幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「やめておけ。
そんなことが、いつまでも続くはずがない」
「アレに同意するのは腹立たしいですが、その通りです。
そのままだと、確実に破滅しますよ」
二人の忠告は、着ぐるみが握り続ける魔弾に向けられていた。
それは、火山の噴火口のごとき爆発的なエネルギーを破裂させんと、今か今かと待ち受けていたのだ。
「ほら」
「言わんことではない」
そして、二人の予言は即座に成就される。
魔弾から強烈な圧力が放たれ、怪人物の身体を襲ったのだ!
次の瞬間、安っぽい蛇皮が吹き飛び、人影は光に包まれた。
哀れ、着ぐるみ怪人は木っ端微塵となった…かに思われたが……
爆音と閃光、それらが生み出した空白を、高らかな声が切り裂いた。
「輾転反側(てんてんはんそく)
行ったり来たり!
昼夜を迷って悩んでも!
夢の階段、駆け上がる!
十二の影を引き連れて、地下アイドル、ここに見参!
アイドル好きな子、知らない子!
今日から君たちも、ラリスキャニアちゃんの子豚ちゃんだよー!」
新たな名乗りと共に、今度こそ疾風が二人の魔女の髪を揺らす。
圧力は弱いものの、これが真の【宣名】であることは疑いようがない。
爆発の残光をスポットライト代わりに、今、一人の地下アイドルが降り立った。
ラリスキャニアが、ここに再臨、いや再誕したのだ。
だから、まず言うべき言葉は、これしかない。
「ただいま!」
そう告げた彼女は、その手に大切な友人か家族のように魔弾を――いや、もはや呪力を失った一つの義眼を握りしめていた。
と、思いきや、握り締められたモノの姿が変わる。
それは、小さな鏡だった。
と、そう観えたのも束(つか)の間、それにはすぐに大量の亀裂が走り、瞬(またた)きの猶予(ゆうよ)もなく砕け散る。
少女の手から小さな光の爆発が広がり、先程の大爆発をなぞるように拡散していった。
「アレは、義眼の複写品(イミテーション)だったのですね」
少女は、状況を整理するかのように語り出した。
「幻覚呪術で欺瞞した鏡を対象に見せ、それを自分の一部と思い込ませることで、実際に、眼球の高精度な複写を成立させる…言わば、手品の『すり替え』(ミスディレクション)と似た技法ですか。
『杖』技術で義眼を作るのは、非常に困難なことで知られています。
しかも、強大な『邪視』を秘めたモノとなれば、数十人がかりか超高位の呪術師数名の協力が不可欠だったはず。
いくらラクルラール先生でも、通常は存在しないはずのそんな高度な呪具を、どうやって用意したのかは疑問でしたが……なるほど、実は実態が存在しない幻影、関係者の了解の中だけで成立していた小道具だったのですね。
これは、“眼”を奪われたことになったボク自身、そして、おそらく先生の手腕を良く知る“観客”の無意識的な協力があって、初めて成立する呪術的な“罠”(トリック)だったというわけですね。
流石はボクの先生と、ここは称賛を贈っておきましょうか」
そして、彼女は提案する。
「夢と現実、ちょうど二面に分かれていることですし、お二人とも、同時進行でボクと対バンライブしませんか?
その方が楽ですし」
「なっ!」
「なんだと!」
観客(オーディエンス)の反応は最悪だった。
けれど、その感情の揺れ動きにも、確かに価値はあった。
その時、まるで空間自体が動揺したかのように、夢世界全体に大きな波紋が走ったのだ。
そして波紋が映し出すのは…もちろん、水面だ。
波紋を経て鏡のように澄み渡った天が映し出すのは、吸血樹と化した女神触手に未(いま)だ囚われたままの…ラリスキャニアの姿であった。
地下アイドルの言葉の通り、彼女をめぐる争いは、二つの面にまたがって行われていたのだ。
当然のことながら、魔女二人は申し合わせたように異議を唱えた。
「世迷言を…!」
「私たち二人を相手に勝てるとでも?
…まあ、私はともかく、今ここにいるコレは見る影もなく弱っているようですが」
と、思いきや、
「フッ…笑わせてくれる。
弱り具合は、貴様も大して違いはあるまい。
いや、頭の弱りっぷりは、流石の私も負けるか。
何が“愛の巣”だ!
この寄生虫ゾンビ女が!」
「なんとでもお言いなさい。
羨(うらや)ましいでしょう。
貴女のような永遠独り身モデラーには、ひとりコツコツ遊びがいのないプラモデル相手に、一人おままごとでもしているのがお似合いですよ」
「プラモデルではなく、レジンキャストキットだ。
遊びがいが無いとは、いかにも脳が腐ったゾンビ女神らしい言い草だな。
所詮は死体。
与えられた遊び(ゲーム)をなぞることしか出来ないらしい」
「なんですって!」
「やるか?」
すぐにお互いの言い争いに移った。
どうやら、二人の魔女の興味は、基本的にお互いだけにしかないようだ。
大して有名でもない地下アイドルなど、はなから眼中にないのだろう。
とは言え、
「しかし、さっきのは何だ?
あの下手な演出は?」
「確かに、それは私も気になります。
あの魔弾に込められていた呪力は相当なもの。
ちょっとやそっとでは、打ち破れないはずです。
あの妙なきぐるみは、一体どこから持ち出してきたのですか?
そういえば、どこかで見たような気もしますが…」
それでも二人は、ラリスキャニアにも興味を示してきた。
否、そうせずにはいられないのだ。
なにしろ、彼女が今しがた打ち破った魔弾は、いわば二人の対決が相乗効果で生み出したモノ。
どちらもアレを独力では退(しりぞ)けることが出来なかった。
けれど、それにも関わらずラリスキャニアは、まさにその撃退を成し遂げたのだ。
二人より明らかに、力も知識も劣っているはずの彼女が。
ならば、魔女たちがその理由を知りたがるのは、むしろ当然のことと言えるだろう。
それは、己の敗因の究明であると同時に、宿敵への勝因の解明であるのだから。
四つの貪欲(どんよく)な眼(まなこ)がたった一人の少女に集中する…!