幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
しかし、女神触手(ディスペータ)は、相変わらず涼しい顔のままだ。
「果たしてそれはどうでしょうか?」
そう胸を張るほどの根拠が、彼女にあるのだろうか?
確かに、まだ彼女の巨大ペン回しーー実質的な巨大杖のぶん回しーーは続いている。
回転による遠心力、そして蓄積されつつある呪力は、時間さえあれば、確かにこの魔弾にさえも対抗出来るだろう。
十分な時間さえあれば。
けれど、魔弾は今にも透明な防壁を食い破りつつある。
このままでは明らかに足りないのだ。
時間も、魔弾を弾き返すために必要とされるエネルギーも……
「その程度の武具と業(ワザ)では…いや、なんだソレは!?」
その時、女教師は、奇妙な現象に気づいた。
悪魔の左手(ディスペータ)が回し続けているペンが微妙に変化、いや“変形”している!
「その形、まさか!」
「そう、賭博(ゲーム)をするのであれば、専用の遊具を使った方がずっと楽しいでしょう?」
そのペンは、急速に角張りつつあった。
六つの角(カド)が出来、それぞれの面に数字が刻まれ、穂先…ペン先はより太く大雑把になり……
つまるところ、それはもはやペンではなかった(ディス イズ ア ノット ペン)
それは、柄尻に小さな怪物の姿が描かれたその文房具は、それは…
「遊戯(バトル)用の鉛筆だと!?」
つまり、そういうことであった。
それは、サイコロの代用品として、学生たちが試験回答の代行を頼んだ品、それを更に遊戯に特化させたモノ。
言うまでもなく、学園持ち込み禁止の一品である。
そしてもちろん、それだけではない。
鉛筆の柄尻からは、ペンのときのような飾りが見受けられない。
しかし、それは別に消失したわけではない。
現時点で存在しないのは、一時的に分離しているからだ。
そう、そうすることが必要だったのだ。
後から追加『合体』するために…!
「最強の『レストロオセえんぴつ』に更に強化キャップ追加だと!?
そんなモノ、発売されていないはず!」
だが、それは確かにあった。
それは虚空から帰還した 巨大鉛筆に『合体』し、その数値を、更に上方修正したのだ!
天に向かい高々と屹立(きつりつ)するキャップには、小さな女神像が君臨していた。
見ようによっては、巨大な左腕にも見えるその像が、誰を表しているのかーーこちらも、語るまでもないことであろう。
「この私も、れっきとした第五階層の転生者。
女神ルウテトから生まれた存在です。
貴女が語った『アンティゴネー』の条件に、ぴったり当てはまりますね♪」
「こじつけだぞ、年齢詐称ババア!」
「貴女も同じ年に生まれたのに、それ言ってて恥ずかしくありません?
まあ、それはそれとして、更にーー」
もちろん、用意された札はこれだけではない。
女神触手(ディスペータ)の眼前で、今にも魔弾にカチ割られそうになっていた透明な壁。
その壁にも、まだ仕掛けはあったのだ!
だが、その時!
みしり。
「馬鹿め、もうそのふざけた壁も崩れるぞ!」
そう、壁には大きな亀裂が入ってしまった。
それはたちまちのうちに壁を引き裂いていき、堅固で見事なまでに平坦だったその面も、あっという間に原型を無くしていく!
女神触手(ディスペータ)を守る最後の防壁も、これにて一巻の終わりと思われた!
しかし、そうは問屋が卸(おろ)さない!
「お前もこれで年貢の…何だコレは!?」
女教師は、気づく。
その破壊には、奇妙なところがあった。
最も壊れて欲しい部位、回転する魔弾を受け止め続けているポイントの周囲だけは、全く壊れないのだ。
確かにこの防壁にはヒビが入り、他の部位は大きく割り砕かれつつある。
一見すると、完全破壊は目前に思えるほどだ。
だが、砕けない。
一定の範囲、魔弾を中心に横一列に広がる直線の部位だけは、まるで全く別の素材で出来ているかのように、砕けることがなかったのだ。
確かにヒビはいくつも入っているのに…
いや待て、これは本当にヒビか?
強く集中し、観察を続けていた女教師は、ついに禁じ手を切ってその正体を確かめた。
『鑑定』
この第五階層に生きる存在に、あまねく与えられる祝福。
それを用いて調査を完了したラクルラール、その口からは……
「なんだコレは!?ふざけてるのか!」
なんと、『鑑定』前と全く同じ言葉しか出てこなかった。
そして、ちょうどそのタイミングで、破砕、いや“変形”が完了した。
それは、どこかの機械女王であれば、やすりやニッパーで丁寧に行ったであろう、不要部位の排除。
それによって現れたのは、透明で、細長く、タテにいくつもの線が入った、そんな奇妙な物体であった。
学園であれば、どこにでもある、そんなモノ。
「定規、だと…」
なんとか驚きから立ち直った女教師が、呼ぶその名称を、女神触手(ディスペータ)は、軽く訂正する。
「ただの定規ではありません。最強のクリスタル定規です♪」
「それがどうしたぁーーー!」
その言葉で、ついに怒りが限界に達したのか、ラクルラールは、そこで更なる切り札を切った。
彼女が怒声をあげるのと時を同じくして、魔弾が更に回転速度を急速に速めたのだ!