幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「いいえ、“その程度”では、それはとても『真の破壊』とは言えません。
全てを破壊すると語る破壊神は、自分自身を破壊しないのでしょうか?
何もかもを無に帰すとされる暴力は、では『無』自体を破壊することは出来ないのでしょうか?
破滅や絶望を予言する運命は、その運命自体を破滅させられるのでしょうか?
あるいは、絶望を約束することは、それ自体、ひとつの確かなものと言えるのではありませんか?
それは結局は、未来を諦める自身を肯定するような、形を変えた安寧に過ぎないのでは?
破壊破壊と言いながら、その後に見慣れたナニカを残してしまう程度の干渉では…その程度では、結局は『永劫の停滞』をもたらすだけで終わってしまうのです。
あらゆるモノを破壊しきっても、その後に何も変わらない自分が残るのでは、それはきっと…何も壊さないのと同じこと。
それまでの世界という『外側』に加え、己自身という『内側』そして、その両者をつなぐ『関係性』までもを破壊し尽くしてこそ…それは『真の破壊』と呼べるものとなります。
そして、トリシューラ先生は、『ヒトの定義』に疑問を投げかけ、再構築させようとなさっているお方。
言うなれば、この世界(ゼオーティア)のひとつの根幹を、人々の視座の在り方自体を『更新』しようとなさっている方です。
そんなあのヒトであればーーあるいは、本当に全ての『真の破壊』を行うことが出来るかもしれないーー僕は、それを期待しているのです」
少年の語る話は、長く複雑に入り組み、独特の定義に満ち満ちていた。
そのため、アイドルに関する知識と興味しかない少女には、かなり聞き取りにくい言葉であった。
だが、彼女は生粋のアイドルであり、同時にアイドル分析を得意とする生粋のドルオタでもある。
アイドルを妨害する社会戦を的確に行うには、アイドルに対する知識が不可欠だ。
少女は、手に入る限りのアイドル関係者の情報を持っていた。
機械女王が、どうやら『ちびシューラ』のような童女を魅力的だと思っていることや、シナモリアキラが『夜の民』の風俗ワーカーに弱いことなど……
迷宮から出なくても容易に調べられるようなアイドル情報は、意外とたくさんある。
ただまあ、中には例外もある。
槍神教や竜神信教、クロウサー家などには、明らかにスパイを釣るための『囮』の情報を流しているところもあった。
あくまで『不確定』な情報ではあるが…リーナ・ゾラ・クロウサーに優位に立つためにミルーニャに近づいた工作員などは…皆ことごとく“存在を消失”し、そのスポンサーや一族郎党と共にあらゆる記録からも姿を消したとか……
また、真性(ガチ)の半神である『キュトスの姉妹』関連の情報などは、膨大な噂(ノイズ)に加え、呪術的な隠蔽(いんぺい)もあり、ほとんど調べることは出来なかった。
せいぜいが、長大なおすすめゲームリストや莫大な数の実況プレイ動画、ゲームレビューなどを発見したくらいである。
閑話休題。
ともかく、多少の貨幣(カネ)とコネ、それに触手分身の変身能力を駆使すれば、大抵の情報は手に入れることが出来る。
そうした事前知識を用いれば、少年の難解な話も、理論上はちゃんと理解することが出来るはずだ。
そう…理論上…理論…りろ…りろ、ん……
「う、うーん…」
「あ、あれ?大丈夫ですか?」
大丈夫ではなかった。
どうやら、この話は、アイドル以外の政治や呪術、あるいは文化や哲学に関する“深い”(ディープ)な話題らしい。
確かに、そういった話題をアイドルに絡めて話すのも、アイドル雑談のいちジャンルではあるが……
はっきり言って、少女はそういったジャンルが苦手だった。
真性(ガチ)な政治は、彼女の得意分野とは似て非なるもの。
ちょっとした裏工作を他のアイドルにしかけたり、脱衣アイドルを姉妹アイドルの楽屋へ誘導するようなささいなイタズラとは、話が違うのだ。
しかし、時は待ってはくれない。
今は会話の最中。
少年は、答えを待ち望んでいるのだから。
アイドルは、ヒトを待たせてはいけない。
これは、円盤の発売日とか次のライブに期待を持たせるのとは、全く異なる話なのだ。
やむを得ず少女は、“いつもの”技術(テク)を用いることにした。
前述したように、アイドルオタク同士の雑談や、握手会などをアイドルとの会話において、難解な政治話や独自理論を語り出すケースは、決して少なくはない。
他に話題が無いのか、緊張のあまり脳の配線でもおかしくなったのか、あるいは単に出身コミュニティでは当たり前の内容なのか……
いずれにせよ、それはアイドルなら、当然のようにこなさなればならない、“抜き打ちテスト”なのだ。
よって少女は、いつものように“アドリブ”で答えることにした。
ありあわせの知識と観察で得た情報、とっさの閃きを合わせ(ブリコラージュし)て、当意即妙(に見える)解答を“錬成”するのだ。
その手法については、かなりの自信があった。
なにしろそれは、一流企業の幹部社員で秘書的な業務も担っている、ある探索者アイドルから学んだものだからだ。
彼女の、常にヒトの顔色に敏感な"純白の感受性"は、応用すれば強力な武器(ちょうしょ)にもなる。
常に最悪を想定するその恐怖心こそが、あらゆる対応を可能とする“アイドルトーク瞬発力”の源となるのだ。
よって、その言葉は即座に、流れるように『自然に』放たれた。
「機械女王の"三人でのマジカルアピール"ですか!」
「ええ、そうです!
"彼女"なら、いえ、"彼女たちと彼"なら、きっとやってくれる…僕はそう、信じたいのです」
良かった。
どうやら上手く会話が成立したようだ……
少女は、そっと胸をなでおろした。