまう。
『夜の民』もまた、同様の運命をたどるのだ……
気づけば、すでに足にも感覚が無かった。
既に消えてしまったのだろうか
(だが、ラクルラールは無敵ではない。それだけは確かだ)
なぜなら、
(ラクルラールは、何度も負けているし、出し抜かれている。)
それに何より、
(どうやらラクルラールには、明らかに本命の『宿敵』がいるらしい…)
それは、彼女のまなざし、視線から容易に推察出来ることがらだった。
対等以上の敵を持つものが、無敵の存在であるわけがない。
そう仮定してみれば、その言動の全てが宿敵に対する『威圧』であり、恐怖による『虚勢』にさえ見えてきた。
ラクルラールが、学園において常日頃から強圧的な姿勢であったことや、どこか遠いところだけを見つめていたように見えたことにも、これでようやく納得がいく。
女教師は、最初から生徒に向き合ってなどいなかったのだ。
(『学生時代』からなんとなくそんな気はしていたが…彼女は『戦力』を蓄え続けている)
おそらくそれは、彼女の『本命』、真なる宿敵を組み伏せるための下準備なのだろう。
彼女にとっては、学園全てはそのための駒に過ぎなかったのだ。
今、ようやくはっきりと認識出来た。
ラクルラールは、世界を己の遊戯盤と見なして問題無い実力、それにふさわしい権威を備えている。
女神の裔(すえ)であるとは、そういうことなのだ。
一介の“興行主”気取りでは、どうあがいても勝てなかったわけである。
瓦楽天(がらくてん)コズエ…機械女王とシナモリアキラは、一体どうやって、これほどの難敵による支配を打ち破ったのだろうか?
疑問は尽きない。
だが、それに答えを出すために必要な時間も、また無い。
全ては尽き果て、消えゆこうとしているのだから……
最後にラリスキャニアは、宙に向かって手を伸ばした。
まるで、溺れているかのように。
それはまた、死に瀕する白鳥を無理やり模倣しようとするかのような…そんな苦しまぎれで、とても不恰好な表現(プレゼント)だった。
あの女装王子や執事メイド人形のようなトップアイドルには比べるべくもない、つたない仕草。
最後のあがき。
ラリスキャニアは、せめて、訴えようと思ったのだ。
誰にかは分からない。
だが、誰かに、伝えたかったのだ。
地下アイドルは、唇さえ動かせない状況で、それでも苦笑した。
もはや何者でもなくなった自分が、一体、誰と繋がろうというのだろうか?
それも、こんな悪夢の片隅で……
ああ、そういえば……
(そういえば、こんなことが、ついさっきもあったような…それはいつ、どこのことだったろうか?)
その時、不意に、いま自分が置かれている状況が、ブレで見えた。
まるで、二つの良く似た風景が、二重写しになったかのように見えたのだ。
そんな、奇妙な既視感こそが、ラリスキャニアの意識が最後に抱いたモノであった……
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そして、舞台から一人の役者が退場した。
だが、劇は続く。
全ての役者が去らないかぎり、そして何より、演技をあきらめてしまわないかぎり…劇は決して終わらないのだから。