幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第84話(69の途中まで)

その瞬間、全てをめまぐるしい光が覆った。

真夏の突風のような、感じられる時節には全く合わない変動。

 

舞台照明が変わったかのように、セカイを不思議な影が過ぎ去ったのだ。

それは、穴の空いたチーズのような、風に揺れる木漏れ日のような、そんな光と影の嵐。

 

それが過ぎた後、全ては収まり、そこにはただ平穏だけが残っていた。

教卓の上には、槍型の花瓶に大きな黒百合が飾られていて、日の光に負けずと咲き誇っている。

 

白い教室。

そこは光に満ちていて美しく、陰(かげ)りが無く、ただ、平和と幸福の予感だけがある空間だった。

 

眠気を誘う暖かさ。

心地の良い風がほほを気持ち良くなでてくれて、頭がぼんやりしてしまう。

何も、考えられなくなる。

 

そんな中で、猫耳少年は、美しくほほ笑んだ。

その姿は、まるで一幅(いっぷく)の絵画のようだった。

 

少女は、思わずそれに慌(あわ)てて、反応が遅れてしまう。

 

その間に彼は、まるでボール遊びをするかのように、こちらへと気軽に言葉を投げかけてきた。

 

「そうだ。

ちょっと質問してもよろしいですか?」

 

「え?

は、はい、もちろん!」

 

それは緩い投球だったが、少年の美貌と美声にぼんやりしていた少女にとっては、豪速球のラフディボールに等しい一撃だった。

しかも、

 

「貴女は、僕が美しいと思いますか?」

 

その内容も、実に予想外。

 

「え、ええ

あなたは何よりも…

そう、この桜のように美しいと思います

なによりも美しい花だと…」

 

驚き、はにかみながらも、笑みとともに少女は答えた。

 

答えはしたが…自分があまりに大それたことを言ってしまったように思えて、彼女は、熟した果実のように赤く染まってしまう。

 

「ありがとうございます。

でも、だとしてもその『一番』は、誰かの都合によって決められただけのものです。

単なる思いつき、委託先を持たない願望、期待、そして…自身への失望や劣等感の反動。

それには、本質的な根拠はありません。

加えて言えば、実は、理由だって無いのです」

 

「そんな!」

「いえ、そうなのですよ」

少年は断定し、その理由を続けて語った。

 

「そう、この花だって同じです。

同じ時期に一斉に咲く花は、一斉に花を見ようとする行動を誘発させ…人々の行動を同期させます。

それは、支配者にとってとても都合が良い。

だから、この花は至高の美だと、『一番』であるとされているのですよ。

本当は、美しいものなんて、他にいくらでもあるのに。

『一番』なんて、一人一人のヒトが、自分の基準で好き勝手に決めて良いモノなのに…」

 

「そんな、そんなことはありません!

だってこんなにも貴方は美しいのに!

『一番』は、あります!」

 

「…意地悪な質問をしても良いですか?」

 

一瞬だけ口ごもった少年に合わせ、少女もまた少しだけためらってから、返答した。

 

「…はい、どうぞ」

 

「自分が、絶対にその『一番』になれないとしても、貴女はそれを求めるのですか?」

「ええ、もちろん!」

 

今度は、即答だった。

 

そんな少女を見てためらいながらも、少年は、更なる問いを重ねた。

 

「それは、どうしてなのですか?」

「『一番』が好きだからです。

ボクは、それを信じています」

 

「信じる…ですか?

それは、例えば神や天使のように?」

 

「はい、そうです。

もちろん…ボクが地下アイドル迷宮で産まれたので、そうした競争的な価値観しか知らないというのはあります。

けど、違うんです。

それだけではありません」

 

「それが何故なのか…そちらも、お聞きしてもよろしいですか?」

「はい!」

 

少年は、決して押しつけがましくないように、聞き返してくれる。

心地良い。

 

聞き役を演じるのが上手い、と言うべきか。

それは彼が、そういった『まとめ役』としてのポジションについているからなのかもしれない。

 

今度、自分のライブにもこの要素(コール&レスポンス)を取り入れよう。

ひそかにそう決心しながら、少女は説明を続けた。

 

「誰もが同じ価値観を目指しているから、序列と競争が生まれ、『一番』が出来るんです。

それはつまり、同じものを見て美しいと思い、共感出来るということ。

言い換えれば、分かち合える喜び。

ボクには、それが間違っているとは思えないのです。

ボクの快楽、ボクの価値観を受け入れてもらえること。

すなわち、ボク自身が受け入れてもらえること!

それが幸い、ボクの喜びなんです!」

 

少女は、情熱的に語った。

それは川のようにとうとうと流れ、雪解け水のような柔らかさから、大地を削り海へと至る大河のような激しさへと、その勢いを増していった。

 

「確かに、それでも比較され、排除され敗北するのは確かに『痛い』もので…ボクもそれは嫌いです。

けれど、同時に地下アイドル迷宮のランキングは、頻繁(ひんぱん)に変動するものでもあるのです。

だから、いつだってきっと這(は)い上がれる!

そして、そのランキングが創り出す頂点、『一番』は、全てを照らす希望の光を降らせるのです!

まるで満ちあふれる杯(さかずき)のように、その輝きは、天から降り注ぎ、この世界に『価値』を与えています!

たとえそれが、実際には決してたどり着くことが出来ない『玉座』だとしても…それでもランキングに挑戦を諦めないかぎり、ボクにもチャンスがある、どこまでもそう信じることが出来るのです!」

 

 

 

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