悪役を与えられた藤丸立香が聖杯戦争でオベロンを召喚する話   作:凛夏ナツ

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おしまい

 

 

 ──ゆるされよ、ゆるされよ。彼らの罪を、赦されよ。

 

 共にいることを願った少女。

 しあわせな彼女だけの物語をえらんだ一匹の虫。

 彼女のゆめは栄えるでしょう。

 

 ただ落ちる奈落 (あな)のなかで、永遠に、永遠に。

 

 かのじょは、本当に正しかったのでしょうか。自分を奈落のむしにたのんだ、さいごの選択は。

 

 奈落のむしは、本当に正しかったのでしょうか。かのじょをたべてしまうという、さいごの選択は。

 

 ならくのむしは、かんがえました。

 

 したいを あくよう されては きもちわるいので

 にんげんの しよくで いかされ つづけては はきけがするので

 

 ぺろりと ひとのみに おとします

 げんじつより せいさんな きおくをみせて

 えいえんの ゆめに おとすのです

 

 しあわせにねむる しょうじょに いわいあれ

 よりそいつづける ならくのむしに すくいあれ

 

 ゆるされよ、ゆるされよ。彼らが罪を、赦されよ。

 

 

 

 

 

エピローグ: 世界が陶酔(とうすい)するほどの大ウソをきみにあげよう

 

 

 

 やあ、ぼくの舞台はどうだったかい? 美しいエピローグだった? ゆめのようなハッピーエンドだった?

 もしそうであれば、これ以上に勝る喜びはないとも! ぼくも演じきった甲斐があるというものさ!

 

 どうかこの物語が、いつまでもきみの記憶に残りますように。

 

 ……あれ? もしかして気づいてない? 

 

 

 きみだよ。

 

 どうせぼくとマスターには自分の声なんか聴こえないと思ってぼんやりこっちを見てる、そこのきみさ。

 

 はは、そんなに驚いた顔しなくたって良いだろう? その席はぼくが用意したんだぜ?

 

 何せ、この奈落の底を覗き込める奴なんか、滅多にいない。せっかくやって来たお客さまなんだ。歓迎しないのも、もったいないだろう? ぼくはきみのこと、なかなか気に入っているんだけどなあ。

 

 ……お茶でも飲むかい? かじるものも、木の実とか、カルデアの携帯食料とかで良ければある。なあに、それくらいは用意するとも。

 

 え? 

 

 聖杯戦争を終えて無事生き残った藤丸立香は、幸せになった筈じゃないのか、だって? もちろんなったとも!

 ──あたたかな、永遠の夢の中で、ね。

 

 ……って、やだなあ嘘だよ。

 全部僕の作り話さ。妖精王オベロンは、夏の夜の夢みたいなものだからね! そんなコワイ顔しないでってば。

 

 どういうことか説明しろ? うーん、そうだなあ。ま、暇だしいっか。

 

 ……まったく、苦労したさ! 死に損なっても彼女のマスターであろうとする執念には。

押し潰されそうな重荷を喜んで背負い、死と隣り合わせの戦場へ飛び込んで行く。そうあれと定められた生き方を捨てられない。そうとしか生きられない。

 

 いい加減なウソなんて信じるものかって? うん、そうだろうとも。ひとつ、質問をしようか。

 

 ──なぜ僕に限らず、聖杯戦争で喚び出された英霊にカルデアの記憶があった? 

 

 アルトリアもそうだ。本来聖剣の騎士である彼女は、妖精國を旅した彼女とは別物のはずだ。なぜ一連の記憶が混在している?

 

 なぜアリスはケルヌンノスなんていう仮にも神の一柱を作り出せた? なぜケルヌンノスに飛び込んで、立香は無事だった?

 

 なぜ魔力の少ない立香は精神力だけで聖杯化を防いで、あまつさえ自力で魔術回路を潰すことができた?

 

 なぜ、なぜ、なぜ────

 

 

 全て夢さ。都合の良い、ゆめ。

 

 言ったじゃないか。吐き気がするって。彼女の口から『ゆめの狭間』なんて言葉が飛び出したときには、さすがに気づいたんじゃないかと思ったけどね。まったく、生来の勘の良さにはひやひやするよ。……ふふ、残念。立香ったら、せっかく惜しいところまで行ったのにねえ。

 

 ああ、ぼくが夢を見せてるワケじゃないさ。

 ぼくはただ、彼女の見るゆめを良い(わるい)方向へ誘ってみせただけ。少しだけ、幸福になるようにね。失意の庭も乗り越えた彼女だ。平穏な日々を植えつけるだけじゃ、じきに立香は違和感を覚えて目覚めてしまうだろう。だから、細工をしたんだ。『ちゃんと死線を乗り越えた』んだから、しばらくはこれで満足しているんじゃないかな。

 

 彼女が感じたことや、思ったこと。魂にこびりついたサーヴァントたちの怨念や執念が発露し、暴走したこと。あれは本物だ。ぼくもびっくりしたけれど、それはそれで都合がいい。嘘に少しだけ真実を混ぜるのが、一番バレないっていうだろう?

 

 ここまで大仕掛けな物語を組んだのは、夜のとばりを下ろすためだとも。本当に終わったと思わせて、ゆっくりしてもらわなくっちゃ。

 

 永遠に、永遠に。お姫さまにはずっと、眠っていて貰わないとね。

 

 

 紅茶のおかわりはいるかい? ふふ……そう、手ずから虫が淹れたものを飲み干すなんて、何処の世界線でもきみは変わらないなあ。

 

 『物語を組む』。

 オベロン・ヴォーティガーンは、『物語』が嫌いじゃなかったのか? ましてや『作る』なんて、って?

 はは、いいねえ! それでこそきみにふさわしい! ……ああほんと、反吐が出るよ。投げ出したくて仕方がなかったさ! クソみたいな原作者の真似をするなんてね。

 でも、得意じゃないゲームをやらされるのは慣れてるんだ。壊すためにはたくさんの欲望が必要だったブリテンに比べれば、まだマシな方だよ。ましてや今回は立香のため。ただ無意味に消費されるのではなく、明確な目的があって用意したものだ。反吐が出るほど悪辣な舞台を用意してやったつもりさ。ま、最後にはぶち壊しちゃったけどね。

 

 ……おっと失礼。汚い言葉を使ってしまった。

 妖精王に相応しくない口調では、話したくない。次から気をつけるから、今のは大目にみて。いいだろ、きみとぼくの仲だ。なんならここまでの話、すべてに謝罪しよう。きみがこの先の話をききたくないというのなら、ここまでの話は無かったことにする。

 

 大丈夫? ……そう。なら、続きを話そうか。

 

 転生、だっけ。生まれ変わるなんて、出来るわけが無いだろう?

 よく考えてごらんよ。ここは時間も流れることを忘れた、奈落の底だ。永遠に落ち続ける、無限の空洞。あの時消えかけた彼女の生命はこの場所で、今も死の淵に留まり続けているのだから。

 

 死にかけ続けている、といえば分かりやすいかい?

 

 あのまま彼女をカルデアの冷たい廊下に放り出していれば、遺された身体が良いように扱われるのは分かりきっていた。奈落に沈むより、消費されて貶められるほうがよっぽど許せないだろう? だからさあ、しょうがないから、彼女を容赦なく(すく)ってしまったよ。

 

 ──『マスターとしての最期のお願いなんだ、私を助けて(殺して)よ、オベロン』

 

 ──『……ああ、いいとも。俺が殺してあげるよ』

 

 あの日、確かに『助けてくれ(ころして)』と瀕死の立香に願われ、『良いだろう( いやだね)』と俺は答えた。そうして、奈落の底に呑み込んだ。

 

 え? そんなの死んだも同然じゃないかって? 

 

 だから(・・・)さ。死にかけの彼女にとっては『本当』になるだろう? そして、ぼくは彼女を呑み込んだだけ。殺しちゃいない。元より霊核に傷を抱えて落ちるぼくにとっては、最初から地獄にいるようなものだ。生きてようが死んでようが、なにも変わらないさ。なにも、ね。

 

 奈落の中で。

 藤丸立香の身体の時間は『前世で僕に死を願った時』から動いていない。死にもしないが、まぶたを開くことも叶わない。意識は永遠に、夢の狭間でさまよい続ける──

 

 どうだい? これが求めた物語の結末の裏側さ。すべて一夜の狂騒なれば、という前提で作られた、何の真実も持たない物語。心底吐き気がするけど、これで満足?

 

 ああ、気持ち悪いきもちわるい気持ち悪い。

 すべてがおぞましくて、吐き気がする。

 

 どうかなあ。これでぼくの話、信じてくれたかい? ……おや、難しい顔をしているね?

 

 ……はは、嘘だよ。

 きみが見ているのはただの夢さ。

 

 は?

 

 最後くらい本音を聞かせて?

 自分にはどこまでが夢と現実なのか区別がつかないけれど、きみが彼女を愛する想いは本当なんだね、だと?

 

 ……理解できない精神構造だな。

 二度と、俺たちを視るな。どこまで落ちても、終末は終末。物語の終わり。後は共に瞳を閉ざして傷を抱え、静かに深淵を漂うだけだ。

 

 じゃあね。どこか別の平行世界から、ぼくたちをながめに来たマスターさん。これにて、幕引きの物語はお仕舞いだ。ぼくの虫たちに送らせるよ。目覚めたときには何も覚えていないはずさ。

 

 これもまた、一夜の夢だからね。

 

 

 

 Fin.

 

 

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