幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第90話(73~74の途中まで)

あるいはそれは、天獄なのかもしれない。

 

そこでは、二人の強大な存在が争っていた。

どうやら、どちらも女のようだが、その動きや扱っている業(ワザ)はあまりに強力すぎた。

どちらも、尋常な人類(ロマンカインド)ではないことが一目で分かる。

 

二人の女は、強大な呪力をまとい、互いに武器を持って殺し合っている。

 

しかも、その外見が実に異様であった。

二人は、共に学生服を身にまとっていたのだ。

 

そのこと自体は、現在のアイドル迷宮では珍しくない。

女装王子と男装執事メイドがしのぎを削る現状では、学生服程度は基本のワードローブに過ぎない。

 

それにそもそも、元『アマランサス・サナトロジー』メンバーのように、元から学生服のような衣装で有名なグループもある。

 

だが、このコーディネートは…なんというか、破壊的にミスマッチだった。

 

学生服を身にまとっていたのは、いずれ劣らぬ成熟した美女だったのだ。

いわゆるひとつの『熟女』というヤツである。

 

しかも、先述したように、両者は共に武装している。

それがまた、実に奇妙な武器であった。

最初に出てきた『銃』は、忌まわしいながらもまあ良いとしよう。

一度に多数の弾を放つ、その凶悪な反動に射手が耐えていることも…それが超常の存在であるなら、呑み込めなくもない。

 

だが、次に出てきたのは…これは、なんなのだろうか?

 

宙を自在に飛び回り、刃を以(も)って切り裂いてはいるが、アレはどう見ても女性用の装身具である。

確かに、呪術武具の中には、そうした暗器もあるにはあるが……

 

しかし、小さな星はともかく、ハートを大量に飛ばす宝飾品は、果たして暗器に含めてよいものなのだろうか…?

 

そして、それに対抗している、糸の先で回転している器具はなんだろう?

 

自在に宙を舞って、恐るべき幻獣『猫』の幻影を顕(あらわ)し、あるいは星座のごとき形を作って『竜』を表現している、あの小さな円盤は?

 

二人の『熟女』は、共に似合わぬ学生服を身にまとい、子供向けの玩具を用いて殺しあっている。

 

成熟した肢体に、若さを強調する服装。

愉快な玩具で、殺伐とした殺しあい。

 

それは、激辛料理に蜂蜜(ハチミツ)をかけたかのような、長所同士を完全に殺し尽くす最低最悪のコラボレーションであった。

 

壮絶なるミスマッチ。

 

地獄、あるいは天獄。

直接見たことが無いという意味で、少女にはどちらでも変わらない。

 

それは、まぎれもなく…悪夢であった。

 

少女は、あまりの嫌悪感に、思わず目を強くつむった。

 

まるで、そうすれば目蓋(まぶた)の外にあるモノたちが、残らず消えてしまうと信じているかのように。

 

するとどうだろう。

 

窓からの暖かな風が、彼女の頬(ほほ)を撫でる。

 

気づけば、悪夢の気配は去り、少女はまた穏やかな春に包まれていた。

 

そこは、光に満ちた学び舎の一室。

闇などは、文字通り影も形も無い。

 

陰一つすら許されない聖域は、画像でしか見たことがない一流ホテルのスイートのように、安全と快適を約束していた。

 

だがそれでも、少女は、恐怖に身を震わせる。

悪夢が消え去った真昼の教室で、彼女は消え去った夜の気配に怯(おび)え続けていた。

 

そんなとき、柔らかな声がかけられた。

 

「アレは、貴女が置き去りにしてきたものではありませんか?」

 

振り向けば、少年はこれまでと変わらぬ微笑みを向けてくれている。

 

少女は、気を取り直した。

 

「そう…かもしれません

見たくないもの、何よりも怖いもの

そして…邪悪で醜いもの。

ボクは…ボクは、アレらが怖くて、そして嫌いです。

世界中の何よりも」

 

「では、貴女が見たものが何だったか、お分かりになりますか?

…答えることに、耐えられそうですか?」

 

奇妙な質問。

少女はそれに、しばらく視線をさまよわせていたが…やがて、また少し窓の方に目線をやると、観念したように目を閉じた。

 

そして、次に彼女が目を見開いたとき、その答えも、同時に一息で吐き出された。

 

「それは、ボクです…」

 

ためらいがちに、しかしどこか断固とした決意と共に、その続きは血を吐くように語られる。

 

「ボクが本当に恐れていたのは、無限に襲いかかってくる悪夢の狩人でも、クロウサーなどの大組織でも、ましてや歌姫ほどの実力がないことでもありません。

そうじゃ、なかったのです…」

 

「では?」

 

少年の優しい声の促(うなが)しに、少女は応える。

応えざるを、得ない。

 

「ボクはアレら…いや彼女たちと同じなんです。

同じ、だったのです…

ボクは長い間…物心ついてからずっと、策略と陰謀に明け暮れていました。

ヒトの足を引っ張り、自分の利益になるように操って…他のアイドルの邪魔ばかりをしてきたのです。

確実に勝つために」

 

「そうして、貴女は勝てたのですか?」

 

少年の追及は、優しくありながらも酷(ひど)く残酷だ。

 

その声を聞けば、彼の心根が真っ直ぐで、その言葉には何の悪意も込められていないことは、すぐに分かる。

けれど、それだけに彼が投げかける問いは、少女に言いようのない苦痛を与えていた。

 

それは、彼のせいでは絶対にない。

その原因は、間違いなく少女にあった。

 

彼から感じられる、彼の持つあまたの美徳が、絶対の比較基準(ものさし)となって少女を傷つけるのだ。

 

少年のその真っ直ぐさ、誠実さ、そして優しさ。

 

それらは、少女とは正反対のーー彼女が全く持っていないものであり、美しい心から放たれる、真実の美であった。

 

少女はきっと、生まれる前から知っていた。

それが、自分の天敵であることを。

 

一度も肉眼で見たことがなくても、太陽の前に全ての闇が駆逐されることを知っているように、少女は絶対に少年には勝てないのだ。

 

嘘が真実に、醜さが美に、メッキが真なる黄金に敵(かな)うはずがない。

 

真実の美、可愛さの暴力、そしてーーあらゆるヒトビトからの無償の愛を受ける資格。

 

少女がその半生を賭(と)して求め続けたものを、少年は、きっと生まれたときから当たり前に持っていた。

まるで、そうあることが世界の真理であるかのように。

 

けれど、それでも少女は、彼の問いに答え続けた。

 

そうすることが正しいと思ったから…いや、違う。

率直に、心のままに答えること、誠実に語ることこそが、本当に自分がやりたいことだと、そう心から思ったからだ。

 

 

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