幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第88話(72の終わり直前まで)

 

黒板を改めて見ると、そこにあるのは遊具、喫茶店や図書館といった施設の数々だった。

 

それはときに階段に組み込まれ、洞窟のような穴や巨大なエレベーターに載った店舗であり、またときに大掛かりなエスカレーターを利用した、回転コンベア式の寿司ショップだったりもした。

 

多くのヒトが集い、遊び、何より自在に昇り降りしたり休息するそこは…更には他の階段への観光や移住に出かけるソレは……

もはや、これまでの、ただ頂点を目指すためだけの階段ではなかった。

 

そこには、人々の暮らしが、生活があった。

競争の場は、破壊と再生を経て、立派な町に生まれ変わっていたのだ。

 

そう、遊んでいた子どもたちは、間に合わせの量産型メカでもないし、ましてや観光客などでは決してない。

 

それに気づいた少女は、思わずその発想を声に出していた。

 

「まさか…この第五階層を、子どもが普通に生まれ育つ街にしようというのですか!?

それも、『上下』の対立から離れた平和な中立地帯にすると!?」

「はい。

その通りです」

 

それはあまりにも大それた、『現実』を無視したような、壮大な『理想』(ユメ)だった。

 

驚愕のあまり絶句する彼女を前に、少年は語りかける。

 

「貴女は要するに、新しい秩序が、変化が怖いのではないですか?

でも、安心してください。

変化は、必ずしも不幸を招くとは限りません。

徹底的な破壊と再生が、物事をより良く再構成することだってあるのです。

それに変化は、あらゆる生き物と世界の常なる姿です。

こちらから飛び込んでいけば、それは案外怖くはないものなのですよ」

 

そう微笑む少年は、とても可愛かった。

黄金色の猫耳という見慣れない部位も、まるで王者を飾る冠のように、それを良く引き立てている。

 

その瞳には輝く希望があり、その笑顔は太陽のようにまぶしい。

 

信念、誠実、愛情、そして勇気。

それらの美徳は、少年に圧倒的な可愛さを与え、それは津波のような抗えぬ暴力となって、少女を容赦なく打ちのめした。

 

ハイレベルなマジカルアピールの直撃を受けたかのような衝撃。

少女は、知らないうちに膝をついていた。

 

けれど…

 

けれど、彼女の口からもれ出した返答は、その姿勢のように地を這(は)っていた。

 

「そうかも…しれません。

変化が避けられないことも、第五階層が外部から切り離された孤島ではないことも、頭では分かっているのです。

変化と刺激(エンターテイメント)が、アイドル迷宮に欠かせないものだということも。

けれど。どうしても自信が持てないのです。

自分の特技が、変化する新しい世界で通用するか分かりません。

心がついていかないのです」

 

そこで、少女はいったん言葉を止めた。

口調が変わる

そこからの彼女の話には、これまでの絶望に加えて諦観が色濃く混じっていた。

 

「『歌姫』Spearには絶対に敵わない……

彼女と、ボクら素人あがりの地下アイドルの間には、何か…圧倒的な壁があるように思えて仕方がないのです。

もちろん、どれだけ高い能力値(ステータス)を持つ相手であろうと、やりようによっては逆転の機運(チャンス)いくらでもありますーーそれが、彼女のような以外であったのなら。

けれど、駄目なのです

ボクらでは、到底彼女には太刀打ち出来ない。

ボクでは、彼女のいる戦場(ステージ)で生き抜くことは、絶対に不可能なのです…」

 

「僕には、アイドルのことは分かりませんが…」

 

少年は、床でうなだれる少女に手を差し伸べる。

そして彼は、椅子(イス)をすすめながら、問いかけた。

 

「彼女は、『歌姫』はそんなに他のアイドルと違うのですか?」

 

「ええ、違うのです」

 

少女は微笑みを返そうとしたが、それはあまりに力無く、ぎこちないものであった。

 

彼女は、語る。

 

「『歌姫』は、まず、個々のアイドル資本(ステータス)が圧倒的に高いです。

何人もの魔将を相手取って圧勝出来るような、まさに神がかった呪術の実力。

一部を除いて高い結束を保ち、高いアイドルポテンシャルを持つ彼女の仲間たち/『黒百合』(チョコレートリリー)

あえてMCを廃して歌だけに特化することで、『完璧な上位者』を演じきるセルフプロデュース力。

優れた師、高名な血統、果てはこんな最前線の戦場(だいごかいそう)にまで足を運ぶことすら考える、行動範囲の広さ!

しかし、彼女の最大の武器は、そんなものではありません。

多少の差はあれどそんな長所なら、迷宮の地下アイドルでも持っています」

 

「では、その最大の武器とはなんなのですか?」

 

「彼女は、『歌姫』は、クロウサーを始めとした『上』の全面的なバックアップを受けています。

もちろん、彼女の成功の図面、『呪文』(もじ)通りのサクセス・ストーリーは、あの英雄アズーリアが描くでしょう。

その時点で、歌姫の『一番』は約束されたも同じことです。

『守護の九槍』でさえ、彼女の物語(ブック)には勝てませんでした…」

 

「つまり、スポンサーの差、後援(バックアップ)や政治的な呪力の差が問題なのですか?

それなら…」

 

優しく語りかける少年の言葉を、少女は手を上げて遮(さえぎ)った。

その表情からは、これまでの余裕が抜け落ちている。

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