幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第89話(72~73の途中まで)

「いいえ、それもまた“前提条件”に過ぎません。

『地上』の『呪文』(ブック)は確かに強力ですが、それならそれで、対立している『地下』や『上』内部の派閥争いを利用すれば、まだ勝ち筋もあります。

現に、『上』の『九英雄』には、『黄金』級と呼ばれる人物が何人もいましたが、皆、大魔将の前に倒れていきました…」

 

「それでは?」

 

「ボクが最も認める『歌姫』の素養…それは、運命をも乗りこなす力です。

いっそ“器”と呼んでも良いでしょう。

彼女は、世界を左右する権力闘争(パワー・ゲーム)の暴虐的な『呪文』(ヒストリー)を、その“荒波”をも乗りこなす“器量”があるのです」

 

そう言って少女が黒板を指差すと、そこに新たな変化が現れた。

 

それは、災厄だった。

巨大な津波が、どこからともなく現れたのだ。

災厄は、突然襲いかかり、全てを押し流していく。

 

とはいえその災厄も、別に唐突に発生したわけではない。

よく見れば、その正体は一目瞭然だった。

 

波は、多くのヒトから出来ていた。

それは、弱いヒトビトだった。

何かを失い苦しむヒト、他人のモノや場所を独り占めしようとするヒト、ただ感情のぶつけどころを求めるヒトなどが、群れを成して暴徒の一群を形成していたのだ。

 

もはや、その前では楽しかった階段の街も一巻の終わりかと思われた。

 

だがしかし、そうはならなかった。

その暴虐を阻む者が、現れたのだ。

 

それは八人の少女たち。

そして、その中でも一際光り輝く一人のアイドルであった。

彼女の耳は左右で異なり、それだけでも飛び抜けて強大な呪力の持ち主であることが分かる。

 

しかし、いかに優れたアイドルであろうと、あの災厄を押し止めることが出来るのか?

そう、疑問を抱く向きもあるかもしれない。

 

大丈夫、彼女ならば問題無い。

なぜなら彼女は、ーー『歌姫』は、その災厄を、遥かに超える暴力を従えているからだ。

 

彼女には、誰より頼りにしている護り手が存在するのである。

今まさに、勇壮な鎧をまとい、雄々しい枝角を誇る騎士が、彼女を護らんと飛び出したところだ。

 

そして騎士は、ためらうことなく、津波の前に立ちはだかる!

 

そしてもちろん、『歌姫』本人が、何もしないでただそれを眺(なが)めているわけもない。

 

騎士が津波を押しとどめ、仲間が空を飛び、コウモリや猫で暴徒を撹乱(かくらん)している間に、彼女は自分の仕事を終えていた。

 

『歌姫』の仕事とは何かーーそれこそ、まさに語るまでもない話だ。

 

彼女の歌は、津波を鎮め、

仲間たちに更なる力を与え、

更には不可思議な三叉の槍となって、その手に握られた。

それは、斧と槍、相反する意味を併せ持つ最強の武具だった。

 

加えて、『歌姫』の、そして彼女の騎士の働きは、それに留まることが無い。

 

その時、歌でも鎮めきれなかった暴徒の群れは、まだまだ多かった。

その“津波”は、いかなる階段より高く、まるで巨大な触手のようだ。

だが、触手の専門家(スペシャリスト)は、他にいる。

 

荒れ狂う津波は、確かに強大だった。

 

だが、『歌姫』の騎士は…その津波より遥かに大きく強かったのだ。

正確に言うと、たった今、大きくなっていた。

 

騎士は、『歌姫』の呪文を吸収してとてつもない大きさに巨大化したのだ。

その大きさ、推定される呪力量、いずれも津波の暴徒を大きく上回る。

 

しかも、まだそれで終わりではなかった。

 

『歌姫』の出番はまだこれからなのだ。

彼女は、勇ましく槍を振りかざすと…なんと、自分の騎士に飛び乗ったのだ!

 

その下を、かなり遅れた※これは念写動画(イメージえいぞう)です※、という注意書きが流れたが…そんなことはお構いなし。

 

『歌姫』は、自在に騎士の上を滑走(サーフィン)し、槍をもって切り払い…瞬(またた)く間に、津波を平らげたのであった。

 

そして、黒板の上に大きく文字が現れ、終幕が告げられる。

 

これこそが『歌姫』

『地上』にその人と知られる絶対無敵、最強偶像(アイドル)の姿であった。

 

 

 

激動の展開が演じられた動画を前に、全てが動きを止めていた。

そして、少女と少年の名前しか流れないエンドロールが流れ、動画が終わった後も…二人は動くことがなかった。

 

静謐が、その場を満たした。

 

どちらも言葉を見つけられない、空白の時間。

それを破ったのは、またも少年の方であった。

 

「貴女は、自ら輝きたいと思うのですよね?」

また、唐突な質問。

 

突然方向性が変わった質問に、目を白黒させながらも、少女は答える。

 

「え?は、はい。ボクは…アイドルになりたかったんです。

それが、許されることなのかは分かりませんが、ボクはアイドル迷宮で生きていきたい。

迷宮の外や“新しい時代”というのは、あまりに予想がつかなさ過ぎて…過酷に思えて、恐ろしいのです」

 

あまりに不甲斐ない返答しか出来ないことを恥じて、少女は、所在なげに、その瞳を窓の外にさまよわせた。

そこには、水晶玉のようにうつろな影が映(うつ)りこんでいる。

 

それは、外の柔らかな春の光景の反射ーーではなかった。

 

 

そこに、地獄があった。

 

 

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