幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第83話(68~69の途中まで)

表紙は白く、文字が少ないのかそのページさえも日を反射する白。

 

ただそれには、奇妙なところが一つだけ存在した。

何か間違いでもあったのか、ページの一部は黒く塗り潰されているようなのだ。

 

それはまるで、美しき受付嬢の顔になおも残る、隈(くま)のような不穏さだった。

 

だが、朗読者はその不穏さに驚かない。

違和感ひとつ、言及することもない。

 

彼は、ただただ読み続けた。

それが、天から授かった聖典であるかのように、大切に大切に、一言一言をはっきりと発音し、噛みしめるように語っていく。

 

そんな少年は、あるときふと沈黙すると、窓を見た。

そこには満開の花々が、明るい日差しに照らされて在る。

 

それに誘われたのか…次に発声されたのは、本には無い言葉だった。

 

「この器は、僕とすごく相性が良いみたいですね

なるほど、うわべだけの、中身が虚(うつ)ろな美。

すぐ枯れる、人造の花…」

 

それは、思わず出た言葉のように聞こえた。

 

「そ、そんなことありません!」

 

とっさに声をかけてから気づく。

自分は、なんて畏(おそ)れ多いことをしてしまったのか。

 

青ざめるが、一度出した言葉を戻すわけにもいかない。

 

わたしは…わたし?

なんだっけ、それは。

 

とにかく、謝らないといけない。

まず、それが先立つ。

自分が何とかどうとかは、すべてその後だ!

 

「ご、ごめんなさびゅ!」

 

…噛んだ。

噛んでしまった。

それも、すごく恥ずかしい噛み方で。

 

こんなことでは、アイドルどころか、完全にニンゲン失格だ!

MC(語り)は、比較的得意分野なのに、このザマなんて!

 

死にたい…ハラキリはアイツとカブるから、他の死に方で…駄目だ。

死ネタは、結局全部、他のアイドルとカブる。

 

新生『SNA333』だけに絞っても、大抵の自殺手段をカバーしているし…そもそも、死の女神ルウテト信仰は、アイドル迷宮の地下カルトでも有力派閥だ。

 

いくら最近は、新興の女装王子信仰やラプンシエル信仰、コルセスカファンクラブなどに押されているからと言って、無視出来るような文化(カルチャー)ではない。

 

いまやその勢力は、シナモリアキラ信仰/サイバーカラテ熱狂派と機械女王信仰(禁教の機械解体愛好派含む)を合わせたより少し上、と言ったところに過ぎないが……

 

それでも、古来からの由緒正しい死女神アイドルを無視することなど、出来るはずがないのだ。

 

つまり、どうせカブるにしても、それらの既存アイドルイメージを上回らなければならない!

 

とにかく、まずは練習、練習あるのみだ!

今日の自主練は、あと六時間は滑舌に充(あ)てなければ!

 

…って、あれ?

 

「アイドル?

わた、し…いや、『ボク』は、アイドル…

そうだ!アイドルだ!」

 

気づけば、思わず叫んでいた。

そうか、答えはこんな近くにあったんだなぁ……

 

『地下アイドル迷宮』『夜の民』『吸血鬼と青い鳥(ペリュトン)のハーフ』『模倣アイドル』『触手』

 

まだ記憶の全ては思い出せないが、思考の奥底から、言葉が次々と連鎖的に浮かび上がってきた。

 

分かる。

何もかもが……

感極まって、思いがあふれ出す…!

 

それは空白だらけのパズルだったが、なんとなく図柄が見える程度の量は集まっている。

これだけあれば、ひとまずは満足出来る。

 

少女は、確かなものを見い出すことが出来た安心感から、知らずに深く息をついていた。

 

このセカイは、白く美しく穏やかだが、あまりにも陰が、余白というものが無さ過ぎる。

罪や汚点といった欠落がきっかけだとしても、己の輪郭を取り戻すことが出来たことは、彼女に無量の安心感を与えていた。

 

「そう、アイドルは世界…世界こそがアイドル…!」

 

しかし…地下アイドルは、怒涛のように押し寄せる記憶に気を取られ、肝心なことを忘れていた。

 

それは例えば、眼前の麗人がいかに優しいか、彼を辛抱(しんぼう)強く待たせてしまっているか、といったことである。

 

「あのー」

 

「はっ!

すいません!すっかり貴方のことを忘れておりました!

やはりセップク!第五階層のトレンド処刑は、機械女王の前でのハラキリで決まりなのでしょうか!?

姫誘拐とか公開残酷処刑ショーとか、重罪人は、前世の罪でセップク確定ですよね!」

 

「…いえ、そんなことは無いと思います。

第五階層には、前世の罪を裁く刑法はありませんし、トリシューラ先生…機械女王は、とても冷静でお優しい方です。

貴方が真摯な姿勢を示せば、きっと寛大な配慮をしてくださいますよ。

あと、罪がある人の処刑は、最近では電気椅子になるのではないかと思います。

余計な苦痛を与えない方法ですから。

それより…」

 

猫耳の少年は…なんと、そこで腰を折り、深く頭を下げた。

 

「それより、今のは僕のことを心配してくださったのですよね。

こちらこそ、失礼しました。

ここだとなんでも話せるので、ついしゃべり過ぎてしまって。

闇と光の境界が曖昧だからでしょうか?

でもまあ、良いですよね。

だって、ここは夢の中なのですから。

人々が望む全てのキレイな理想も、あらゆるヨゴレた欲望も、ここではみんな混じり合い一つになっている。

まるで、コーヒーに垂らしたミルクのように。

夢は、あらゆる人にとっての魂の解放区です。

この僕でさえ、ここでは大昔に欠けてしまったものを取り戻した気になります」

 

少年は、ここでちょっと視線をずらし、部屋の隅(すみ)を見た。

 

そこには、大きな姿見がある。

大きなひび割れの入った、この平和な部屋には似つかわしくない鏡が。

 

彼は、それに微笑みかけたが…それは、ほんの一瞬のうちに、さっと消えていってしまう。

 

少年を注視していた少女が、その視線の先を追ったときには…そこには、もう何も残されてはいなかった。

 

それはあたかも、セカイ全体に拒絶されているかのようであった……

 

 

 

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