チート転生トレーナーと新妻スズカさん 作:ウマウマ
たづなさんに紹介されたお店はかなりの高級店だった。
事前にたづなさん経由で連絡がされており、俺達も到着時刻を聞かれたので俺達が店に到着すると、お店の従業員総出で出迎えてもらった。
葉山さんという偉い女性に店内を案内してもらい、お店とウェディングドレスについて軽く説明を受ける。
そして、店内に展示されているウェディングドレスをスズカと共に見て回っているのだが。
「あー。スズカ、ドレスの値段を聞いて固まらないでくれ」
「で、でも、駆さん。このお値段はさ、ささ、さんびゃくまんえん……」
「あまりこういうことを言いたくはないが、スズカの父親の会社の借金と比べればかなり安いぞ」
「た、確かに比べるモノではないですが、ウェディングドレスが三百万円って!!」
「ちゃんとしたモノだから、高いのは何十万するさ。それにここはランクも高いお店だ。高いのだと際限ないと思うぞ」
ちなみに今現在、スズカは値段を知らずに三百万円のウェディングドレスを試着させてもらっている。
確かスレンダーラインだったか?
それとこのドレスは恐らくお店の試着用専用のモノだろうな。フリーサイズっぽいことを言っていたからな。
スズカはお嬢様だが、そういう高い物に囲まれて暮らしていなかったらしい。
だからこそ、ふと気になってしまったんだろうな。スズカは従業員につい値段を聞いてしまった。
案内してくれていた、葉山さんが確認するように俺を見たので、俺が頷いてから値段をスズカに教えたのだが。
「スズカ、あまり値段は気にするなよ。幸いに俺はちゃんと金がある。寧ろ金があるのにこういうところでケチると社会的に死ぬから安心してくれ」
「で、ですが……」
「必要経費でもある。だからこそ、しっかりとスズカが気に入ったドレスを探せ。……婚約者らしくしないとってスズカが言ったんだぞ。俺の年収が低いなら現実的に遠慮する必要もあるだろうが。そうではないからな安心しろ」
「そ、それは……」
デビュー戦を勝利した後、スズカの両親の借金の一件をさっさと終わらせたのは本当に失敗だったな。
最近、練習にも身が入っていなかったし。婚約者らしいことをってどこから空回り気味だったから。
「まあ、スズカは未成年だし、気にするなと言っても難しいかもしれないが」
「は、はい。でも、気にしない様に頑張ります」
「そうしてくれ、本当に値段は大丈夫だからな。それと婚約者なら、綺麗な姿をもっと見せてくれるとありがたい」
「その、良いんですか?」
「ああ、スズカの綺麗な姿は沢山みたいからな」
気恥ずかしそうに俯くスズカ。こうして、スズカのファッションショーが開催された。
葉山さんから「是非、写真に収めたいのですが」と言われたので、スズカが良いなら。ただし、店で飾るくらいなら問題ないかもしれないが。雑誌などは止めてくださいね。と伝える。
一応、撮影することをトレセン学園。たづなさんにも連絡を入れておく
スズカとトレセン学園側からも許可も出たので、この日のベストショットの一枚がこのお店に長く展示されることになった。
「スズカ、ドレスの代金が高いと思うなら、レースで勝利しろ。勝つことが出来れば、後で俺に金を返せばいい。まあ、返されても困るが」
「そ、そうですね。受け取ってはもらえないのですか?」
「未成年の婚約者にお金を返すって言われたことが世間に知られたら、あの二人は婚約者同士なのに仲が悪いのか。と思われるかもしれないからな」
「あぅ」
スズカとそんな話をしていると、従業員達があれやこれやとお勧めのウェディングドレスを持ってくる。
スズカは三着目のマーメイドラインのウェディングドレスを試着する。
最初は値段に驚き緊張していたが、何着か試着して撮影したら、スズカは精神的に落ち着いてきた。
「ウェディングドレスは俺から、スズカに送らせてほしいけどな」
「駆さんには、その沢山もらっています。本当にこんな高価な物まで貰って良いのかなって」
「正直、ドレス代は借金の総額と比べると微々たるものだぞ? それに俺は俺でスズカから貰っているんだぞ?」
「え、貰っているって、何をですか?」
不思議そうな表情で俺の顔を見るスズカ。
そんなスズカに俺は素直に答える。
「スズカと一緒に居られる時間」
まだヴェールを身に着けていないので、俺はスズカの後ろ髪を軽く撫でるとキョトンとしている。
「こんな美少女が俺の婚約者なんだぞ?」
で、金曜日と土曜日は一緒に暮らす。凄い状況だよな。しかも寝る時は同じベッド。
理性がちょっと危ない時もあるけれど。チート能力があるとしても、本当に俺は運がいい。
金は稼げるが、人間関係を良い状態に保つチートなんてものは、俺はもっていないからな。
◆
スズカは考える。
自分の婚約者で専属トレーナーの駆のことを。
新人トレーナーなのにベテランのような知識を持ち。
分かりやすく自分の走りの粗を改善し。限界ギリギリのトレーニングを提案し、自分の走りを良くしてくれる。
逃げ以外の走りを試してみて、敗北を重ねて視野が狭くなり、見たい景色が見れなくなっていた自分を助けてくれた。
「私と一緒に居る時間、ですか?」
「そうだよ。スズカはもう少し自分の容姿が美人だと気づけ。スズカと恋人になりたいって思う男は世の中に沢山いると思うぞ? そんなスズカと婚約者になって一緒に過ごせる時間って男としては嬉しい物だぞ」
「そ、そんなことは……」
「だから、遠慮はするなよ」
「は、はい」
優しい手。とスズカは考える。
婚約者同士になって、お互いに距離があった。どうすればいいのか分からない自分をリードしてくれるのは駆だった。
――手を繋ごう。
――ハグしてみよう。
――一緒に夕飯の買い物に行こう。
最初はぎこちなかった。けれど、今では寮で目が覚めて、ベッドの隣に駆が居ないと寂しく思うようになった。
ちなみに最近ではスペシャルウィークがスズカの抱き枕になっている。
「こ、これはその脚が出てしまいますね」
「スズカの脚はアスリートにしては細いから気にしなくても良いんじゃないか? スカートの部分の丈もミニにしては長いからな」
駆に言われて、スズカは反射的に足を隠そうとしてしまう。
他人からのそういう視線には無頓着だったが、駆に指摘されてスズカは少しずつ意識するようになった。
◆
こういうのって、ミニドレスって言うんだっけか。
全体的に可愛らしい感じのドレスだ。背が高い女性が着るとちょっと危ない感じになるが。
スズカの身長なら問題ないだろう。それに手足も長いから、良い感じだ。
「まあ、他の男達にスズカの脚をあまり見せたくはないかな」
「わ、分かりました。別な物にしますね」
駆がちょっと嫉妬心が混じったことを言うとスズカは気恥ずかしそうに別な物を選び始める。
「あ、気に入ったなら別にそういうデザインのドレスでも」
「いえ。それよりも、駆さんはどんなデザインがお好きですか?」
「俺か? 俺は……」
そこまで言いかけて、俺は全力で奥歯を食いしばる。
――あっぶねぇ! エロゲのドスケベウェディングドレスのデザインを言いそうになった。
流石にスズカにそんなの着せたら駄目だ。
「スズカが心から着たいって思うウェディングドレスが俺の望みだよ」
「え、えっと……?」
ちょっと胡散臭い笑みを浮かべたと自覚はしたが、とりあえずスズカは俺の言葉に納得してくれた。
スズカが気を取り直して、ウェディングドレスを従業員達から進められていると、葉山さんがさりげなく俺に耳打ちしてくれた。
「大人向けのデザインもございます」
「私は一応、教職員です。それとたづなさんが怖いので」
「かしこまりました」
俺は誘惑を断ち切って、スズカのウェディングドレス選びを見守った。
時折、意見を求められて、かなり苦戦したが。
なんとか切り抜けた。
それと今回の来店で購入すると言う話にはならなかったが。
「お世辞抜きに、このお店を使わせてもらいますね」
「ありがとうございます。またのご来店を心よりお待ちしております」
と従業員総出で見送ってもらった。
それと新しいデザインなどのウェディングドレスが登場したら教えてほしいと言うと、カタログを定期的に送ってもらえることになった。
ごめんな、葉山さん。
スズカと結婚を出来るかまだ分からないが。結婚する時は必ず、このお店を使うから。
俺は心にそう決めて。
スズカと手を繋いで、次の目的地へと向かった。
「結構疲れたか?」
「はい、思ったよりも」
「それなら、この後は水族館でのんびり……いや、自然公園でも行くか?」
「いいんですか?!」
食い付きがいいなぁ。やはり、先頭民族だな。
スズカの場合、普通のデートばかりだと、ストレスを溜め込みそうだな。
「まあ、そんなに長い距離を走るのは駄目だぞ。俺の目の届く範囲にいること」
「はい!」
「その前に、その靴だと危ないから。近くのスポーツ店で、ランニング用の靴を買ってから行こうか」
俺の言葉に首がちぎれるのでは? と思うくらいに何度も頷くスズカ。
女の子らしくドレスを選んでいたが。
やはり、結構大変だったんだな。ウェディングドレス選び。
尻尾をぶんぶん振り回し始めたスズカを宥めながら、俺はスズカと共に近くのスポーツショップへと向かった。
結局、その日はランニングシューズとタオルなど小物を購入して。
その後はウマ娘がランニングできる自然公園へ。楽しそうに走るスズカを眺めながら、俺は一日を過ごした。
◆
それから、数日後。
トレセン学園の教職員用のカフェテラスで一息入れていると。
「地獄へ落ちろ!」
「一度ならず二度までも!」
「子々孫々七代経っても祟ってやるからな!」
何人かの男性トレーナーから、何故か恨み言を言われた。
全員年齢もバラバラで、スズカと同期のウマ娘のトレーナーでもない筈だ。
俺、何かやったかな? と不思議に思っていると沖野トレーナーが苦笑いを浮かべながら俺の所へやって来た。
「ウェディングドレスを見に行ったって本当か?」
「ええ、スズカが婚約者らしいことをしないとって空回りしていたので」
「そっかー、ふぅー」
「どうしたんですか?」
「いや、サイレンススズカがウェディングドレスを買ったって話が出回っていてな」
「あー、まあ、そう言う話も出るか」
買ったわけではないのだが。
恐らく、スズカがスぺとかと食堂で話したのを聞き耳立てていたウマ娘達が広めたんだな。
「まったく、ウマ娘って情熱的だってことを忘れてないか?」
「知らないわけではないですが」
「さっきの連中は、契約しているウマ娘達から熱烈なラブコールを受けている奴等だよ」
「ああ、なるほどね。ウマ娘から……達?」
俺は引っ掛かった部分を呟くと沖野トレーナーが苦笑い気味にこう告げた。
「あいつ等、小さいけどチーム組んでるんだよ。で、それぞれ複数のウマ娘から好意を持たれていてな。このままだとハーレム確定だろうな」
「ああ……」
あの人達は、種ウマになる可能性があるのか。
法律上駄目だが、ウマ娘に関してだけは、そういうのは黙認されている。
「大変だなぁ」
「お前、酷いな」
「他人事なので」
俺の言葉に溜息をつく沖野トレーナー。
「ま、気を付けろよ。色々」
「そうですね。流石に気を付けますね」
いくら、学園側に了解を得ているとはいえ。
他のウマ娘達にまで影響が多い気なら、学園側から何か言われるだろうし、気を付けないと。
しかしハーレムか。羨ましいな。
とは思うが昔のようにハーレムが作りたいとは思わないからな。
俺はそう思いながら、ココアを飲みながらのんびり、休憩を楽しむ。
「……コーヒー、飲めないのか?」
「あ、はい」
「意外と子供っぽいんだな」
「常に飴を食べている沖野トレーナーに言われたくないですね」
俺達はそれから、甘味談議に突入した。