幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第93話(76~77の途中まで)

そもそも、彼のような若さ、いっそ“幼さ”でこれほど理想的な受け答えが出来ることも…よく見直せば、それ自体、一種の“異様さ”に思えてくる。

 

少女は、演技と嘘の専門家である。

だからこそ、分かった。

 

少年には、嘘が無い。

全く、一欠片も、綺麗さっぱり存在しないのだ。

 

それでいて彼は、彼女の、そして第五階層の多くのヒトビトの望みに完璧に応えている。

その全員の都合の良いように、完璧に振る舞ってみせているのだ。

 

少女には、アイドルとしての経験(じんせい)を賭けて断言出来た。

 

この世の誰も、そんなふうには振る舞えない。

振る舞えるわけがないのだ。

 

もし、それが出来るのだとしたら……

 

完全に、他人の望むように振る舞えるモノが いるのだとしたら……それは、絶対に人間ではない。

 

この少年は、いっそ悪魔(カミ)的なまでに“人間離れ”しているのだ。

 

少女はとっさに飛び退(の)き、身構えようとして…それを取り止めた。

敵(かな)わないとか技が通じそうにないとか、そういうことではない。

 

そんな振る舞いは、アイドルが取るべき動作では絶対にない。

 

今の彼女でも、そのことだけは、確信することが出来たからだ。

 

身体には震えが走っているが、それも無視する。

 

深呼吸。

目を閉じ、静かな闇を思い浮かべ、心身を制御する。

 

たとえ彼の正体がなんであろうと…それでも彼が、自分のことを思いやり、温かな対応を示してくれたことには変わりがない。

 

なら、それに応えなければ!

“影”を担うことがこの少年には出来ないというのなら、それを自分がやれば良いだけのことだ。

なぜならアイドルとはーー

 

「アイドルとは、ファンが出来ない理想(ユメ)を代行する者なのだと思います。

厳しい環境(ステージ)に挑み、美しく輝いて魅せるモノなのだと」

 

果たして、今の自分がそれを出来ているかは、心ともない。

しかし…それでも…

それでも彼女は、胸を張って答える。

 

「だからやっぱり、ボクはアイドルになりたいのです。

いいえ、なろうと思います。

他にどれだけ向いている道があっても、今のボクにはそんなものは関係ありません」

 

「それは…アイドルの夢を追うことが、貴女の自己同一性(アイデンティティ)だからですか?

貴女は、今までの自分を守るために、これまでと同じ道を歩まねばならないのですか?」

 

その問いに、少女は、はにかんだ笑みを浮かべて答える。

 

「いいえ、ボクが、なりたいからです。

所詮(しょせん)ボクは、たまたま『本体』と定義されて使われただけの道具。一度制御を奪われた、ラリスキャニアの変身触手の一つに過ぎませんが…」

 

「気づいて、いたのですね…」

 

悲しげな彼に対し、それでも代替品は、にこやかに微笑(ほほえ)みかけた。

 

彼女は語った。

 

「ボクは、確かにラリスキャニアの偽物かもしれません。

その記憶はただの複写(コピー)で、その意志も操られたものか、あるいはただの過去の残滓(ざんし)に過ぎず、結局は、アストラル体が無い『哲学的ゾンビ』や伝説の『純正二次元人』にも劣るような海賊版(デッドコピー)…ある地下アイドルの影法師でしかないのかもしれません。

けれどボクは、それでも『ラリスキャニア』なのです。

ボクは、彼女の弱い部分、他人に頼りたがる性質、それに秘め隠された、勝利にこだわらないアイドルへの憧(あこが)れの心情なのですから。

影と光、幻と実体は、常に表裏一体なのです。

そして、『ラリスキャニア』はアイドルです。

アイドルは、アイドルとして振る舞わなければなりません。

たとえこの世界が出来たのが五分前でしかなくとも、ボクが出来の悪い偽物であろうと、それは変わらないこと…言わば宿命(フェイト)なのです」

 

「それは…その願いを貴女は『本物』だと信じるのですか?」

 

少年の問いかけに、かつて『本体』と呼ばれた少女は首を振った。

 

「そんなことは、どちらでも良いことです。

けれど、あえて言うなら…」

 

「あえて言うなら?」

 

「待っているから、待たれているなら、それは確実に『本物』なのですよ。

いいえ、ボクが、『本物』にしてみせます」

 

それを聞いて、少年はパッと顔を明るくさせた。

 

「ようやく分かりました!

貴女は、ファンのためにアイドルでありたいのですね!」

 

「はい、その通りです。

それにーー」

 

少女はうなずき、続けて語った。

「それにもちろん、ボク自身もボクのファンですから。

いや、それも少し違いますね。

ボクは、ボク自身のファンになりたいからこそ、アイドルになりたいのです」

 

「なるほど…それが貴女の自分の愛し方、自己承認の在り方(アイデンティティ)なのですね」

 

「はい!」

 

そして彼女は、満面の笑みと共に語る。

 

「だから、ボクはアイドルをやり続け、アイドルになろうと常に挑戦し続けます。

そして、そうして居続ける限り、挑戦をやめない限り…ボクはきっと、いつまでもアイドルでいられるのだと思うのです。

静止した滝や空気を伝わらない音が存在しないように、鳥や蝶が羽ばたき続けるからこそ自分自身であるように…」

 

そこで彼女は、一際(ひときわ)大きな声で言い切った。

 

「アイドルは、アイドルを目指し続けるからアイドルなのだと、ボクはそう信じるのです!」

 

 

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