幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第80話(65~66の途中まで)

さて、ここで激闘を続ける女教師の頭上に注目してみよう。

満天の星空のように、あるいは雷雲のように広がり、宙を沸き立たせる無数の波紋。

 

その総数はなんとーーーー二万を軽く超えていたのだ!

 

そして、女教師は、いや、万軍を指揮する女将軍の指令は降った。

それはただ一言、あっさりとした、しかし大気を鋭く切り裂くような声であった。

 

「かかれ!」

 

光の雨が降る。

古びた映画フィルムのように、闇を切り裂き、世界をバラバラに切り裂く光が。

 

その豪雨の激しさの中、向かい合う二対の眼差しだけが、静かに、そして燃えるように熱く、互いだけを見つめていた。

 

この時、世界は、ただ二人のためだけにあった。

二人の魔女の決闘、それだけがこの舞台の全てであったのだ……

 

 

 

 

わずかの、あるいは永遠にも近い時が過ぎ去った。

この場合、その二つの間に区別をつける必要はあまりなかった。

戦い続ける二人にとって、大した差がないことだからだ。

 

ざあざあと、雨が降り続いている。

それは、奇妙な雨だった。

 

ときに斜(なな)めに、またときに天へ

遡(さかのぼ)って宙を走る、光の線。

 

その奇妙自在な動きは、虹犬(ヴァルレメス)種が得意とする攻撃呪術【線の嵐】を思わせるがーーさにあらず。

 

その奔流(ほんりゅう)は、全てが『糸』

それも、たった一人の魔女が操る技芸の賜物(たまもの)に過ぎなかった。

 

そもそも、雨を降らせること、すなわち【雨乞い】(あまごい)とは、天候操作系呪術の基本にして最古に近い古典的な呪術である。

 

なるほど確かに、神の力の象徴としては、哲学的ゾンビの女王が操るような『雷』の方が、遥かに派手だし分かりやすい。

 

だが、真に人が欲する『力』

いっそのこと『宝』と呼ぶべきものは、誰が何と言おうと『雨』であることは自明であろう。

 

なんと言っても、それこそは真なる天の恵みなのだから。

 

飲用、洗浄、溶媒としての活用、工業利用、そして農業。

真水の用途は多様なうえに、多くの場合、その『代替品』が存在しない。

 

しかも、そのいずれの特性も、文明が継続するために、そして何より、生命の存続に不可欠なものなのである。

 

球状の天体であるという異世界『猫の国』でさえ、その別名を『水の惑星』と名乗っているくらいだ。

それを聞けば、水がどれだけ貴重で尊い資源なのかは、誰にでも理解できることであろう。

 

そして、大量の水を得る最も効率的な手段こそが『雨』なのだ。

 

呪術が発展し、複数の方式によって水資源を得られるようになった現代においても、それは変わることのなき事実である。

 

それゆえに、人は太古より『雨』を求め、【雨乞い】を行ってきたのだ。

 

今でこそ、天気は【天気占い】によってたやすく変えられるものだと思われている。

 

だが、人間の数が少なく、呪術理論がまだ未発達な時代には、【雨乞い】は成功が不確かな難事業であった。

 

それは場合によっては、失敗した『坊主』(シャーマン)が幾人も、次なる成功のための贄(にえ)として吊るされ続けられたことすらあったほどだ。

 

だから、この豪雨こそは成功の証、最も分かりやすい『力』の証明であった。

類感呪術の質(クオリティ)は、どれほど狙いとなる物体や現象に成功しているか、ただそれだけにかかっている。

 

その評価基準に照らせば、この雨こそが、最高級(ランク)の呪術師の証なのだ。

 

轟音をあげてうねり、殴りつけ、降り続ける糸の豪雨。

それは、由緒正しく、強大なる力の現れであった。

 

しかし…そんな由緒正しい『力』の猛攻が、はたして使用者を幸福にしているか、と言えば…その点については、疑問符をつけざるを得ない。

 

豪雨の集結点、防衛対象たるかの魔弾はーー未(いま)だに進み続けているのだから。

 

全身全霊、現状発揮出来る最大出力をもってして、なおその防衛線を後退させ続けざるを得ない。

 

それが、現在の戦況なのである。

 

ラクルラールは、明らかに敗色濃厚であった。

 

もちろん、いくら一時的に弱体化しているとはいえ、人形師の頂点を自任する彼女の戦力が【雨】だけであるわけがない。

 

いったい、二万を超える人形の軍団は、どうなったか?

 

それは――全て魔弾を食い止めるため、女将軍の防壁となって立ちはだかり……そして既に力及ばず、残らず敗れ去ってしまっていたのだ。

 

これ全て、猛進する魔弾のもたらした結果である。

 

この惨事は、人形が弱かったわけでも、ラクルラールが手をこまねいていたせいでもない。

 

人形たちは、多種多様な機能を発揮して足止めに徹したし、その使い手本体も、魔弾が飛ぶ領域自体に罠を張ることによって、せめてもの抵抗を試みていた。

 

よく知られているように、『教師』は『学校』において、疑似的に時空を操作することが出来る。

 

これは、組織・機関を問わず、あらゆる『上長』に共通する特性(スキル)であるが、学校教師の場合、それは主に学校行事において発揮されるのだ。

 

代表的な例としては、朝礼時やテスト終了五分前などが挙げられるだろうか。

 

もちろん、いかに呪術世界であっても、通常ならその時空歪曲力を実戦で運用するなど不可能だ。

 

けれど、この『学園都市ラクルラール』の廃墟は夢、それも悪夢の内側である。

 

この場所であれば、大概の無理は通るのだ。

 

今もなお、飛来する光球を、ゆらぐ空間がなんとか押し留めていた。

 

それは、延びる廊下、歪曲する悪夢の時空。

音の壁を軽く破って突撃してくる魔弾さえも食い止める、最強の足止め罠であった。

 

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