幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第91話(74~75の途中まで)

「…いいえ、勝てませんでした

シナモリアキラにも、『空組』にも、結局は勝てなかったのです。

『一番』になるために、あらゆる手段を用いることが正しいと信じて…策略をこらして…それでも結局は、相手に上回られてしまいました」

 

確かに、何回かは勝てたこともあった。

 

だが、やがて負けた相手はより強くなって戻ってくる。

自らの弱点を見つめ直して強さに変え、破れた結束を縫(ぬ)い直してより強固なユニットとなり、彼女たちは復活してきた。

 

言ってみれば、アイドルは、舞台(ステージ)の上で転生するのだ。

 

アイドルという概念は、努力と成功、そして何より失敗と挫折を伴(ともな)って生まれてきた。

 

致命的と思われるミスや、メンバーの脱退、スキャンダルを抱えたにも関わらず、のちに大成功を遂げたアイドルなどは、枚挙に暇(いとま)がない。

 

そんな彼女たちが、失敗を乗り越える力を持つのは、むしろ当然のことと言えよう。

 

結局、少女の妨害は、彼女たちという槍の刃を鍛えるために、必要だった槌の一撃に過ぎなかったのかもしれない。

 

真に鋭い槍が、猛火と冷水をくぐり抜けて初めて誕生するように…真のアイドルもまた、激しい困難を試練に変えて己を磨き上げるのだ。

 

つまり、少女が他のアイドルを妨害するためにやったことは…足を引っ張ったことは結局は……

 

そうして、堂々巡りになりそうになった思考は、静かな声によってまた柔らかく断ち切られた。

 

「では、それでも貴女は、負けたときと同じやり方をするのですか?

それとも、これからはもう止めるのですか?」

 

「それは…」

 

言い淀む少女。

 

そんな彼女に対して、少年は、間髪入れずに新たな質問を繰り出してきた。

 

「貴女にとって、アイドルとは何ですか?」

 

そして更に続けて、

 

「なぜアイドルになりたいのか…貴女は

答えられますか?

…言葉にしたいと、思いますか?」

 

少年の声は、優しくも澄んでいる。

それは、地中深くから湧き出し、滝となってなだれ落ちる冷水を思わせた。

何よりも純粋な水は、何よりも清く、それゆえに厳しくもある存在なのだ。

 

それでも、その問いから逃げること自体は、赤子の手をひねるより容易だった。

 

なぜならここは、どこよりも安全な太陽の教室なのだから。

 

ほら、少女がほんの少し沈黙し、思いをあたりにさまよわせるだけで…全ては、おだやかな日差しの中に溶けていきそうになる。

 

ならば……

 

いいや、それでは駄目た。

ここで答えなければ!

 

少女は、意を決して話を再開した。

 

「ボクは…嫉妬していました。

そして辛かった!

悔しかった!

いつもいつも、後悔と反省の繰り返しでした。

どうして勝てなかった!

どうして、もっともっと努力をしなかったのかと!

そして何より、恐れていました…

いつの日にか、壮大な物語(じゅもん)を紡げる、公的な、外部(ソト)の権力者たちに糾弾(きゅうだん)されることを。

ボクはアイドルなんかじゃないと、ただ自分の記憶を消して逃げているだけの犯罪者に過ぎないと、そう指摘されることが!

ボクは…自分の化けの皮(メッキ)を剥(は)がされてしまうことが、何より怖かったのです!」

 

こうして、美しいひとの前で自身の恥部を語ることは辛かった。

だが、それよりもなお、彼の前で本音をごまかすのも嫌だったのだ。

 

本当は、彼にはこんなことを知られたくはなかった。

 

けれど、話さなければならない。

それが、醜い自分が、少しでも美しいものに近づくために出来る、唯一のことなのだから。

 

だから、彼女は語り続けた。

 

「気づけばボク自身、自分でついた嘘を信じ込んでいました。

気付きたくはなかったのです…

恐ろしい策略家にして努力家の地下アイドル・ラリスキャニア!

その実態が…ただの臆病なアイドルオタクに過ぎないなんて」

 

蔑(さげす)むような言葉を否定しようと、少年の手が延びる。

 

けれど少女は、その手を優しく抑えてかぶりを振った。

 

それは、まずは自分に心ゆくまで話させて欲しいと、そうした意味の身振り(サイン)だった。

 

「他のアイドル(みんな)には、物語があります!

背景、文脈、世界観、そして師弟や親子の継承、温かく後援(バックアップ)してくれる共同体。

それらに縁がない出自の者さえ、故郷や肉親への反骨精神や上昇欲求は持ち合わせているのです。

彼女たちには、確かにある。

自分を定義し、世界に結びつけるはっきりとしたものが!

それに比べて…ボクには、迷宮に突然現れただけのボクには、何も無いんです…」

 

少女は、目に涙を浮かべて教室の隅(すみ)を見つめた。

カーテンの陰、光に満ちた教室の端の机。その上に、今にも枯れそうな小さな黒い花が、置かれていた。

 

それを見つめながら、彼女はなおも語った。

 

初めて自分が自分であることを自覚したときの驚きと恐怖を、また初めてアイドルの舞台を観たときに得た、それ以上の驚愕(きょうがく)と感激を。

 

そして、やがて気づいたことを。

 

華麗なショウの裏側には、己の存在価値を賭けた、アイドルたちの激しい裏工作や表に出ないさまざまな戦いや駆け引きがあったのだ。

 

少女は語った。

迷宮の奥地に騙されて迷い込み、ねじくれた角が恐ろしい冷凍ミイラの牛怪物を、なんとか触手を使った囮と視界外からの攻撃で倒し…もう二度と実戦には参加すまい、と決意したあの日のことを。

 

ひたすら基本のステップを、磨き続けた日々のことを。

 

変身させた触手を、同時に複数のレッスン場とバイト先に派遣し、技術(スキル)の熟練度と資金を稼ごうとしていた試みのことを……

 

一度語り始めると、止められなかった。

 

少女は、決壊したダムのようにとめどなく語り続けた。

まるで、沈黙を恐れているかのように。

 

だから、その爆流の如(ごと)き言葉を抑えられたとき、それに一番満たされたのは、あるいは彼女の方だったのかもしれない。

 

少なくとも、少年が次に投げかけた問いを受けたとき、彼女の顔には驚愕と共に、どこか達観したような安心した表情があった。

 

 

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