幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「ボクには…ボクの人格には、歴史が無い」
「ボクは、このアイドル迷宮で産まれた。ある日気付いたら、転生していたんだ。……あのシナモリアキラと同じように」
「何も分からず、過去には実感も記憶も無く、ただボクはアイドルだった」
「ファンはいても、家族はいない。親も兄弟も親戚も…面倒を看てくれる教師や仮初めの保護者すらいなかった…」
ここで、ラリスキャニアの語調が激しくなる。
「だが、シナモリアキラは違う。アイツは、何人もの強力な支援者に恵まれている!」
語りながら指差したラリスキャニアの視線の先には、いつのまにか壁に投影されている文章があった。
それは、慰霊祭の添え物として世に放流されたネット小説。
義手の転生者と堕ちた英雄の物語の画像だった。
「アイツは、ある時この第五階層に突然現れた。事故による転生、人狼による片腕の欠損、戦闘での返り血で衣服すら失って。だが、それでもアイツは【上】の【松明の騎士団】の一行と、後の英雄たちと出会い、彼らに受け入れられることが出来たんだ!」
ラリスキャニアは、ネット小説の筋書きやアストラルネットからの情報をもとに【シナモリアキラ】の経歴を語りだした。
それは、彼女が信じる、この世界(ゼオーティア)における【シナモリアキラ】の歴史。
この世界の住人が信じる、栄光と後援者に恵まれた異邦人の物語だ。
「その後しばらくは、何かトラブルがあったのかここでチンピラをやっていたようだが、すぐにアイツには強力なスポンサーが現れた。例のロボ魔女、あの機械女王だ。」
ラリスキャニアは、ネット小説画像の隣に、いくつもの念写画像を追加で投影した。
その画像の中で【シナモリアキラ】は、【サイバーカラテ】を宣伝し、五階層に存在していた犯罪組織を叩き潰し、道場を破って自らの技術を宣伝していた。
まるで暴力の化身であるかのように振る舞う彼は、傍目から見ても、その暴力をすごく楽しんでいるようであった。
「そして、アイツは英雄となって数々の既存の英雄を打ち負かし、六王にすら認められてその存在をこの世界に確立させた。ついには…アイドルの添え物であることに飽き足らず、自らアイドルにすらなったんだ!」
ラリスキャニアがさらに追加で投影したのは、アイドルとしての【シナモリアキラ】の念写映像であった。
映像の中で、【シナモリアキラ】は異界のミームを纏う美少女であり、悲しみを背負った美青年であり、アイドルグループとその周辺機材ですらあった。
次々とその姿を変容させるその有様は、幻想の世界であるゼオーティアの基準に照らし合わせても、随分と奇妙であった。
だが、そこには未来に対する希望があった。
変化を恐れない勇気が、次々と己を再創造する創意工夫が、己に対する自信と自負があったのだ。
アイドルとしての【シナモリアキラ】は、誰がどう見ても完全なこの世界(ゼオーティア)の住人であり、迷い込んだ異邦人と言うより、期待され愛される新星(ニューカマー)であった。
”彼”は、アイドルとしてこの世界(ゼオーティア)に認められたのだ。
「貴方は、それが羨ましいのですか?羨ましいから、アキラさんを憎んでいるのですか?」
天使(レオ)触手は、とうとうと【シナモリアキラ】を語るラリスキャニアに問いかけた。
そこにあるのは、果たして嫉妬だけなのか、と。
「ああ、そうだ。そうだった、最初のうちは……」
ラリスキャニアは、アイドルアキラ映像の隣に、更に映像を投影した。
もう、壁は【シナモリアキラ】の映像で一杯であり、蟻の這い出る隙間もないほどだ。
そんな、【シナモリアキラ】壁を見ながら、ラリスキャニアは語り続けた。
己と【シナモリアキラ】の関係性を。