とある風紀委員の憂鬱 〜Black or White〜 作:ジャンヌ
私立駒王学園。
元々は女子高だったのが諸々の事情により共学化、というラノベ的環境を整備した進学校だ。無論、女子の占める割合は男子のそれと比べ、圧倒的である。
で、先程"ラノベ"的、と述べたが、そんなとこにわざわざ通学しようとする男子何ぞ、余程の朴念仁か、家が近かったみたいな理由だとか、思春期をこじらせたやつとか。
「おい、イッセー!みろ、あの天より与えられし魅惑のバストを!」
「うっひょい!ああ、今日も生きてて良かったぜ!元浜、サイズを」
「まあ待て、ええと、右から86、92、68、むむ!!中央の爆乳は103!!」
「「うっひょいうっひょい!!」」
猿みたいな性欲の制御を知らぬ馬鹿だけである。
兵藤、松田、元浜。この学園でも突出した汚点であり、女性の天敵である。女性に手出しは今のところしていないものの、過激なAVやエロ本を平気で公衆の面前に晒し、淫語をわめき散らす、等、物理的被害の無さを補って余りある精神的恥辱、視姦を繰り返す。最早、女子生徒は三人の名を聞くだけで震え上がるまでになってしまった。
「しかし松田よ、よくこんな絶好のスポットを見つけたな」
「ふふ、舐めるなよ?あらゆる監視の目を潜り抜け、女の裸体を目に刻んだこの俺が、こんな抜群の立地を見逃すかよ」
「しっかし、ホントに誰にも見つからねぇなあ。サンキュー、松田!」
「よせやい、今は目の前の大義に全力を尽くすべき。そうだろう?」
「・・・ああ!」
現在の彼らは、お察しだろうが女子更衣室の覗きを敢行している。それも予め夜の内に学園に忍び込み、天板を外し、三人入るだけのスペースを確保するという、非常にまどろっこしいやり方で。幸い、更衣室が校舎の外の棟でバラックぽい造りだったのが幸いしてしまった。
「カメラ、準備を」
「おう、OKだ」
「頼むぜ、じゃあまずはあそこの娘から・・・」
どんなに下らない目的とはいえ、入念な下準備が結果に結び付くのは嬉しいことだろう。それより彼らは女子の恥部にしか歓喜を感じていないらしいが。
だが、彼らの緩みきったニヤケ顔は、次の瞬間に青く染まった。
「・・・失礼」
きっちり三回のノックの後、聞こえた声。その声に女性達は一斉に顔を赤くし身近の布を身に纏う。だが、それ以上に動揺しているのが、エロ猿三人組だった。
「おい、今の・・・」
「嘘だろ!?ヤツは今、Cルートを巡回中のはずだっ!」
「クソッ、こんな大胆な方法でくるなんて・・・」
だが、対策は万全。すぐに天板をはめ直した。一切の音も、違和感もなく。バレるはずがない。そう思いながら、耳をそばだてる。
『・・・せん、お邪魔しちゃって・・・』
『・・え、お・・・よね?なら・・・いするわ』
『・・・せ下さい』
声からして、敵と話していたのは二大お姉さまが一角、リアス・グレモリーか。彼女がこちらを気にした様子はなかった。大丈夫、問題ない。
『・・・では、離れていてください』
・・・心なしか声が近くなった気もするが、大丈夫、問題ない。
大丈夫、問題な・・・っ!?
ドゴォォォォォォン!!
馬鹿みたいな破砕音とともに蔓延する埃。女子達が、埃がかききえた後、見たものは。
「「「」」」
最早屍と貸した性犯罪者どもと。
「駆除、終わりました」
数多の黄色い称賛を受ける、白ランを着たイケメンが、竹刀を片手に、静かに笑みを浮かべ、佇んでいた。
***
四季悠希。駒王学園に通う男子生徒の中で、木場佑斗に並ぶ名声を持つ、風紀委員長である。
まだ二年でありながら、すらりとした体躯、恵まれた身長、そして道行く女性の9割は振り返るだろう整った美形のフェイス。良いとこばかりを詰め込んだような彼が入学早々に風紀委員に入り、一年後に前委員長から直談判されてトップにたつのは、やや贔屓目も感じられるが必然だったかもしれない。
だが、すべての体育会系、演劇、吹奏楽部のスカウトに見向きもせず風紀委員に加入したのは、ある種の謎である。
さて、日々学園の秩序を守るために奮闘する彼だが、当然モテないはずがない。どうもラブレターの数はあの木場をも上回るという。だが、本人としては快く思っていないらしく交際の噂はめっきり聞かない。
で、そんな彼が率いる風紀委員が最重要懸念事項としているのが。
「さぁて、弁解があるなら聞くぞ・・・あ?」
「「「・・・」」」
言わずもがな、馬鹿三人組である。
現在、四季悠希は武器を警策に持ちかえ、今年度より増えた予算で作った懲罰房に三人を正座させていた。警策とは、よく座禅中の行者の肩に住職が打ち込む、アノ棒である。しかも特注で、質量は当社比三倍増し。それを軽々と弄ぶ四季悠希の腕力を疑いたくなる。
「さぁて罪状だ・・・ま、簡潔にいえば公然わいせつ罪だな。この学園でいえば新規約第十六条に抵触。異論は?」
「・・・ないです」
「罪人はぁ〜っと、はあ、いいや。もう何遍読み上げたか分からないものな?」
「あ、あの。僕たち、まだおっぱいの"お"の字も」
「アァ"!?」
「ごめんなさい嘘ですだからその松田のカメラ持ち上げながら威嚇しないでミシミシいってるから!?」
「・・・偽証罪、追加」
淡々(?)と取り調べは続いていく。三人とも、最早地獄を垣間見たような、生気の抜けた顔になっていた。
そんな彼らなど目もくれず、何やら机上にプリントを積み上げていく。冷徹な微笑を浮かべながら。
クラス一つ分の教科書並の体積の紙の山が、無慈悲にも一人一人の前に置かれる。
「じゃ、これ。前回サボった分もな」
「・・・え?あの、これ」
「ああ、筆記用具か。ほら私のを貸してやる」
「いや、これ、明らかに何時もの倍は・・・」
ダンッッッ!!
机が強烈な震動を起こし、ビクリ、と三人が身を縮こまらせた。
震源である彼は、パシンパシンと警策を持ち直し、底冷えした、冥府よりもおぞましい声色で告げる。
「私もなァ、考えたんだよ。年頃のオスだもんな、性欲は押さえられないよなァ?つうわけで、そんな欲もでないくらい」
−−−更正させてやる。
「醜く、汚く、哀れなくらいに堕ちた"黒"を、この私が、空よりも、洗濯したYシャツよりも、天使よりも純粋な"白"に染め上げてやる」
「安心しろ、今回は昼休みまでは私も付き合ってやる。何、あと一時間くらいだ。死ぬ気でやればできるさ」
その後、ノルマと警策計153発を耐え抜いた彼らは、確かに白な、真っ白な灰となってその日を終えた。
***
−−−キャ―ッ!四季様よ、四季様の下校よ!
−−−あのクールビューティーさが癖になるわ!
−−−ああ、静かに消え行くため息もその悩ましげなお顔も魅力的!
−−−四季×木場は?
−−−・・・(グッ!)
−−−いつこの婚姻書渡そうかしら?
−−−いや、それはまずいよ。
後ろで騒ぐ彼女達にも、流石に一年もすればなれてしまった。入学当時はまだヒソヒソで済んでいたのが、風紀委員に入った頃から露骨になり、委員長に就任した日から耳を塞ぎたくなるくらいにばか騒ぎになった。それはどうやら木場佑斗も同じらしく、離れたところで何やら騒いでいる。まあ、彼と話したことはほぼないが。品行方正な白だし。一度も女と遊んだことがないとか、当初は疑ってしまった。
(だけど、まあ、昔よりは充実しているなぁ)
中学の頃は・・・いや、今更いい。思い出す価値もない。
ああ、そういえば彼のカメラのデータ、消しちゃったけど・・・いっか。黒だし。
校門をでて、近所の煙草屋の角を曲がる。しかし、煙草も私からしたら黒だ。喫煙者は、いってみれば薬物依存者に類似しているのだろう?人の楽しみを奪うのは黒だが、それを新しい世代にも押し付けようとするのも黒だ。いっそ国が管理して限定販売すればいいのではないか?あ、でも煙草業界の人々が苦しむか。ボツ。
こんな身近にだって、社会には曖昧なものが明らかに多く存在している。そんなもの一々指摘出来ない、なんて思うかもしれないが、私は悔しい。一介の風紀委員長でしかない自分が、情けない。
いつか、きっとこの世にすべて明瞭に白黒つける。それが、私の理想だ。
(理想の実現は、余りにも遠いけど)
おっと、そんなこんなで家に着いたようだ。合鍵を取り出し、鍵穴をまわす。
ガチャリ、と無機質な音とともにドアは開いた。
「ただいまぁ、っと」
返事は来ない。ま、それも当然。父はもう他界し、母は夜の営業だ。基本、家の世話は私が行う。
「まずは、着替えますか」
鞄を置き、シャツとズボンを脱ぎ、そして胸のサラシ|(・・・・・)を解いた。
シュルシュルとサラシは床に落ち、こぶりの胸が露になる。
「別にいいんだけど・・・やっぱ、大きくなってないなあ・・・」
男装に都合がいいとはいえ、ここ数年くらいBカップから変動していない。全く、非常に微妙な気分だ。
そう言えば、あの元浜とか言う黒に初対面で、
『む、男・・・いや、わかる、わかるぞ!ズバリなn』
竹刀の柄で額をぶち抜いてやった。
駒王学園で男装がバレそうになったのは、後にも先にもあの時だけだ。
彼にトラウマを植え付けてしまったとはいえ、今日はそこも含めてせn・・・ゲフンゲフン白に更正させたので問題ない。
「髪も、そろそろ切ろうかな?」
鏡で姿を確認している最中、どうにも馬鹿馬鹿しい気分になってきた。
だってそうではないか。
秩序を守る存在が、一番の詐称をしているのだから。
だが、今更やめられない。
周りの反応も怖いし、何よりも・・・、
ピピピ、とキッチンから不意に電子音がなった。
「・・・ああ、今朝、炊飯器セットしたんだった」
急いでジャージに着替え、部屋から出る。
「理想の実現って、ホント、キツイなぁ・・・」
ボソリと呟き、ポットに水を注ぐ。
コンロに点火し、彼女は、ボンヤリとその青白い炎を見つめていた。
***
堕天使レイナーレは、とある機器を前に、ウンウン唸っていた。
「はァ〜、メンド。本ッッとめんどくさっ!!」
彼女の悩みは、正体不明の神器についてだった。
彼女はあろうことか敵である悪魔・グレモリー領の協会で立身出世に関わる計画を遂行しようとしていた。
その障害。まあ、グレモリーはそこまで過激でもないし、気づかれても黙認しているだろう。卷族に干渉さえしなければ問題ない。
問題は、人間でかつ未発現の神器持ちの奴らである。
「兵藤一誠・・・そんで四季悠希、ねえ」
兵藤はともかく、四季悠希の方は顔だけなら中々に美形だ。堕天使の仲間にも見せたところ、口々にイケメンだと答えた。
「ま、人間だし?どーせコイツも女を見下してるんでしょ」
今思い出しただけでも苛々する。あの日、人間にたぶらかされて堕天した日のことを。
「あんの腐れホストが・・・!アザゼル様と比べたらカスよ、カス!」
過ぎた日のことはとりあえず置いといて、問題は二人の処遇である。
特に友好関係のない二人を同時に消すのは流石に無理がある。結界の手間がかかるが、バラバラに消す方が確実だ。
「なんにせよ、様子見ね」
そう呟いて、神器探索用の機器の電源を切った。