幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
そして、現在はひたすらに過酷である。
女教師の指摘したように、悪魔の左手(ディスペータ)の業には致命的な欠陥があった。
遅いのである。
遠心力を用いた射出に対し、こちらも遠心力で迎え撃とうという着眼点自体は悪くない。
だが、それを成すためには、対象と同等のエネルギーが必要なのである。
いくら高速、いかに巨大であっても、ペン回しでは即座にそれだけの力を蓄(たくわ)えることは難しいのである。
むろん、時間をかければ不可能ではない。
けれど、その時間こそが、今の彼女には大いに不足していたのだ……
当然、それを埋め合わせるための対処くらい、人面樹(ディスペータ)も行っている。
ペン回しを続けながらも、彼女は鋭いまなざしで宿敵を見つめ続けていたのだ。
そのまなざしには、力がある。
彼女を守る軍団を呼び出す力が。
それは、九隊におよぶ死者の軍勢。
位を追われた元女王を、それでも慕(した)って現れた肉の壁、それに骨の壁である。
だがそれも…
バシッ!
ガン!
ゴキメキゴキン!
恐ろしい速さで貫かれていく。
それも当然。
今の悪魔の左手(ディスペータ)の出力では、それほど多くの軍勢を呼び出すことは出来なかったからだ。
防壁となる死者兵士たちの質も量も、足りていない。
それらは、『再生者』と呼ぶにはあまりに頼りない、かりそめの幻であった。
それでも、彼らにも忠臣としての意地がある。
兵士たちは全力で魔弾を防ごうと、その身をもって盾となろうとふんばった。
グシャリ。
だが、それでも敵(かな)わなかった。
最後まで粘った耳なしうさぎの骨兵士が崩れ落ちると、もはや魔弾を防ぐものはもう誰もいない。
残るはただ一人。
いまだに必死に巨大ペンを回す左手(ディスペータ)だけである。
もはや、魔弾を防ぐ術(すべ)は、全て失われたかに思われた。
「終わりだな…」
女教師がつぶやいたように、破滅はもはや決定的だ。
けれどその時、
女神触手(ディスペータ)は、未だに笑みを浮かべていたのだ。
その表情は、満ち足りたままであった。
そんな彼女に魔弾が迫る。
そして、ついに激突!
もうもうと埃(ほこり)が舞い、凄まじい轟音が響いた!
あれほど入念な仕掛けが施(ほどこ)された弾丸が当たっていれば、どれほどの存在であろうと倒れずにはいられないだろう。
物理と呪力、両面からもたらされる圧倒的な破壊力によって、流石(さすが)の女神ももはや一環の終わりかと、そう思われた。
女将軍は笑みを限りなく大きくした。
耳まで裂ける仕掛け人形の笑み。
けれど、それでも彼女は、『やったか!?』などと、迂闊(うかつ)な発言をすることはない。
信じているからだ。
宿敵のしぶとさを、そしてなによりも、その強さを。
ラクルラールは、舞い散る埃の煙幕を、強くにらみつける。
一種の信仰と共にあるその姿は、まるで、憧れの英雄の姿を目で追ってしまう幼児のようでもあった。
やがて、煙が晴れた。
果たして、女神触手(ディスペータ)は……無事であった。
では、弾はどうなったのかというと……
「空中で、静止しているだと!?」
今度ばかりは、流石の女教師も驚かざるを得なかった。
女神触手は、煙幕が広がる前と全く変わらずたたずんでいる。
異変は、彼女のすぐ目の前にあった。
そこにはなんと、丸い虹が広がっている。
もちろん、魔弾もそのままそこにある。
空中で止まって…いや、よく見ると動き続けている。
進行方向に対して、垂直な回転、いや螺旋運動。
それは、確実に対象を破壊するために行われている、死の突撃だ。
にも関わらず…魔弾は未だ、宙にとどまったまま。
その仕掛けの正体は、その奇妙な虹にあった。
魔弾を中心に広がり続ける、同心円の後光(ヘイロー)
それは、宙を走る虹色の波紋だった。
冷静さを取り戻したラクルラールは、即座にその本質、その光の背後にあるものを見抜く。
「密(ひそ)かに防壁を『創造』していたか!
その虹、圧力を光に変換したものだな?
軍や警察の盾などに使われる、特殊な石油化合物の一種か!
まさか、お前が土壇場で『杖』に頼るとはな…」
そう、女神触手は、防壁として透明な壁を作り出していたのだ。
不十分な光量のせいか、あるいは迷彩呪術でもかけられていたのか、その存在は、役割を果たす直前になるまで気づかれなかった。
だが、そこには確かに強固な壁が存在していたのである!
女神触手は、語る。
高らかに自らの作り上げた傑作、比類なく強固な壁の名を。
「これを、『トリシューラのかべ』と名付けました」
「…ほう」
女教師は、低く平坦な声音で応じた。
それを気にもせず、伏せ札の解説は続けられる。
「透明になれて硬いのが良いのですよね。
それに何より、見事なまでに平坦な平面ですし」
「…言っているが良い。
だが、いつまで持つかな?
弾丸は、まだ“生きている”ぞ!」
そう、魔弾は、まだ“生きて”いた。
壁に阻まれ、その侵攻を妨げられながらも、それでもなお、回転と前進を続けていたのだ。