チート転生トレーナーと新妻スズカさん 作:ウマウマ
トレセン学園に来て、スズカの育成は順調に進んでいる。
長距離は走らせない。これは既にスズカに伝えているし。
既にスズカも自分が長距離に向いていないとトレーニングの中で相応に理解しているので否は無いようだ。
無事にメイクデビューが出来た後の進む路線についてはティアラではなく、王道のクラシック路線ではあるが。
菊花賞が長距離なので、三冠は目指さないことになった。
そもそも、スズカは気持ちよく走れさえすれば、絶対に出走したいとか、目標のレースは無い。
ま、今の目標はジュニアのG1の朝日杯かホープフルステークスとなった。
アプリゲーの影響で「いっそのこと、出れるなら両方とも出るか?」と聞いたら、スズカが出ていいんですか? と聞いてきたのでスズカやっぱり先頭民族だと改めて思った。
ま、ゲームではないから、ジュニアのG1二つに出走させることはしないけど。
秋の天皇賞の前に怪我で引退となったら、流石にスズカに申し訳ない。
「秋の天皇賞か」
史実だとスズカは安楽死。アニメだと故障。ゲームだと乗り越えた。
この世界だと、どうなるのだろうか? 念の為、回避させるか方向で行こうかな。
「駆トレーナーさん?」
「ああ、すまない。ちょっとボーっとしていた」
今日は雨が降っているので、スズカと共にトレーニングルームへ。
スズカはランニングマシンでスピード上げをしていた。
「えっと、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。それで、メニューは終わった?」
「はい」
「じゃあ、脚を確認させてくれ」
近くの青いプラスチックの四人くらい座れるベンチにスズカを座らせて、脚の確認をする。
特別なトレーニングはしていない。ただ、スズカの体力のぎりぎりまで毎日追い込んでトレーニングをするので、小まめに身体のチェックをしている。
と周りには思わせている。俺の眼にはスズカの体力が見えるので、こういうことはしなくてもいいのだが。
あまりにも何もしないと周りから何を言われるか分からないからな。
「問題なさそうだな。もう一度、ランニングマシンで」
俺は次をスズカに伝える。
そして、スズカは何も言わずに頷いて、トレーニングを開始する。
スピード、スタミナ、パワー、根性、賢さ。
順調に上がっている。この調子なら、メイクデビューは問題ないだろう。
「おう、順調そうだな」
「沖野トレーナー、こんにちは」
一度、沖野トレーナーの方を見て挨拶をして、俺は再びスズカをしっかりと見守る。
沖野トレーナーも俺のその対応を見て、何も言わない。
トレーナーとして、担当ウマ娘から目を離さないのは当たり前だからだ。
ま、ちょっと塩対応された? と普通の人なら思うかもしれないが。
「聞いたぞ、スズカに如何わしい下着を着せているらしいな」
「違います。祖母が原因です」
「分かってるよ。けど、あの一件で担当ウマ娘が積極的になったとトレーナー達が頭抱えていたぞ」
「ああ、アレですか」
ま、ウマ娘も年頃の女子だ。恋愛と言う意味で担当トレーナーを想う娘もいるだろう。
「チームの部室に入ったら、担当ウマ娘たちが下着のカタログを広げて、自分にも好みを聞いてきて返答に困ったとか」
「あはは、それは大変でしたね。あ、それで最近、たづなさんが見回りを強化したんですか?」
「ははっ、ああ、ちょっと危なかった場面にも遭遇したらしい」
俺は静かに両手を合わせ。
「成仏しろよ」
「死んでないから。いや、社会的に死にかけてはいるがまだ無事だ」
「それで、本題は何ですか?」
「いや、無いぞ? 様子を見に来ただけだよ。二人のな」
「お手数をおかけします。大丈夫ですよ」
俺がそう言うと沖野トレーナーはスズカと俺へ視線を向け。
「ま、それならいいさ。ただ、ゴールデンウィークとか気を付けろよ。そろそろだし」
「はい、それはまあ。ですが、どこかに出かける予定は無いですよ?」
「一応は気を付けろってことさ。なんか、気分が乗ったから初めての担当ウマ娘と小旅行へ行って、何らかのトラブルで学園に帰ってこれなくて旅館やホテルに泊まり、責任を取らなくてはならなくなった。というトレーナーってたま~にいるんだよ」
「怖っ」
「うん、新人トレーナーには必ず、こういうことを伝えることになってんだ。そう言うわけだから、気を付けろよ」
「はい」
そう言うと沖野トレーナーは、去って行った。
そして、俺はスズカを眺める。
うん、俺的には身体はもう少し肉が付いている方がいい。スズカはアスリートとしては細身だ。
それでも、スズカは魅力的なウマ娘。いや、女の子だ。
色気があるんだよな。何故か。
顔立ちも、髪も、声や仕草。
「可愛いな」
俺が何気なくそう呟いた瞬間。
「――っ!?」
ランニングマシンで走っていたスズカが突然ビクッと身体を震わせて、バランスを崩した。
「スズカ!?」
「だ、大丈夫です!」
スズカは直ぐに体勢を立て直した。
ビックリした。突然なんだ? と思いながら、スズカがメニューを終えるのを待って話を聞くと。
「集中している時に突然可愛いと言われたので、驚いてしまって」
「え、ええ」
「その、集中して走っていましたけど、トレーナーさんから指示が来てもいいように、ちょっとだけ意識を駆トレーナーの方へ向けていたので」
「器用だな。でも、まあ、出来なくはないか」
俺は「邪魔してすまなかった」と言うとスズカは「いえ、その大丈夫ですから」と答えてくれた。
それから、俺達はギリギリまでトレーニングを行い。
部室へ戻る。
「あ、お帰り」
「戻りました」
トレーニング後、スズカをシャワー室へ向かわせ、俺は部室の後片付けをしてスズカが来るのを待った。
トレーナーとしての仕事があるなら、スズカを先に寮へ返したが、今日は問題なく二人で帰ることが出来たな。
部室の戸締りをしっかりと行い。俺とスズカは帰宅する。
「トレーニングも順調だな」
「はい、私前よりも速くなったなって感じます」
「それは良かった。タイムも良くなっているからな」
一緒に帰る時、話すことは走りのことだ。それが終わるとプライベートの話になる。
「ゴールデンウィーク。どこか行きたいか? 一日くらいなら、どの道休日を作れそうだが? あ、友達とどこか遊びに行きたいか?」
「いえ、その行きたいと言えば行きたいですけど、良いんですか?」
「メイクデビュー前だからな。本来ならみっちりとトレーニングをさせた方がいいのかもしれないが。トレーニングを詰め込んでもな。適度に休憩を挟まないとケガする」
スズカは少し、悩みながらも。俺と出かけたいと言ってきた。
「どこに行きたいんだ?」
「その両親と遊びに行ったことのある、自然公園です」
「自然公園?」
アニメのロリスズカが走っていたようなところか? と思っていたら、そうだった。
ウマ娘が走れる芝生がある自然公園はそれなりにある。
スズカが行きたいと言った自然公園も結構有名なところで、俺達はゴールデンウィークの時に一日だけ出かけることにした。
「ピクニックだな」
「そ、そうですね! ピクニック。えと、お弁当作ります!」
「楽しみにしているよ」
レジャーシートとか色々買わないとな。それと電車の時刻も調べておかないと。
「今から楽しみだ」
「はい」
メイクデビュー前だ。一日も無駄には出来ないだろうが。
それでも、ここで休みを入れるのは大事だ。
スズカは走れないと直ぐにストレスを感じるらしい。
ピクニック当日は思いっきり走らせてやろう。
◆
「駆さん! はやく!」
「はいはい」
俺は入園料を支払い。自然公園のパンフレットを受け取り。スズカと共に自然公園内へ。
「割と人がいるんだな」
「そうですね。やっぱりゴールデンウィークですから」
新しく、レジャーシートなどを入れる大きめのスポーツバッグを肩にかけながら、俺はスズカと手を繋ぎながら、予めスズカが行きたがっていた広い芝生へ移動する。
俺達以外にも親子連れや恋人達がそれぞれレジャーシートを敷いて、くつろいでいた。
「うーん」
「どうした?」
その光景を目にしたスズカが少し難しそうな表情をしたので、俺が問いかけるとスズカは俺に教えてくれた。
「その、流石に向こうの方は大丈夫そうですけど、人が多いなって」
「ああ、確かに。そうだな。走り回りたいなら、一番奥の方へ行こうか。そこなら人も少ないだろうし」
「そうですね。出来ればこう、全体を走りたかったですが」
「まったく。俺の目の届く範囲で走ってくれよ」
「は、はい、分かっています」
俺達は予定していた場所よりも自然公園の入り口から遠い場所にレジャーシートを敷いて、のんびりすることになった。
「直ぐに走るか?」
「はい! あ、いえ、その……駆さんとお話をしようかなって」
「無理しなくていいぞ? 最近、雨もあったから、室内トレーニングが多かったし」
「い、いいんですか?」
「ああ、ただし。止め! と言ったら、走るのを止めること。怪我したら大変だからな」
「はい」
そして、スズカはパーカーを脱いで走り出した。
一応、婚約者同士のデートではあるが。スズカは走ることを前提としているのでスカートではない。
と言うか、ラフな格好だ。
ちょっと残念だな。と思っていた。
嬉しそうに走るスズカを見て、まあ、いいか。と俺は考えを改めた。
それから、しばらく俺はスズカを眺めながら、多分こうなるだろうなと思って、ちょっとだけ持ってきた書類仕事を片付ける。
ま、それもすぐに終わり。
途中で走り回っているスズカを見て感化されたのか、小さなウマ娘達が集まり出して。
「スズカ! 小さい子にゆっくり走っている時に前を取られたからって、ムキになるな! 速度を落とせ!! 子供達を置いてくなっ!!」
ムキになって、子供たちを置いて先に行きそうになったスズカに俺は叫んで、スズカの元へ走った。
突然、凄い勢いで追い抜かされて、置いて行かれそうになった小さなウマ娘達がちょっと泣きそうになったので俺はかなり慌てたが、杞憂だった。
その後、小さなウマ娘達に持ってきたお菓子を分け与え。
保護者の方達も集まってきて、少しだけ雑談をした。
「ウチの娘が――」
「いえいえ、スズカが驚かせて――」
「なるほど、トレセン学園の生徒さんでしたか――」
「はい――」
などなど、俺と保護者の方達が話している間。
スズカは俺が上げたお菓子とお茶を楽しむ小さなウマ娘達に速く走れる方法を聞かれて、分かりやすく教えるのに苦労していた。
だが、結果としてその苦労はスズカにとっては、よい影響を与えたようだ。後にスズカが自分を応援してくれるファンについて悩んだ時、ここで出会った小さなウマ娘達のファンレターがスズカのためになったのだから。
「ここって、意外と有名な所だったんだな」
「そうですね。私の時はお父さんの仕事の関係で、時期がずれて人がほとんどいませんでしたけど」
「ああ、今日は沢山人がいるな。それとウマ娘も」
そこそこ小さなウマ娘の保護者達とそこそこ話をした後、俺達は自然と解散。
小さなウマ娘達が「お姉ちゃんみたいにはやくなるね!」と言われて、スズカは「楽しみしているわ」と何故か闘争心を燃やしていた。
小さなウマ娘が言っているんだから、微笑ましいで良いじゃないかと。俺は言ったのだが。駄目らしい。
やっぱりスズカは先頭民族だわ。
「そろそろ、昼にするか? 思ったよりも時間の進みが早いな」
「そうですね。じゃあ、食べましょうか」
大きめのランチボックスが三つ。大量のサンドイッチとから揚げなどのおかずが入っていた。
「駆さん」
「ん?」
「あ、あーん」
ちょっと頬を紅くしながら、スズカは爪楊枝に刺した唐揚げを俺に差し出してくる。
俺は思わず笑ってしまうが、直ぐにスズカの差し出されたから揚げを食べる。
「ん、旨いな」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ」
俺は少し考えて、隣に座るスズカとの距離を縮めた。
スズカの顔を見るとちょっと驚いていたけれど、スズカもちょっとだけ俺の傍に寄ってくれた。
その時だ、風が吹いた。そこまで強くない風だったが。少しだけ肌寒いと感じた。
「風が吹くとちょっと肌寒いな」
「そ、そうですね」
俺がそう言うとスズカは俺に寄り添ってくれる。
「ありがと」
「い、いえ、駆さんは嫌じゃないですか?」
「嬉しいさ」
俺がそう言うとスズカは少しだけ不安げな表情で俺に聞いてきた。
「……駆さんは誰かスカウトしたいウマ娘はいなかったんですか?」
「ん?」
「その婚約者と言うことで、私は駆さんと契約することになりました。駆さんは私のことを気にしてくれていますけど。駆さんは嫌じゃなかったんですか?」
「そうだな。そう言えば、俺はスズカには聞いてばっかりでそういうことを言ってなかったな」
俺の言葉に頷くスズカ。俺は年上だからな。色々と、スズカのことを気にかけていたけれど。
スズカ的には迷惑をかけていないか、とか俺が我慢しているんじゃないかって思っていたのか。
「お見合いの時点では、スカウトしたいウマ娘はいなかったぞ? 情報もなかったし」
「はい」
「それに、新人トレーナーだからな。スカウトしても受け入れてもらえる可能性は低いぞ?」
「そうですか?」
ちょっと落ち込み気味のスズカに俺は言っておく。
「スズカで良かったと思っているよ」
「それは」
「そのままの意味。本当に素直にそう思っている」
俺はスズカの手に自分の手を重ねる。
「か、駆さん」
恥ずかしそうに、俺の手を受け入れてくれるスズカ。
俺はそのまま、自分の手とスズカの手を恋人つなぎのように絡み合わせる。
「嫌か?」
「い、いえ、全然そんなことないです」
「これから、隠し事をしないといけないこともあるかもしれないけど。こうして、話し合っていこうな」
「はい」
頷くスズカ。俺は空いているもう片方の手で爪楊枝掴んで唐揚げを差し出す。
「と言うわけで、はい、気を取り直して、あーん」
「あ、あーん」
もぐもぐと唐揚げを食べるスズカ。
小動物みたいで可愛いな。
「唐揚げ、良くできていると思うけど、スズカの自己採点はどうだ?」
「んぐっ、はい。良いと思います」
もぐもぐしながら、笑みを浮かべるスズカが可愛くて、抱きしめたくなるが。
ちょっと遠くの家族連れ達からの視線が強くなっている気がするので、自重しておく。
結果的に、周りに人がいる時にやったこのやり取りが。スズカがデビューした後に婚約者がいると知られても炎上しない理由の一つとなった。親子で応援してくれるファンがおおくなったからだ。
どこの世界にもガチ恋ファンと言えばいいのか? そういうのは存在するけど。
最初から婚約者がいると分かっていれば、ファンもそれを理解した上で応援してくれる。
この時の俺達はそんなこと全然考えていなかったけれど。
ちょっと歌詞が大人向けだけど。
スズカに【寄り酔い】を歌ってほしい。