チート転生トレーナーと新妻スズカさん 作:ウマウマ
プチ合宿が終わり、G3新潟ジュニアステークスをスズカは勝利した。
スズカに勝てそうなタイキやドーベル。他にも有力なモブと言いたくないが、ウマ娘が居ないので当然と言えば当然の勝利だ。
有力なウマ娘はスズカを警戒して他の重賞レースに出走した。
新潟ジュニアステークスで勝利した結果、朝日杯フューチュリティステークスへ出走登録をした。
さて、ジュニア級のG1に出ることになったので、スズカは勝負服を作ることになった。
勝負服はウマ娘にとってはとても大事なモノだ。
なので勝負服については担当のトレセン学園の方達とスズカに任せた。
ちょっと過激なデザインの場合、トレセン学園側からストップが入る。
まあ、アプリ版の勝負服を知っているので何の心配もしていなかったのだが。
「スズカ」
「か、駆さん、でもこっちのデザインの方が」
「分かった。分かったから、その薄い本を仕舞いなさい。お願いだから」
「やー……」
やー、って。いやいや、するスズカ。
子供っぽい仕草だが、寂しがりやでちょっと甘えてくる時はこんな感じだったな。
俺は静かに溜息を付いた。
どうしてこういうことになっているのかと言うと。
トレセン学園の勝負服の担当スタッフとの打ち合わせの当日。
俺はトレーナー室で、書類仕事をしていた。
そして、勝負服の担当女性スタッフから連絡を貰った。
『確認ですが、本当にこういう感じの勝負服でよろしいのですか?』
「はい、勝負服はウマ娘にとって自分の理想のようなモノだと聞いています。スズカが望む形でお願いします」
『……質問ですが、駆トレーナーはこのデザインをご存じないのですか?』
「ええ、まだ教えてもらっていません。スズカのことですから、清楚と言うか、物静かなお嬢様系のデザインでは?」
『レースクイーン風です』
「……はい?」
『際どい、覚悟が無いと着るのに躊躇するレベルのレースクイーン風の勝負服です。もちろん、色々と手直しすれば勝負服として登録は出来ますが。よろしいですか?』
「今すぐそちらへ向かいます!」
そして、俺が打ち合わせをしている部屋に入ると、困った表情の勝負服の担当スタッフとスズカ。
机に広げられている、この世界で見つけた一応、全年齢だけれどピッチリスーツ系の神イラストレーターの薄い本が数冊机の上に置かれていた。
その瞬間、俺は悟ったね。
あ、スズカのヤツ。わざわざ、買いやがったのかと。
事情を説明すると、こうだ。
俺は普段ネットで買い物する時は、一人暮らしをしている家の方に荷物が届くようにしている。
だが、先日俺はスズカのトレーニングで使う蹄鉄やクールダウンに使うコールドスプレーなどを購入して、スズカと同棲している方へ送った。
そして後の買い物で、今机の上に置かれている薄い本を購入する時に、届け先を変更せずに同棲している家の方の住所のままで薄い本を注文した。
結果、スズカが薄い本の入った荷物を受け取って、「これ、何かしら? 蹄鉄とかはもう届いたけれど」と、思わず中身を確認してしまった。
一つ前の買い物が届いた時に俺は迂闊にも「あ、今後も荷物が来たら受け取っておいてくれ。代引きは頼まないから来たら断ってくれ」と。
その日は、一悶着合ったが、その話はそれで終わった。
薄い本も即座に一人暮らしをしている家に持って帰った。
うん、終わったと思ったんだけどなぁっ!!
「スズカ、その薄い本は?」
「その、速そうな衣装だったので参考に買いました……」
三分の一くらいは本当だろう。確かにレースクイーンの衣装って速く走れそうなイメージはある。
バイクや高級車が写っているしな。
「スズカ」
「えっと、こういうデザインがいいです!」
先手を打って大声で自分の意見を主張するスズカ。
スズカは意外と頑固だ。
一応、説得した。
勝負服の担当スタッフは、デザイナー達からスズカ用の勝負服のデザイン画を預かっていた。
ウマ娘から「こういう感じが良いです!」と言うことは多いが、デザイナーからしかもデビューしたばかりのウマ娘が勝負服のデザインをオススメされるのはかなり珍しい。
デザイン画の中には俺の知っているアプリ版のデザインももちろんあった。
「駆さん、駄目ですか?」
スズカのちょっと泣きそうな表情の上目づかいでお願いされてグッときてしまう俺。
かなり心が揺れていたが、ここであっさりと了承するのは流石にトレーナーとして問題だろう。
好みかどうか聞かれれば即座にOKを出したい。
なんなら、他にも衣装のアイディア出したと思う。我慢するが。
俺はちらっと勝負服の担当スタッフを見るとうんうん唸りながら、「まあ、細かい修正は必要ですが、行けますよ」と言われてしまった。
担当スタッフの彼女が言うには、過去にはもっと凄い際どいデザインもあったらしい。
そう言う意味ではスズカの提案したデザインは問題ないらしい。
特にスズカは今の世代では最速のウマ娘と呼ばれている。速さが目立っているので、レースクイーン風の勝負服は合っている。
強いて言うなら、スズカが清楚なイメージなのでレースクイーン風の勝負服のバランスが難しいと言われた。
ちなみにタイキシャトルなら即座にGOサインを出したと後に知った。
スズカは細身だからちょっと難しい勝負服のデザインだったようだ。
「トレセン学園的に本当にいいんですか?」
「デザインのバランスが難しいですが、タイキシャトルさんとは違った魅力になるかと」
色々と話し合った結果、布地面積の多めの上下のビキニをベースに上はジャケット。下にはショートパンツとなった。
スズカの太腿はムチムチしてないので、そこまで破壊力は無い。
と言うか、後日スズカも試作品を身に着けて、自分でもちょっと首を傾げていた。
恐らく薄い本みたいにむっちりとした艶っぽい感じをイメージを持っていたのかもしれない。
俺は似合ってないとは言わなかった。と言うか、似合っていないわけではない。
方向性の問題だろう。スズカが目指していたのは色気。
けど、スズカが着ると健全な感じになった。
勝負服担当のスタッフ達にはちゃんと高評価だったし、様子を見に来たたづなさんやタイキとドーベルも似合っていると言っていた。
「スズカ」
「駆さん」
「とっても似合っているよ。スズカが見てみたい景色を見る為にもってこいの勝負服だと思うぞ」
「え、覚えていたんですか?」
「何がだ?」
「その、私の見たい景色のこと」
「ああ、ちゃんと覚えているよ。前にそういう大事な話はしただろう? だから、勝負服のデザインでレースクイーン風の勝負服だと言い出した時、俺の好みに合わせているのかと思ったよ」
「え、えっとそれもあります。けど、駆さんが買った本のああいう服のイラストを見て、直ぐにこれが良いって。それに、カッコいいなって思ったんです。大勢の前で堂々としている姿に」
と、スズカは教えてくれた。スズカは知り合い以外には割とドライだ。
最近ファンへの対応が出来るようになったが。
やはり、スズカはあまり、人が得意ではない。
新潟ジュニアステークスの時も囲まれて取材を受ける前、ちょっと嫌そうにしていた。
こうして、色々と問題はあったが。
露出面などの問題もクリアして、スズカの勝負服は完成した。
ちなみに、タイキの勝負服が原作どおりで、スズカもビキニになったので。「このさいデース、ドーベルもビキニタイプの勝負服にするデース! 三人でお揃いにしましょう!」と騒いでドーベルを困らせていた。
「スズカ」
「はい?」
「改めて、似合っているぞ。その勝負服」
しばらくして、勝負服は完成した。
トレーナー室で勝負服を着たスズカがクルッと回り。俺に勝負服を見せてくれる。
「ありがとうございます。実は駆さんが嫌だったらどうしようって思ったんです」
「大丈夫だ。戸惑ったけど、その勝負服のスズカはとても魅力的だよ」
「こっそりイラストレーターさんの名前を覚えておいて良かったです」
「ははは、その辺はマジで勘弁してね。性癖が婚約者にバレるのってこんなにも恥ずかしいんだって思い知ったから」
「ふふふ、はい、分かりました。でも、これからも色々と教えてもらいますね」
可笑しそうに笑うスズカを見て、俺はまいったな。と内心で苦笑いをした。
ムチムチなウマ娘が着ていたら色々危なかったが、細身の清楚系のスズカが着ているからまだ平気だ。
ある意味でスズカは当たりの勝負服を選んだんだなっと、俺は納得することにした。
◆
――とあるスズカの後輩のモブウマ娘達。
勝負服を着てのトレーニングは回数は多くは無いが重要なトレーニングだ。
当人たちはG1での勝利を目指して勝負服を着た状態での走りに違和感がないかを確認する。
だが、当人ではない。第三者的にはこのトレーニングは見ていて楽しいものだった。
「凄いね、ジュニア級の先輩達の勝負服」
「うん、羨ましい」
「今回も結構色々と凄いね。特にタイキシャトル先輩とスズカ先輩の勝負服」
「うんうん、タイキシャトル先輩はもう大きいし」
「スズカ先輩、パラソルまで付いててビックリしたよ」
「うん、スズカのトレーナーさんが何で?って凄く首を傾げてたよね。あれのパラソルってパドックで使うのかな?」
「もしくは、勝利した時や撮影の時に使うのかな?」
「小物付きの勝負服かぁ、それもいいかもね」
「小物付きって、具体的には?」
「うーん、ラノベの武士娘っぽいので刀とか薙刀とか?」
「ああ、なるほど。魔法少女風だったら、杖とかだね」
「不安はあるけど、いいよね。勝負服」
「うん。あ、あれってメジロドーベル先輩だ!」
「え、どこどこ?」
二人のモブウマ娘はそれからしばらくの間、夢中で勝負服の話題で盛り上がっていた。