幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第76話(62~63の途中まで)

そして、現在はひたすらに過酷である。

女教師の指摘したように、悪魔の左手(ディスペータ)の業には致命的な欠陥があった。

 

遅いのである。

 

遠心力を用いた射出に対し、こちらも遠心力で迎え撃とうという着眼点自体は悪くない。

だが、それを成すためには、対象と同等のエネルギーが必要なのである。

 

いくら高速、いかに巨大であっても、ペン回しでは即座にそれだけの力を蓄(たくわ)えることは難しいのである。

 

むろん、時間をかければ不可能ではない。

けれど、その時間こそが、今の彼女には大いに不足していたのだ……

 

当然、それを埋め合わせるための対処くらい、人面樹(ディスペータ)も行っている。

 

ペン回しを続けながらも、彼女は鋭いまなざしで宿敵を見つめ続けていたのだ。

 

そのまなざしには、力がある。

彼女を守る軍団を呼び出す力が。

 

それは、九隊におよぶ死者の軍勢。

位を追われた元女王を、それでも慕(した)って現れた肉の壁、それに骨の壁である。

 

だがそれも…

 

バシッ!

 

ガン!

 

ゴキメキゴキン!

 

恐ろしい速さで貫かれていく。

 

それも当然。

今の悪魔の左手(ディスペータ)の出力では、それほど多くの軍勢を呼び出すことは出来なかったからだ。

 

防壁となる死者兵士たちの質も量も、足りていない。

それらは、『再生者』と呼ぶにはあまりに頼りない、かりそめの幻であった。

 

それでも、彼らにも忠臣としての意地がある。

兵士たちは全力で魔弾を防ごうと、その身をもって盾となろうとふんばった。

 

グシャリ。

 

だが、それでも敵(かな)わなかった。

 

最後まで粘った耳なしうさぎの骨兵士が崩れ落ちると、もはや魔弾を防ぐものはもう誰もいない。

 

残るはただ一人。

いまだに必死に巨大ペンを回す左手(ディスペータ)だけである。

もはや、魔弾を防ぐ術(すべ)は、全て失われたかに思われた。

 

「終わりだな…」

 

女教師がつぶやいたように、破滅はもはや決定的だ。

 

けれどその時、

 

女神触手(ディスペータ)は、未だに笑みを浮かべていたのだ。

その表情は、満ち足りたままであった。

 

そんな彼女に魔弾が迫る。

 

そして、ついに激突!

 

もうもうと埃(ほこり)が舞い、凄まじい轟音が響いた!

 

あれほど入念な仕掛けが施(ほどこ)された弾丸が当たっていれば、どれほどの存在であろうと倒れずにはいられないだろう。

 

物理と呪力、両面からもたらされる圧倒的な破壊力によって、流石(さすが)の女神ももはや一環の終わりかと、そう思われた。

 

女将軍は笑みを限りなく大きくした。

耳まで裂ける仕掛け人形の笑み。

けれど、それでも彼女は、『やったか!?』などと、迂闊(うかつ)な発言をすることはない。

 

信じているからだ。

宿敵のしぶとさを、そしてなによりも、その強さを。

 

ラクルラールは、舞い散る埃の煙幕を、強くにらみつける。

一種の信仰と共にあるその姿は、まるで、憧れの英雄の姿を目で追ってしまう幼児のようでもあった。

 

やがて、煙が晴れた。

 

果たして、女神触手(ディスペータ)は……無事であった。

 

では、弾はどうなったのかというと……

 

「空中で、静止しているだと!?」

 

今度ばかりは、流石の女教師も驚かざるを得なかった。

 

女神触手は、煙幕が広がる前と全く変わらずたたずんでいる。

 

異変は、彼女のすぐ目の前にあった。

そこにはなんと、丸い虹が広がっている。

 

もちろん、魔弾もそのままそこにある。

 

空中で止まって…いや、よく見ると動き続けている。

進行方向に対して、垂直な回転、いや螺旋運動。

それは、確実に対象を破壊するために行われている、死の突撃だ。

 

にも関わらず…魔弾は未だ、宙にとどまったまま。

 

その仕掛けの正体は、その奇妙な虹にあった。

魔弾を中心に広がり続ける、同心円の後光(ヘイロー)

それは、宙を走る虹色の波紋だった。

 

冷静さを取り戻したラクルラールは、即座にその本質、その光の背後にあるものを見抜く。

 

「密(ひそ)かに防壁を『創造』していたか!

その虹、圧力を光に変換したものだな?

軍や警察の盾などに使われる、特殊な石油化合物の一種か!

まさか、お前が土壇場で『杖』に頼るとはな…」

 

そう、女神触手は、防壁として透明な壁を作り出していたのだ。

 

不十分な光量のせいか、あるいは迷彩呪術でもかけられていたのか、その存在は、役割を果たす直前になるまで気づかれなかった。

だが、そこには確かに強固な壁が存在していたのである!

 

女神触手は、語る。

高らかに自らの作り上げた傑作、比類なく強固な壁の名を。

 

「これを、『トリシューラのかべ』と名付けました」

 

「…ほう」

 

女教師は、低く平坦な声音で応じた。

 

それを気にもせず、伏せ札の解説は続けられる。

 

「透明になれて硬いのが良いのですよね。

それに何より、見事なまでに平坦な平面ですし」

 

「…言っているが良い。

だが、いつまで持つかな?

弾丸は、まだ“生きている”ぞ!」

 

そう、魔弾は、まだ“生きて”いた。

壁に阻まれ、その侵攻を妨げられながらも、それでもなお、回転と前進を続けていたのだ。

 

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