幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
しかしもちろん、それに対する準備もとっくに出来ていた。
零落した死の女神は、魔弾を見送ると同時に、相手の反撃に対処出来る兵器を構築していたのだ。
今や、校庭から校舎まで、彼女の足元はまっしろな防衛線(ヴァージンロード)で覆われていた。
新雪のような白は、全て人骨から出来ている。
肋骨の鉄条網、死体袋の土嚢、古墳のトーチカ。
それは死者の野戦築城。
そしてもちろん、それだけではない。
「夢の中ということは、すなわち失われた力や理論上製作可能な武装すら、呼び出せるということ。
私の『杖』、モデリングも、今や貴女を超えていることをお見せしましょう。
終幕を告げよーー鎧骨・反転総式(ガイコツ・ターンオーム)」
かつての女王が号令を上げると、彼女の背後が大きく揺れた。
それは巨大な波紋、空間そのものが海のようにゆらぎ、人面樹に大きな人影がかぶさる。
悪魔の左手(ディスペータ)の背後から、滝を割るかのように全身を骨で鎧(よろ)った巨人が出現。
それが鋭く眼光を光らせるや否や、巨人は人面樹をその体内に格納しーーその額に輝く文字がひとつ、浮かび上がった。
装着完了、すぐさま正拳一撃!
巨人は長大な骨の腕を振るい、魔弾を殴りつけた!
拮抗する力。
魔弾は更に揺れ、その標的を変え続ける!
今やそれは、迷える牙。
対立する超常存在がありったけの殺意と呪いを込めた狂える凶器。
そんなモノが飛び交う戦場に身を置くなど、正気の沙汰ではあり得ない。
だが、向かい合う二人の魔女は、共に笑みをもってそれを迎え撃つ。
二人は、共に全身に呪力をみなぎらせ、持てる限りの業(ワザ)を、いや、たった今この時に編み出したばかりの新技術の粋(すい)をもって互いに魔弾を迎撃。
より強い呪いを乗せて、撃ち返さんと身構え続ける。
それは、すさまじい応酬であった。
右から左、左から右へと白球が飛び交う。
「フゥーハハハ!喰らえ!」
「そんなゆるい球、当たるものですか!」
球が返されるたびに、言葉も返る。
壮絶なるその打ち合いは、殺伐としていながらも、どこか遊びのようでもあった。
繰り返される死の往復は、なぜだかやけに穏やかにも思えた。
それはやがて球技ペースを超え、人間の認識出来る速度域を超越していく。
さて、ところで魔弾の射手たる『生徒たち』は、その間一体なにをしていたのかというと……なんと彼女たちは、まどろみ始めていた。
恐るべき破壊力をもって行き交う魔弾さえも、『生徒たち』の目には、それがまるで柱時計の振り子のように見えていたのだ。
そんなもの、動画とSNA333のマジカルアピールでしか見たことはないのに……
『生徒たち』は、個我も不確か、その意識もぼんやりしている。
そんな彼女たちの耳には、魔弾が継続的に放つ衝撃音すら、メトロノームとなり、やがて子守唄として響き始めていた。
人面樹からこぼれた花びらが舞い散り、肉体の内部を二つの呪力が綱引きする。
そうして『生徒たち』は、悪夢の中にて更なる眠りへと誘(いざな)われていった……
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穏やかすぎる日差し。
暖かな風がカーテンをはためかせる。
そこは、あまりにも平和でキレイな教室の中。
少女はそこで目覚め、何かを読み上げる声を聞く。
美しいひとは、本を持ち、窓際に立つ。
そして、彼の頭の上にはかわいらしい黄金の猫耳が生えていたのだった……
暖かな風が、カーテンをはためかせる。
小さな花弁が舞うそこは、真昼の教室だった。
ここは美しく清らかで、光に満ち溢れている。
物陰には恐怖の片鱗すらなく、悪夢などは欠片すら存在しない。
その場所は、この世に夜があったことを完全に忘却しているかのような、そんな光の部屋。
その一面を成す窓からは、花を満開に咲かせた大きな樹木が二本見えた。
それは、奇妙な花樹だった。
その花は、パッと見た感じでは薄いピンク色に見えるのに、ふとしたはずみでその色合いはいかようにも変わるのだ。
ある時は、日の光に負けない純白の白。
かと思えば、無数に存在する花弁の陰が急に目立って、真っ黒に染まって見える。
またときには、日を透かし、あっという間に燃えるような朱に変わっていたり。
あるいは、白も黒も無いあいまいな薄墨の色となり、その舞い散る花びらを通して、世界をぼんやりとした空間に染め上げていたりもするのだ。
それは秩序立った混沌であり、永遠にまとまることのない整頓だった。
白であり黒、無彩にして多色、繁栄を約束された始源にして在りし日の栄華を匂わせる終端、万物を含む『究極』でありながら、同時にその全てを否定する『虚無』であった。
つまるところ、わけが分からなかった。
そんな奇妙な花が咲き誇るここは、それでもやはり、ひとつの教室であった。
なぜなら、ここではひとりの美しい少年が、今まさに朗読をしているのだから。
咲いた、咲いた…
何を読んでいるのかと手元を見ると、それは、白い本だった。