幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
続けて彼女は、元気よく語りかける。
「ボクは大丈夫です。
問題ありません!
たとえ、第五階層に押し寄せる荒波に耐えられなくなったとしても、それならそれで代わりを見つけます。
そう、配信でもなんでも、いくらでも新しい舞台を見つければ良いのです!」
「それは、貴女もこのアイドル迷宮を去るおつもりですか?」
少年は、密(ひそ)かに震えていた少女の手を握り、その瞳を覗(のぞ)きこみながら、問いかけた。
それに対し、少女は…地下アイドル『ラリスキャニア』は、はっきりと答えた。
「はい。
外の世界はまだ怖いですが…ボクは、自分という名もなき花を大切に守り、育てていこうと思います」
そう言い切りながらも、まだ震えが止まらない彼女に、優しい言葉が投げかけられる。
「大丈夫です。
たとえこれからどれだけ変わるとしても、あるいは、運命の大波に揺さぶられたとしても…
アイドル迷宮は、そして第五階層で生きる人々は、きっと貴女のことを受け入れてくれますよ。
だって、みんな貴女と変わらない、居場所や夢を追い求めているヒトばかりですから。
アキラさんたちや、『空組』もそうだったように」
その言葉に、何か思い当たるところがあったのか、地下アイドルは、両目を大きく見開いた。
「…そうでした!
ボクは、殺されるどころか、キズひとつつけられていません…!
聖姫ニアにも、リーナ・ゾラ・クロウサーにも…!
彼女たちには、ボクを即座に殺したり拷問する理由も権利も、どちらも確かにあったはずなのに…」
前世で要人の公開殺人を行っていた地下アイドルは、興奮のあまり早口でまくし立てた。
「たとえば、疼巻羽(うずまきばね)クルミ ーーミヒトネッセなどは、一度はリーナに処刑されかけています。
それを考えれば、前世の所業がアストラルネットで全世界に公開されたボクも、あっさりと殺されていても、全くおかしくありませんでした。
なのに…」
少女は、己が得た情報をもとに、現状の違和感をひとつひとつ確かめていく。
そう、そこには確かに希望がらまだ残されていたのだ……
そこへ、少年は提案する。
「それに、貴女がアイドルとして生き延びる手段は、まだ十分にあります」
「本当ですか!?」
「ええ、こうすれば良いのです」
そう言って少年は、再び黒板を指差した。
すると、黒板が輝き出した。
そこに新たな動きが生じたのだ。
一度、完璧な完結(ハッピーエンド)を迎えたはずのその画面に、新しい光が灯る。
そこに映っていたのは、一見するとこれまでと変わらない光景のように見えた。
沢山(たくさん)の階段、そこに暮らすヒトビト、また沢山の笑顔、子供たち。
だが、今度の階段には、また違った趣向があったのだ。
少女は、それにいち早く気づく。
「あ、これは…!」
「お分かりになりますか?」
「はい!はい!」
少女は、興奮と共に答えた。
「これは、“ジャンルの階段”!
アイドルのジャンルを細分化した階段ですね!」
そう、そこには、それぞれのジャンルごとの、それぞれの“異なる頂点”を持つ階段が、無数に存在していたのだ。
ある階段からはヒトビトの大きく開けた口からたくさんの音符が流れ、また別の階段は、高低差のあるダンスフロアとなり、ひとつひとつの段ごとに、異なる文化、異なる動きを持った踊り手たちが、それぞれ異なる、でもどこか似通った喜びの感情を表現していた。
他にも、彫刻を掘り上げる階段、金属や木の部品を組み立てる階段、そこら中に絵を描きまくるだけでなく、ついにお互いの顔にまで絵の具を塗りたくっている階段まであった。
そこでは全ての階段に楽しさがあり、全てのヒトビトに自らの能力を発揮する機会とそれを伸ばす場所、競い合い、高め合う仲間に、教えて教わる師と弟子がいた。
そして、どんなに能力が低く、技術が劣る者に対しても、他者からの承認や援助があったのだ。
更に、それだけではない。
本当に能力が劣るような者には、また別の機会(チャンス)があったのだ。
その正体は、今もせわしなく移動する小さな人影たちを見れば、一目瞭然(いちもくりょうぜん)であろう。
別の階段への移動である。
違う舞台(ステージ)に移れば、振る舞いも変わる。
転校生がいつも魅力的に見えるように、保健室や二人きりの喧嘩(けっとう)で、仲の悪いクラスメイトの関係性が変わるように、転校(てんせい)は全てを変え、新しい再起と復活をもたらす。
出直し、やり直す。
だけど、決して過去(キズ)を引きずらない。
それはまるで、挫折を乗り越える彼女たち(アイドル)のように。
それをもたらしているのは、何も純粋な善意や掟や法によるものではない。
その環境を形作るのは、たったひとつの単純(シンプル)なルールだった。
楽しく在りたい。
全ては、その律法(トーラー)のために存在し、それが全てを導いていた。
その映し出された世界は、ひとつの大きな遊戯盤(ゲームワールド)だったのだ。
「ええ、その通りです。
『歌姫』さんは、確かに素晴らしいアイドルですが、かと言ってあらゆる物事に長けているわけではありません。
歌で彼女に勝てないのなら、歌以外で勝負すれば良いのです。
そう言う戦い方もあるのですよ」