幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第72話(59の途中まで)

そして、演説は結果を求める。

軍隊式の命令の帰結は、いつの時代も変わることがない。

 

敵の破壊である。

 

女将軍の狙いは、言うまでもなく彼女の宿敵、女神触手である

自閉しながら『愛の巣』を構築している相手を、その陣地を破壊せんというのが、明白な彼女の目論見(もくろみ)であったのだ。

 

そのために、ラクルラールは仕上げの指令を下した。

 

「さあ、捧げつつだ!

お得意の敬意を見せろ!

私に忠誠を誓え!支配者として承認するのだ!

 

この『先生』こそが、お前を支配し、地下アイドル迷宮、ひいては第五階層全体を支配、いや、この手に奪還してやる!」

 

『生徒たち』は、言われた通りに構えをとる。

その手の中には、いつの間にか長銃が『創造』されていた。

 

そして女将軍は、自らの軍団に何かを投げ渡した。

軽く放り投げられたソレは、内部に十字の光を宿した小さな球体だ。

それは、目の前のいびつなヒトガタの一部位と良く似ていた。

 

そう、呪術的な力の精髄(せいずい)たる義眼を弾丸と成し、それを以(も)って女神触手に痛撃を与えようというのが、ラクルラールの意図だった。

 

彼女は、女神触手の冷ややかな眼差しを意識しながらも、号令を放った。

 

「進め!進め!兵士よ、進撃せよ!(ゴー!ソルジャー、ゴー!)」

 

さらに告げる。

 

「その『オルヴァ弾』は、終端を喰らう神格ブレイスヴァを呼び出す魔弾!

この弾は、その権能を宇宙の破壊と創造として解釈することで、限定的にビッグバンに匹敵する威力を発揮するのだ!」

 

それは、魔弾の効果を確定させる呪文(キャッチコピー)である。

 

強引に関連づけた関係性、強固な背景を持つ呪具、因縁に祟られた場、それらを締めくくる長台詞。

これすなわち、呪われた芝居(ぎしき)を開くに十分な材料である。

 

「あら、肝心の弾丸はメートリアンの真似ですか。

ようやく、彼女に敗北を認める気になりましたか?」

 

だが、その一人芝居を打ち破る声が響く。

 

いかなる楽器にも負けない深みのある抑揚(よくよう)、大人女性という概念をそのまま音声にしたかのような、しなやかな美しさ。

そして、その中に闇の奥深く、墓地の底から響き渡るような怨念を覗(のぞ)かせる声音。

 

人間離れした美声の持ち主は、当然ながら人間ではなかった。

彼女こそが、女将軍ラクルラールの宿敵、死の女神の残影、女神触手である。

 

「フン…使えるモノは何でも使うまでのことだ。

『先生』(わたし)が、ワタシの『生徒』(モノ)を利用して何が悪い!」

 

「『先生』というのなら、それは私も同じことですけどね

姉妹の中で、『黒百合』の子たちに一番慕われていたのは、間違いなくこの私でしょう」

 

「笑わせる。今では全員に見限られているではないか。

このラクルラールに教育で競おうなど、片腹痛すぎて、壊れてしまいそうだ。

予備パーツへの換装をしなくてはな!」

 

「そういう『学園長』サマにしても、人のことは言えな…いえ、そういえばその子は」

 

「そうだ!ワタシの『生徒』!ワタシだけのモノだ!」

 

勢いよく叫んだせいか、変にうわずった声で女教師はがなりたてた。

 

「一度は見捨てた相手を再利用ですか、伏せ札にしてもお行儀が悪すぎますね」

 

「利用出来ればなんでも良い!

コイツを、シナモリアキラ全体を再構築、リセットするウィルス、いや、ワクチンソフトとして再誕させる!

お前は完全に排除されるのだ!」

 

「オルヴァはもう私の支配下にありませんからね。

オルヴァの眼球を掌握する者が、再構築後の決定権を握るわけですか」

 

「そうだ!予言王が、今、誰の配下なのかは、良く知っているはずだな!」

「ええ、今の『貴女』とは全く関係ない話ですね」

 

「ほざけ!今、その眼球と再会させてやる!」

 

「やめなさい。

そんなことをすれば、予言王はともかく、その子はただではすみませんよ。

『生徒』を使い捨てにする教師とは、趣味が悪い」

 

「お前が言えた義理か!」

 

女神触手は、女教師の弾劾(だんがい)に、ほんの一瞬だけ、黙り込んだ。

だが、彼女はすぐに余裕の表情を見せて迎撃に移った。

 

「まあ、どのみちそんな小細工は私には通用しません

いくら夢領域だからと言って、この形態の私が動けないと思ったら大間違…!?」

 

「おや、ようやく気づいたか。

どうだ、束縛される気分は?

新鮮だろう?

いつもは、オマエが固めて縛ってばかりだからな!」

「くっ…こ、これは私の体内に、いやアキラ様の内部に既に呪的侵入を…」

 

苦しむ女神触手。

その原因は、彼女の予想していなかったところにあった。

 

ひらり、と彼女の頭上から薄墨色の花びらが舞い落ちて、状況の変化を告げる。

 

無彩色の花弁、女神触手の偽装した姿であったはずの校庭の大樹。

それはいつしか、漆黒のデイジーから、春を象徴する樹木へと変化していたのだ。

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