幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「で、弟子入りですか!?
そうか…そういえば、歌姫には、既に英雄という弟子がいましたね。
既に一人卒業生がいるのなら、入れ替わりで師事するのはそこまで難しくないかも…?
で、でも、たとえなんとかアポを取れても、あの『歌姫spear』相手に上手く交渉が出来るかどうか……
せめて、同じアイドルオタク同士でしたら、幾らでも話せるのですが」
職業柄アイドル研究ばかりしているボクも、いちおうアイドルオタクなので、と自嘲する少女。
そこで、少年は更なる声援を贈る。
「大丈夫、同じアイドル同士、きっと仲良くなれますよ!」
「そうでしょうか…いや、そうかもしれませんね!」
そして、気を取り直した少女は、最後に景気づけのため、元気に振る舞ってみせた。
「帰ったら、アストラルネットで『ハルなの。』さんと『歌姫spear最高!』さんに、さっそく相談してみます!」
「…そのお二人とは、お友達なのですか?」
「はい!『ハルなの。』さんは英雄アズーリアの熱狂的なファンで、『歌姫spear最高!』さんは、その名の通り歌姫の古参ファンです!
あ、『歌姫spear最高!』さんの方は、最近『チョコレートリリー』の箱推しになったとか。
お二人とはアイドル情報をリサーチしているときに知り合ったのですが、どちらもすごく推しの情報に詳しいのですよ!」
そこで少女は声を潜め、それがとても重要な情報であるかのようにささやいた。
「そしてなんと、どうもそのお二人は、英雄アズーリアの隊のメンバーらしいんです!
推しと一緒に働けるとは、なかなかすごい職場ですよね!
だから、お二人に聞けば、歌姫や英雄と仲良くなる方法もきっと分かります。
今までは、正体バレや相手の地雷を踏んでしまうことが怖くて、なかなか踏み込んだ話が出来ませんでしたが…今度は、勇気を出して仲介を頼んでみようと思います!」
「あー、ええ、それはとても良いことですね!」
「はい!」
それで問題は、ひとまず解決した。
気づけば、教室はすっかり暗くなっていた。
扉にだけ残照の光が残り、床を明るく照らし出している。
そして少女は、
「ありがとうございました!」
元気な声で別れを告げ、光り輝く扉へ向かって去っていった。
その扉の先には何があるのか?
少女は、そんなことずっと前から知っていた。
そこには、大切な人がいるのだ。
「やあ、ラリスキャニア」
「久しぶり、ラリスキャニア」
合わせ鏡のように、二人は向かいあう。
最少の量によって再現される、最大限の定義。
有限の無限。
二人の間に、余計な言葉はいらなかった。
二人はどちらも、同じ『ラリスキャニア』なのだから。
「さあ、行こう!」
「行こう!」
そして、どちらからともなく掛け声が発され、影のように重なり合う。
「「このアイドル業界に旋風を巻き起こすんだ!
二人で、いや“ボクたちみんなで”さ!」」
二人は同時に大きく手を開き、また握りしめる。
確かな何かをつかんだように手に力をこめ、二人の少女は決然と出て行った。
*
*
*
闇に沈みかける教室の中、少年は、何かに突き動かされるように未(いま)だに語り続けていた。
「貴女は、少しだけボクに似ていたのです。
唐突な出現、後から与えられた役割と自己同一性(アイデンティティ)
他人の期待に応えなければ、存在することすら許されない在り方……
いくら、必要とされるのが嬉しいことだと言っても…それはやっぱり、ちょっと悲しくて、寂しいことですよね…」
それは、ちょっとした独り言。
明かされても驚きを誘うこともなく、武器になって敵を討つこともなく、そしてもちろん世界を揺るがすことなんて有り得ない。
それは、そんな蛇足の裏設定だった。
そして、少年はなぜかとても悲しげだった。
彼の視線の先は先ほどの黒板に向けられている。
燃えている。
この上なく繁栄していたはずのその小世界は、闇の中、紅蓮の色を以(もっ)て染め上げられていた。
だが、少年の顔には、驚きが全く無い。
まるでそれが当たり前のことであるかのように。
彼が作る劇(ものがたり)は、全て悲劇になってしまうと、予(あらかじ)めそれを予知していたかのように。
ただ、黒板は、その全てが燃えているわけではなかった。
その四隅だけはまだ火が回っておらず、たとえば、義手の人影はわずかに燃え残っていた。
少年は、人影を強く見つめる。
まるでそれが、彼に残された、たったひとつの希望であるかのように。
「さあ、ボクもそろそろ帰るとしましょうか」
そして少年は小声で語り始め、それはやがて、歌となった。
それは、誰にも届かない、誰に聞かせるつもりもない小さな歌だった。
少年は独り、誰もいない夕暮れの教室で歌い続ける。
誰のためでもない、少年自身すら望んでいないかもしれない、そんな歌を。
少年はアイドルではない。
だから、これは聴衆(ファン)のために歌われる言霊(メッセージ)では有り得ない。
それは、あるいはもはや存在しない誰かに捧げられた歌。
重すぎる罪ゆえに、悔やむことすら許されない贖罪。
もしかしたらその歌は、本来なら歌うことすら誰にも許されないような…名前すら忘れられた誰かや“ 誰かたち”のため、もしくは永遠に失われた時間のための鎮魂歌(レクイエム)だったのかもしれない。
間違いなくその歌は、存在しないはずの場所、あり得ないはずの時間でしか歌えないもの。
結局、そんなものは、少年自身にすら届かないのかもしれない。
けれども、そしてそれでも……そんな推測など微塵も寄せ付けないように、少年はただ、歌い続けた。
誰も聞かず、誰も評価しない舞台(ステージ)の中、ただひたすらに歌ったのだ。
それはあるいは、絶対に叶わない片想いのための恋歌(ラブソング)だった。