幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
つづけて、ちょっとした称賛をつけて、相手をほめることにする。
人間(ロマンカインド)は誰しも自分のことが大好きだが、そうでない者もいる。
しかし、そういった場合でも通用するほめ言葉も、それはそれで、また確かにあったりするのである。
そういったタイプの者でも、自分が好きなものや推している者のことをほめられれば、とても喜ぶのだ。
こういったさりげない一言こそが、固定ファンを作り序列を駆け上がるために必要な、地道な一歩なのである。
「ボクと違って、貴方は良い先生に恵まれているのですね」
しかし、少女が会心を期して放ったその言葉は……なぜかあまり、上手くいかなかったようだった。
「……貴女も同じですよ。
いえ、同じことです。
大切なのは、何を“教えられるか”ではなく何を“学びとるか”なのですよ」
少年の笑顔は、どこか曇っていた。
まあ、たまにはこういうこともある。
「なるほど、勉強になります!」
少女は、せめて今の自分に出来る最高の笑顔で間を持たせることにした。
少年がまた会話を続けてくれるように。
そして、自分を傷つけたことで、少年自身が傷ついてしまわないように、と……
「おっと、ちょっと話を脱線させすぎました。
貴女のことに話を戻しましょう」
少年は、笑みと共に少女に語りかける。
「お話の内容は、貴女の恐怖と不安について、ですよね。
確かに、先生…機械女王の統治で、貴女の大切にしているもの…地下アイドル迷宮のランキングは、おそらく破壊されるでしょう。
しかし、それは始まりに過ぎません」
「始まり、ですか?」
「ええ」
少年は、そう微笑みのまま答えると、黒板を指差した。
そこにはいつの間にか、砕かれた階段の絵があった。
なぜ、それが階段だと分かるのかといえば、それは今も“階段をやめている途中”だったからだ。
それは、原型を残しながらも、すでに崩れゆく廃墟だった。
それを描く絵は、いきいきと動くチョークの動画である。
階段ーー元階段のそばで頭を抱える棒人間さえも、そこでは生命力にあふれて動いている。
そこで少年は、その前で手をさっと振った。
すると、どうだろうか。
絵に、大きな変化が現れたのだ。
まず、出てきたのはたくさんの棒人間だ。
彼女?たちはそれぞれ動き出し、階段の破片をいじり始めた。
それは、階段の修復作業ではなかった。
彼女たちは、全く別のことを行っていたのだ。
ある者は、破片をブロックに整形し、ある者は、それを積み上げ、またある者は、セメントや漆喰(しっくい)らしきものをかき混ぜていた。
第五階層らしく、物質創造能力で土台部分や飾りを作る者もいる。
そうした協力の果てに生み出されたのは、たくさんの階段であった。
それらの段は、形も素材も、上昇する仕組みさえも皆、違う。
しかも、それだけに留まらない。
完成した建築物は、階段だけではなかったのだ。
まず、広場があった。
これは、第五階層独特のーーといっても少女は直接見たことがないがーー自由に加工出来る『創造』用のオブジェがある広場だ。
ここでは“当たり前”の存在と言っていい空間。
だが、それは既存のものとは大きく異なっていた。
子どもたちが、遊んでいるのだ。
そこでは、あらゆる民族あらゆる文化圏のたくさんの子どもたちが、それを大人に守られ楽しそうにはしゃいでいた。
少女は、驚きのあまり目をまたたかせた。
あれは、本来ならあり得ない光景のはずだ。
第五階層は、『上下』の勢力がぶつかり合う最前線。
謀略と暴力がはびこり、強者や英雄が使い捨ての光短槍(サイリウム)のように、バタバタと死んでいく危険地帯だ。
これは、『全世界危険地帯ガイドブック』にも、特集ページで載っているくらいの有名な事実である。
そんなところで、大勢の子どもが遊べるはずがない。
確かに、第五階層にも子どもはいる。
風俗地帯は戦場には付き物であるという以前に、ここは難民が逃げ込む場所でもあるからだ。
ただ、その大半の立場は行き場がない孤児に近く、その身柄は、病院や極秘の養護施設などで、厳重に保護されているのが普通だと聞く。
なにしろ、その中には『赤ちゃん工場』で臓器売買やペット・奴隷や使い捨ての使い魔として扱われていたような、幼児すら存在するのだ。
その事実だけでも、第五階層の危険度は推して知るべしである。
だが、この黒板の動画では、そんなあり得ない光景が変わらずくり広げられているのだ。
これを奇妙と言わずして、なんと言おう。
しかし少女は、この違和感をあえて飲み込む。
この少年は、第五階層でもかなり地位が高く、また実務の実績もちゃんとある人物のはず。
そんな彼が、こんな動画を出してきているということは…きっとそこには重大な意味があるはずなのだ!
悩んだ少女は、またもとっさの錬成(ブリコラージュ)にて、この場に最も適した解凍をひねり出すことにした。
たぶん、これが一番正しいはず…!
「“量産型ちびシューラロボ”…ここまで設計が完成していたのですか!
なるほど、児童虐待を防ぐために児童そのものを大量生産して、その値崩れを狙うとは…さすがは機械女王ですね。
人工臓器の件やグレンデルヒ事件の量産型の話は知っていましたが、まさかここまでの対策を練っているとは予想外でした。
これにはボクも、感心せざるを得ません。
早速、参考にすることにします。
次のライブから、児童型の触手分身を使ってバックダンサーをやってみることにしますよ」
「違います」
「あれ?」
どうやら、また間違えてしまったらしい。
解釈を失敗してしまったため、あわてる少女。
しかし、少年はそれをとがめない。
彼は、静かに黒板を指差した。
見せたかった光景には、まだ続きがあるのだと、その静謐な指先は語っていたのだ。