幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
その瞬間、全てをめまぐるしい光が覆った。
真夏の突風のような、感じられる時節には全く合わない変動。
舞台照明が変わったかのように、セカイを不思議な影が過ぎ去ったのだ。
それは、穴の空いたチーズのような、風に揺れる木漏れ日のような、そんな光と影の嵐。
それが過ぎた後、全ては収まり、そこにはただ平穏だけが残っていた。
教卓の上には、槍型の花瓶に大きな黒百合が飾られていて、日の光に負けずと咲き誇っている。
白い教室。
そこは光に満ちていて美しく、陰(かげ)りが無く、ただ、平和と幸福の予感だけがある空間だった。
眠気を誘う暖かさ。
心地の良い風がほほを気持ち良くなでてくれて、頭がぼんやりしてしまう。
何も、考えられなくなる。
そんな中で、猫耳少年は、美しくほほ笑んだ。
その姿は、まるで一幅(いっぷく)の絵画のようだった。
少女は、思わずそれに慌(あわ)てて、反応が遅れてしまう。
その間に彼は、まるでボール遊びをするかのように、こちらへと気軽に言葉を投げかけてきた。
「そうだ。
ちょっと質問してもよろしいですか?」
「え?
は、はい、もちろん!」
それは緩い投球だったが、少年の美貌と美声にぼんやりしていた少女にとっては、豪速球のラフディボールに等しい一撃だった。
しかも、
「貴女は、僕が美しいと思いますか?」
その内容も、実に予想外。
「え、ええ
あなたは何よりも…
そう、この桜のように美しいと思います
なによりも美しい花だと…」
驚き、はにかみながらも、笑みとともに少女は答えた。
答えはしたが…自分があまりに大それたことを言ってしまったように思えて、彼女は、熟した果実のように赤く染まってしまう。
「ありがとうございます。
でも、だとしてもその『一番』は、誰かの都合によって決められただけのものです。
単なる思いつき、委託先を持たない願望、期待、そして…自身への失望や劣等感の反動。
それには、本質的な根拠はありません。
加えて言えば、実は、理由だって無いのです」
「そんな!」
「いえ、そうなのですよ」
少年は断定し、その理由を続けて語った。
「そう、この花だって同じです。
同じ時期に一斉に咲く花は、一斉に花を見ようとする行動を誘発させ…人々の行動を同期させます。
それは、支配者にとってとても都合が良い。
だから、この花は至高の美だと、『一番』であるとされているのですよ。
本当は、美しいものなんて、他にいくらでもあるのに。
『一番』なんて、一人一人のヒトが、自分の基準で好き勝手に決めて良いモノなのに…」
「そんな、そんなことはありません!
だってこんなにも貴方は美しいのに!
『一番』は、あります!」
「…意地悪な質問をしても良いですか?」
一瞬だけ口ごもった少年に合わせ、少女もまた少しだけためらってから、返答した。
「…はい、どうぞ」
「自分が、絶対にその『一番』になれないとしても、貴女はそれを求めるのですか?」
「ええ、もちろん!」
今度は、即答だった。
そんな少女を見てためらいながらも、少年は、更なる問いを重ねた。
「それは、どうしてなのですか?」
「『一番』が好きだからです。
ボクは、それを信じています」
「信じる…ですか?
それは、例えば神や天使のように?」
「はい、そうです。
もちろん…ボクが地下アイドル迷宮で産まれたので、そうした競争的な価値観しか知らないというのはあります。
けど、違うんです。
それだけではありません」
「それが何故なのか…そちらも、お聞きしてもよろしいですか?」
「はい!」
少年は、決して押しつけがましくないように、聞き返してくれる。
心地良い。
聞き役を演じるのが上手い、と言うべきか。
それは彼が、そういった『まとめ役』としてのポジションについているからなのかもしれない。
今度、自分のライブにもこの要素(コール&レスポンス)を取り入れよう。
ひそかにそう決心しながら、少女は説明を続けた。
「誰もが同じ価値観を目指しているから、序列と競争が生まれ、『一番』が出来るんです。
それはつまり、同じものを見て美しいと思い、共感出来るということ。
言い換えれば、分かち合える喜び。
ボクには、それが間違っているとは思えないのです。
ボクの快楽、ボクの価値観を受け入れてもらえること。
すなわち、ボク自身が受け入れてもらえること!
それが幸い、ボクの喜びなんです!」
少女は、情熱的に語った。
それは川のようにとうとうと流れ、雪解け水のような柔らかさから、大地を削り海へと至る大河のような激しさへと、その勢いを増していった。
「確かに、それでも比較され、排除され敗北するのは確かに『痛い』もので…ボクもそれは嫌いです。
けれど、同時に地下アイドル迷宮のランキングは、頻繁(ひんぱん)に変動するものでもあるのです。
だから、いつだってきっと這(は)い上がれる!
そして、そのランキングが創り出す頂点、『一番』は、全てを照らす希望の光を降らせるのです!
まるで満ちあふれる杯(さかずき)のように、その輝きは、天から降り注ぎ、この世界に『価値』を与えています!
たとえそれが、実際には決してたどり着くことが出来ない『玉座』だとしても…それでもランキングに挑戦を諦めないかぎり、ボクにもチャンスがある、どこまでもそう信じることが出来るのです!」